9月に行われたファンクラブ限定のアコースティック配信ライブ「back number live film 2020 “MAHOGANY”」に続いて、待望のバンドセットでのライブとなったこの「back number live film 2020 “ASH”」。もちろんファンにとっては久しぶりに彼らのライブをフルセットで体感できる機会だし、バンドにとっても、「NO MAGIC TOUR 2019」から1年を経てどんな姿を見せつけるのかという意味で、とても重要なタイミングだった。もちろんドームツアーを行うクラスのバンドによる配信ライブなので巨大スケールのショウになることは予想していたが、それを上回る圧倒的な迫力、そして何よりも、全身全霊をかけて楽曲を届けきろうとするバンドの壮絶な意志をまざまざと見せつけるライブ。「配信ライブっていうものを、こういうときだから仕方なく、とかそうじゃなくて、生の代わりとかそういうことじゃなくて、きちんと特別なひとつにしたかった」。清水依与吏(Vo・G)はライブ中にそう語っていたが、まさにその言葉どおりの、特別で最強なback numberがそこにはいた。
まさにそんな清水の思いをそのまま歌にしたような“水平線”が、万感を込めて鳴らされる。背景には多くの高校生アスリートの心を温めたであろうあのリリックビデオの映像。歌い終えて天を見上げた清水の表情はまさしく何かを「願っている」ように見えた。そしてきらびやかな照明がバンドを鼓舞するように“青い春”へ。切羽詰まったような演奏のテンションと清水の絶唱がヒリヒリとした激情を伝えてくる。そのまま突入したラストソングは“大不正解”。映像演出も照明も出し惜しみなしの圧巻のスケールのなか、清水がカメラに鋭い視線を投げる。どこまでも高まっていくエモーションと濃厚なバンドアンサンブル。息を切らした清水が「またどこかでお会いしましょう」と叫んで、「live film 2020 “ASH”」は唐突に終わりを迎えた。絵に描いたような大団円ではない、「続き」を予感させるこの終わり方もまた、back numberと僕たちの物語がずっと続いていくという彼らからのメッセージのようだった。(小川智宏)