Official髭男dism/パシフィコ横浜 国立大ホール

Official髭男dism/パシフィコ横浜 国立大ホール - Photo by 渡邉一生Photo by 渡邉一生

●セットリスト
1. イエスタデイ
2. Amazing
3. Tell Me Baby
4. 115万キロのフィルム
5. バッドフォーミー
6. Rowan
7. ビンテージ
8. 最後の恋煩い
9. 犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!
10. 旅は道連れ
11. ブラザーズ
12. FIRE GROUND
13. ノーダウト
14. Stand By You
15. Pretender
16. ラストソング
(アンコール)
EN1. I LOVE...
EN2. 異端なスター
EN3. 宿命



Official髭男dism/パシフィコ横浜 国立大ホール - Photo by 橋本歩Photo by 橋本歩

ゴージャスなSEに乗せてゆっくりと緞帳が開くと、ステージにはメンバー4人の姿があった。メジャー1stアルバム『Traveler』を引っ提げた全国ホールツアー「Official髭男dism Tour 19/20 - Hall Travelers -」の最終公演。全国各地を回り再びこの横浜の地へ戻ってきた彼らは、より逞しく、凛としたバンドになっていた。

1曲目“イエスタデイ”を、一歩一歩着実に踏みしめるように、じっくりとドラマチックに届ける。最後に身体を振るわせて《虹の先へ》と歌いながら手を伸ばす藤原聡(Vo・Pf)の姿は、今日しか生まれない物語のプロローグの1シーンのように勇敢に映った。暗転から小笹大輔(G)の放つ“Amazing”のイントロとともに、ライトアップされたステージにはさらにホーン隊3人、パーカッショニスト、キーボーディストで構成されたサポートメンバー5人が登場。9人全員で作り出すバンドのダイナミズムで客席を一気に自分たちの音楽へと巻き込んだ。

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“Tell Me Baby”ではサポートメンバーがクラップを促し、カラフルな照明のなか小笹と楢﨑誠(B・Sax)がユニゾンを見せる間奏で一斉にお立ち台に立つなど、ショウとしてのパフォーマンスも強めていく。だがあくまで彼らのライブの基盤にあるのはグッドミュージックとグルーヴィな演奏。ポジティビティと集中力が通った、妥協なしのサウンドは、さらにこちらの心を高揚させていった。

「今日は5000人くらいの人が集まってくれています。いつもどおり、誰ひとり置いていくことなく全員にグッドミュージックを届けられるように一生懸命やっていこうと思います」と言った藤原は、ピアノと向かい合うと“115万キロのフィルム”を歌い出す。歌詞を一言一言確かめるように大切に歌う藤原。それを楽器隊の音色がソフトに、なめらかに包み込んでいく様子は、まさに楽曲に込められた深い愛情を表していた。

Official髭男dism/パシフィコ横浜 国立大ホール - Photo by 渡邉一生Photo by 渡邉一生

このライブは照明も見事。レーザーシステムを扱わず、あれだけ工夫した見せ方ができるものだと舌を巻いた。“バッドフォーミー”でのリズミカルなライティングはもちろん、天井一面に花火のような明かりが広がる様子に、思わず見惚れてしまう。その豪華絢爛さは、黒を基盤にしたシックなステージと、ホールという厳かな会場とも非常にフィットしていた。音源では打ち込みを多く取り入れた“Rowan”はトランペットやパーカッション、松浦匡希(Dr)のプレイも効果的に響くライブアレンジに。繊細に奏でられるギター、音に落ちていくようなボーカル、それらに潤む憂いの艶やかさに恍惚とした。

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燃えるような想いが迸る“ビンテージ”、穏やかさと高揚を併せ持つ、まさに恋の感情を音に落とし込んだ“最後の恋煩い”を届けると、観客と意思疎通を取る長尺のMCタイムへ。横浜での初ライブの話や、東京でシェアハウスをしていた頃の隣家のファミリーに関する話題などを語ると、藤原は「いろんなタイミングで好きになってくれた方々が集まってくれている空間がすごく好きで。ちょっとずつちょっとずつ音楽仲間が増えていって今があると思っています」と語り、あらためて観客へ感謝を告げた。

「後半戦には麺カタこってりなセットリストを準備しております!」と藤原が呼びかけると、ハッピー感溢れる“犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!”、楢崎とサポートメンバーのサックスパフォーマンス、音楽隊のパレードのように展開していく“旅は道連れ”と“ブラザーズ”を立て続けに披露し、その華やかかつ素朴な人間味を感じられるサウンドスケープに、心があたたかい気持ちで満たされていく。スタジアムロック“FIRE GROUND”はライブを重ねれば重ねるほど大仰でド派手なアレンジになっていくのも痛快。藤原のアドレナリンもだいぶ分泌されているようで、一人ひとりに強く訴えかけるように歌う。HR/HM魂が火を噴く小笹のギターと揃って、これでもかと言わんばかりにタフネスを露にしていた。

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熱をそのまま“ノーダウト”に持ち込んだら、向かうところ敵なし。導入を経てなだれ込んだ“Stand By You”では、麗らかなライブアレンジも然ることながら、観客たちも想いを重ねるように高らかにシンガロングする。ステージと客席が、お互いの作ったグルーヴに身を任せるように空気を高めていく様子は、とても健全だ。この日しか存在しない場所が、その瞬間、たしかに生まれていた。

メンバー4人だけにスポットライトが当たったステージ。客席から「聡くーん!」と呼びかけるちびっ子の声が響き渡る。声のする方角へ顔を向け優しく微笑んだ藤原は、口元に人差し指を当て、鳴り響いたのは“Pretender”。溢れて仕方がない愛をまっすぐ伝える曲であることを実感するのは、彼らが大勢の「音楽仲間」とともに、いまこの瞬間音楽を作っているからだろうか。

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藤原が「こんな素敵な夜を一緒に作ってくれてありがとう」と告げ、本編のラストに演奏されたのは“ラストソング”。キーが高くないぶん、等身大で素朴な気持ちが伝わってくる。今目の前にいる人々にしっかりと届ける――その一点のみをただただひたすら目指す姿が、多くの人の心を惹きつけていた。観客のシンガロングに突き動かされるように、アウトロで立ち上がってピアノを弾きながら歌う藤原。その最中に緞帳はゆっくりと下がり、ステージを包み込む。少しずつステージが隠れていけばいくほど、音が大きくなっていくような気もした。緞帳が降り切ると同時に演奏は終了し、その瞬間に緞帳へ「Traveler」の文字が浮かび上がる。映写機のようなレトロで小粋な演出が、「Hall Travelers」の世界観をより引き立てていた。

鳴り止まないアンコールを求める拍手と声のなか、緞帳の向こう側から聞こえてきたのは“I LOVE...”。ステージと自分たちの間にあるその隔たりを振り払うかの如く、鮮やかな音色を響かせた。藤原が「いろんな心情の人たちに届いてたらいいなと思って音楽を放っていたけれど、音楽仲間が増えていることを実感できたツアーでうれしかった」、「ツアーファイナルに相応しいアンコールをあと2曲持ってきました!」と威勢よく告げると、フルメンバーで“異端なスター”と“宿命”を届けた。飾らないエネルギッシュさで、未来を切り開く力が漲ったパフォーマンス。手を真っ直ぐ差し出して歌う藤原に、リスナーと真摯に向き合う想いが如実に表れていた。

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最後藤原が「9人全員が持つ力を全部出し尽くしました。最高のパフォーマンスができたのは、ここにいるみんなのお陰です。もっといい曲作って、みんなといいライブして、一緒に楽しい時間を共有して――そのサイクルを何度も繰り返しながら、いっしょに歳をとっていくバンドになっていく」と宣言すると、観客からは大きな拍手と歓声が沸いた。この日はツアーファイナルとはいえ、藤原の言葉を借りると「ボーナスステージ」となる延期になった2公演もあり、翌月からはアリーナツアーが控えているという、少々特殊な位置づけの日。だからこそアルバムのテーマでもある「旅の途中」という意味合いがより強く響いてきた。脂の乗った4人が、音楽仲間とこの先いったいどんな世界を築き上げていくのだろうか。これからも追いかけたい。(沖さやこ)
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