め組/代官山UNIT

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●セットリスト
01.故愛(ゆえあい)
02.Amenity
03.マイ・パルプフィクション
04.お行儀の悪いことがしたい
05.余所見
06.1+1=
07.愛をさけるチーズみたいに
08.春風5センチメンタル
09.キキ
10.お化けだぞっておどかして
11.夕方とカミナリ(さよなら、また今度ね カバー)
12.クラシックダンサー(さよなら、また今度ね カバー)
13.あたしのジゴワット
14.夢オチリズム
15.ななこおねいさん
16.500マイルメートル
17.悪魔の証明
18.駄々

(アンコール)
EN01.ぼくらの匙加減
RN02.故愛(ゆえあい)


「《あなたの名前を指でなぞりたい》(“ななこおねいさん”)とか、ここ(頭)おかしいでしょ。そんな曲を、真剣なメロディで真剣に歌えるのは、間違いなく、真剣に聴いてくれるあなたのおかげです」。かつて菅原達也(Vo・G)が、め組とファンの関係をこれほどズバリと見事に言い表した言葉があっただろうか。新体制の5人組となって初のミニアルバム『ユエアイ』を携え、11月から仙台・札幌・大阪・名古屋・福岡と繰り広げてきた「“愛ゆえに、ユエアイ”ツアー」。全国6公演のファイナルの舞台となるのは、東京・代官山UNITである。

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お馴染みラッツ&スター“め組のひと”で賑々しく登場し、フロアに詰めかけたオーディエンスと共に手拍子を打ち鳴らす5人。ひとしきり煽り立てた菅原は「まっすぐに堂々と、『ユエアイ』届けに来ました! よろしくお願いします!」と告げ、アコギを携えて沸々と感情を昂ぶらせるグッドメロディ“故愛(ゆえあい)”を歌い出す。独りよがりに熱くなるのではなく、思考や感情を共有させるための明瞭な歌。それを支える4人も、菅原のビジョンと歌を際立たせる絶妙な距離感でサウンドを繰り出している。「め組の世界観」を愛し、慈しむようなそのパフォーマンスは、オープニングから素晴らしい手応えをもたらしていた。

とはいえ、菅原が勢いよく足を蹴り上げ、出嶋早紀(Key)が饒舌に奏でるピアノのワルツでフィニッシュした“Amenity”や、富山京樹(G)が身を乗り出して鮮烈なギターイントロをぶっ放す“マイ・パルプフィクション”といった辺りは、歌心を大切にしながらも高度な演奏技術に裏付けられため組の爆発力が存分に発揮されている。『ROCKIN'ON JAPAN』2019年11月号のインタビュー時に、ライブ用のアレンジがまったく固まっていないと語られていた新作曲“お行儀の悪いことがしたい”では、ポストEDM時代のディスコロックを躍動させ、怠惰で甘いロマンスの時間を力強く描き出してゆく。

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泣き笑いのファンキーポップ“余所見”では、寺澤俊哉(B)が強烈にスウィングするベースソロを披露するし、個々の見せ場が設けられたステージは見応えたっぷりだ。菅原のエモーショナルなシャウトが織り込まれた“1+1=”に続いては、出嶋がハンドマイクで歌い出す“愛をさけるチーズみたいに”。菅原が手がけるクセの強いメロディと歌詞を、出嶋は完全に自分の歌として血肉化している。繊細なタッチのバンド演奏にも、惚れ惚れとさせられた。

『ユエアイ』リリースに先駆けてMVが公開された“春風5センチメンタル”を披露するとき、春のリアルな風景と心象を歌にしたからリリースが秋になってしまった、ということを、菅原は言い訳なんだか愚痴なんだか分からない語り口で告げていたが、むしろこの歌は移ろいゆく季節を永遠に刻みつけ、いつでも呼び起こすことのできる極上のビートポップだろう。そしてコミカルな情景が転がる“キキ”から“お化けだぞっておどかして”にかけては、くるくると表情を変える心模様が勢いよく描かれてゆくのだけれども、その情報量にしっかりと食らいついて盛り上がるオーディエンスも凄い。

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メンバーがあらためてそれぞれに挨拶するとき、外山宰(Dr)は新作の中で音の「引き算」によって菅原の歌を引き立てる工夫を凝らしたことを熱弁し、また寺澤は、新メンバーとして今回のツアーで各地の温かな歓迎ムードに喜びついつい飲み過ぎてしまったことを、富山は車での移動時に、サービスエリアや目的地近辺でパッと目を覚ます特技についてユーモラスに語る。ライブチケットやグッズにお金を出してもらう活動について、プロとしての純粋な感謝の思いを告げる出嶋のMCも素晴らしかった。

そしてライブ後半は、かつて菅原が所属していたバンド「さよなら、また今度ね」のレパートリーから、ノスタルジックな鍵盤ハーモニカ風のシンセサウンドがなびく“夕方とカミナリ”と、歓喜のシンガロングにまみれる“クラシックダンサー”を披露。富山の雄弁なギター間奏や出嶋の綺麗に嵌るハーモニーまで、今のめ組ブランドのがっちりとした演奏の中に「さよ今」の楽曲たちが生きている。そこから、出嶋ボーカルの“あたしのジゴワット”で楽しく、華やかに繋ぐ流れは見事だ。ポストEDMのロックサウンドとめくるめく展開によって、フロア一面を大きくバウンスさせてしまう“夢オチリズム”は、逃れがたい興奮の渦である。

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本稿の冒頭で触れた菅原のMCを経て、“ななこおねいさん”は真剣なオーディエンスに合唱される様子が美しい。“500マイルメートル”から“悪魔の証明”という最高のリレーには外山の熱いドラムソロも織り込まれ、菅原は「すっげえ楽しい! みんな、《ちゅるりらら》とか言ってくれるんだもん」と何を今更なことを言って喜んでいる。本編を締めくくるのは、年齢を重ねてもふとした拍子に胸の内で暴れ出す“駄々”。感情を解放させるロックの本質に迫ったこの曲が、どっしりとしたサウンドで美しくエモーショナルに放たれるのだった。さらにアンコールでは、なんとこの夜2回目の“故愛(ゆえあい)”が届けられる。「我々5人は、皆さんと分かり合うことを諦めません」という菅原の言葉どおり、1回目の演奏よりもさらに真摯に歌詞を語り聴かせる名演になった。

5人が手を繋いでお辞儀する万感のフィナーレを迎えた後、この夜YouTube上に公開されることになる“駄々”のMVが、いち早くスクリーンで披露された。め組はこの12月に、サーキットイベントJAPAN’S NEXT 渋谷JACK 2019 WINTER(12月8日)とCOUNTDOWN JAPAN 19/20(出演は12月31日)に登場予定だ。この5人の音楽とともに、2020年代に飛び込んで欲しい。(小池宏和)

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