back number/「live film 2020 “ASH”」

All photo by 佐藤祐介

●セットリスト
01. SISTER
02. 瞬き
03. 僕は君の事が好きだけど君は僕を別に好きじゃないみたい
04. 黒い猫の歌
05. わたがし
06. 君がドアを閉めた後
07. MOTTO
08. エメラルド
09. あかるいよるに
10. 高嶺の花子さん
11. ハッピーエンド
12. HAPPY BIRTHDAY
13. 花束
14. 水平線
15. 青い春
16. 大不正解


9月に行われたファンクラブ限定のアコースティック配信ライブ「back number live film 2020 “MAHOGANY”」に続いて、待望のバンドセットでのライブとなったこの「back number live film 2020 “ASH”」。もちろんファンにとっては久しぶりに彼らのライブをフルセットで体感できる機会だし、バンドにとっても、「NO MAGIC TOUR 2019」から1年を経てどんな姿を見せつけるのかという意味で、とても重要なタイミングだった。もちろんドームツアーを行うクラスのバンドによる配信ライブなので巨大スケールのショウになることは予想していたが、それを上回る圧倒的な迫力、そして何よりも、全身全霊をかけて楽曲を届けきろうとするバンドの壮絶な意志をまざまざと見せつけるライブ。「配信ライブっていうものを、こういうときだから仕方なく、とかそうじゃなくて、生の代わりとかそういうことじゃなくて、きちんと特別なひとつにしたかった」。清水依与吏(Vo・G)はライブ中にそう語っていたが、まさにその言葉どおりの、特別で最強なback numberがそこにはいた。

開演時刻を迎えた画面に、ステージ設営の様子を織り込んだオープニングムービーが流れる。そして栗原寿(Dr)のスティックがカウントを打ち鳴らし、“SISTER”のイントロが鳴り出す。ステージじゅうに設置されたライトが幾本もの光の筋を作り出し、いきなりスケールの大きな風景を描き出していく。目をつぶって絞り出すように歌われる清水のハイトーン、小島和也(B・Cho)の表情豊かなベースライン、そして3人に村田昭(Key)、矢澤壮太(G・Cho)、藤田顕(G)というサポートメンバーを加えた「いつもの」編成で織り成される豊穣なアンサンブル。ああ、back numberだ!といきなり感動する。バンドの背面には超巨大なLEDスクリーンが設置され、圧巻のスケールの映像演出が展開していく。

「なんか……いくら一生懸命やっても孤独を感じるね。拍手をもらえたありがたみがひしひしと……」といきなり弱気な言葉を吐きながらも「そんな感傷に浸っていないで、精一杯やるんでよろしくお願いします!」と自らを鼓舞するように宣言する清水。カラフルな光が輝いた“僕は君の事が好きだけど君は僕を別に好きじゃないみたい”や、軽やかなリズムでホップする“黒い猫の歌”と、彼らのポップセンスと切実な歌詞世界が結実した楽曲が、その宣言を後押しするように響く。

それにしても、すごいのが映像のクオリティだ。時々映る引き画から、とんでもない台数のカメラがセッティングされていることがわかる。上から下から、そして巨大クレーンにアナログビデオ調の映像を映し出すハンディカメラまで、ふつうのライブではありえない角度、ありえない近さ、ありえないクオリティで映像がつなぎ合わされていくのは配信ライブならではのおもしろさ。たとえば曲間のちょっとした表情や仕草、栗原のスティックワークの一つひとつ、小島の運指、言葉の一つひとつに念を込めて歌う清水の表現……といったディテールに、じつはどこまでもストイックに音楽に向き合う3人の姿が浮かび上がる。

だが、そうした3人のパーソナルな側面も活写しつつ、この配信ライブはやはり彼ららしく、どこまでもソングオリエンテッドなものだった。back numberとたびたびタッグを組んできた番場秀一が演出する映像は、楽曲ごとにその世界を映像で具現化していく。8mmフィルム風のエフェクトとともに鳴らされた片恋ソング“わたがし”、キレキレのバンドサウンドのなかヒリヒリと熱いback numberの実像を見せつけた“MOTTO”(清水の力みに力んだボーカル、そして小島によるスラップベースのソロもテンションが高い)。そしてここで披露された最新シングル曲“エメラルド”では、緑と赤のレーザーが会場じゅうに放射され、黄色、ピンク、紫、毒々しい色を駆使した印象的な映像が、この楽曲のテイストをあますところなく表現していく。タイトなダンスビート、鋭いギターリフ、そして艶めかしいメロディライン。これまでの彼らとは違う、back numberの新たな姿は、間違いなくこのライブのハイライトのひとつだった。

「あの」イントロが流れ出した瞬間に画面の前のファンが狂喜したであろう“高嶺の花子さん”(バックのLEDにはライブのお客さんの映像も挟み込まれて「あるべき姿」を物語っていた)。「ひとり」の誕生日を祝うようなキャンドルの灯りが揺れ、清水の喉から広がる美しいメロディをさらにドラマティックに彩ってた“HAPPY BIRTHDAY”。彼らの生み出してきた多彩な楽曲がセットリストを盛り上げるなか、メジャー2ndシングル“花束”ではステージ上のバンドにのみスポットライトがあたる。ミニマムなモノクロ映像が、まるでバンドの原点を伝えているようだった。

終盤、「もう終わりも見えてきてるので」と栗原が仕切ってメンバーそれぞれ挨拶。小島が「お客さんがいてその前でやるのが楽しいし、それが当たり前じゃないというのも考えさせられている」と素直な心情を口にすれば、栗原は「次は同じ空間で、お互い目の前でライブができたらいいなって思ってます。その日までいろんなものに負けずにがんばっていきます」と決意を見せる。そして清水は少し言いよどみながらこう語った。「今日のライブがどうあってほしいかなってずっと考えてるんだけど……今日このライブが、あなたがあなたを肯定するために、少しでも後押しできたらいいなって思ってます。少なくとも俺たちの音楽は、誰に否定されても、あなたの幸せを絶対願ってる。少しでも追い風を吹かせられるものであることを願ってます」。

まさにそんな清水の思いをそのまま歌にしたような“水平線”が、万感を込めて鳴らされる。背景には多くの高校生アスリートの心を温めたであろうあのリリックビデオの映像。歌い終えて天を見上げた清水の表情はまさしく何かを「願っている」ように見えた。そしてきらびやかな照明がバンドを鼓舞するように“青い春”へ。切羽詰まったような演奏のテンションと清水の絶唱がヒリヒリとした激情を伝えてくる。そのまま突入したラストソングは“大不正解”。映像演出も照明も出し惜しみなしの圧巻のスケールのなか、清水がカメラに鋭い視線を投げる。どこまでも高まっていくエモーションと濃厚なバンドアンサンブル。息を切らした清水が「またどこかでお会いしましょう」と叫んで、「live film 2020 “ASH”」は唐突に終わりを迎えた。絵に描いたような大団円ではない、「続き」を予感させるこの終わり方もまた、back numberと僕たちの物語がずっと続いていくという彼らからのメッセージのようだった。(小川智宏)



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