●セットリスト
1.HELLO
2.宿命
3.ノーダウト
4.パラボラ
5.ビンテージ
6.Rowan
7.夏模様の猫
8.イエスタデイ
9.Laughter
10.たかがアイラブユー
11.115万キロのフィルム
12.異端なスター
13.旅は道連れ
14.夕暮れ沿い
15.FIRE GROUND
16.Stand By You
17.Pretender
18.I LOVE...
19.ラストソング
スライドギターの独特の揺らぎのあるサウンドとともに、会場中が星空に覆われたかのような演出で響いたのは“ビンテージ”。ターンテーブルのアナログノイズとセピアな照明で彩った“Rowan”。そしてやわらかなピンスポットの下で藤原がピアノで弾き語った“夏模様の猫”と、しっとり聴かせた後はバイオリンを含めたバンドサウンドが心地好い“イエスタデイ”へ。バンドのコーラスも出色の美しさ。そう。ヒゲダンはこのコーラスワークも魅力のひとつなのだ。それがオンラインでは通常のライブ以上に繊細に伝わる。
“たかがアイラブユー”では藤原はトークボックスを使って不思議な歌声を響かせる歌い出しで、一気にバンドサウンドはサイケデリックなファンクネスを携える。洗練されたうねりを生み出すベース、タイトなドラムとパーカッション、バイオリンも、ホーン隊も入り、これだけフルで音が鳴っているのにもかかわらず、そのバランス感の素晴らしさにただただ唸る。浸る。
アリーナのスケール感とオンラインならではの視覚的なダイナミズムを最も強く感じさせてくれたのは“FIRE GROUND”だった。小笹はステージセンターに立つと、そのフロアが高く高くせり上がって、ヘヴィなバンドサウンドを引き連れてメロイックサインを決める。「コロナウイルス燃やしつくしてやろうぜ!」と叫ぶと、ステージ上に炎が何度も立ち上る。レーザーもバシバシに飛ぶ。突き上げられる拳。メタリックな小笹のギター、藤原は光るショルダーキーボードで小笹に向き合う。倍テンで疾走する速弾きのギターソロ。何もかもが圧巻だった。会場から大歓声が聞こえてくるような気さえした。
“Pretender”ではとびきりのロングトーンを響かせ、シンプルなバンドサウンドでグッドミュージックの真髄を感じさせる。“I LOVE...”では《イレギュラー》と叫ぶサビの歌声が、いつにも増して胸に響く。つくづく良いバンドだなあと思う。そしてこのサポートメンバーも含めてOfficial髭男dismなのだと実感する。藤原も「僕はこのメンバーが、このチームが、大好きだし、(リスナーの)みんなと一緒にこうやって音楽の時間を共有することがほんとに人生でとっても大事だなと思った」と語った。そして「自分たちがやりたいと思って作ったものを、少しでも日々の糧にしてもらえているのなら、バンドとしてこんな幸せなことはないです」とカメラの向こうにいる視聴者に語りかけた。この日のリアルタイムでの視聴者は全国で12万人にも達したという。この素晴らしいライブをそれだけ多くの人と共有したという事実は、ヒゲダンにとっても嬉しいことだったのではないだろうか。
冒頭で「ツアーの代わりにオンラインライブをするのではない」ということを藤原は言っていたが、アリーナでのライブと同等、もしくはそれさえ凌駕しているのではないかと思うほど濃密でエモーショナルでフィジカルなライブだった。掛け値なしに歴史に残るオンラインライブだと思う。まだまだ書きたいことは山ほどあるので、10月30日(金)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』12月号で、より詳細なレポートを書きたいと思っている。よければそちらもぜひ。
そして、リアルタイム視聴がかなわなかった人も、まだアーカイブ配信で10月3日(土)23時59分まで視聴が可能なので、後追いでもぜひ観ておくべきだと思う。アーカイブ配信ではさらに、メンバーがこの日のライブを振り返りながら語り合う副音声も追加されているので、何度でもメンバーと一緒にライブを楽しむことができる。リアルタイムで視聴した人もこれからライブを観る人も、お聴き逃しなく。(杉浦美恵)