トミー・ゲレロ @ 渋谷 duo music exchange

8月5日におよそ2年ぶりとなるニュー・アルバム『ライフボーツ・アンド・フォーリーズ』をリリースしたトミー・ゲレロ、全国8都市9ヶ所を周るジャパンツアー、セミファイナル。今回のアルバムは、日本のリスナーを意識して作ったレコードだとインタビューでも語っているとおり、ライブもまた、ここがトミーのホームグラウンドなんじゃない?と疑いたくなるほどに、ベストなものだった。

まず、オープニング・アクトのビン・ジ・リン。もじゃもじゃロン毛にデカフレーム眼鏡をかけたこの人(アルバムジャケットそのまんま)、実はトミーのニュー・アルバムと同日にアルバム『ソー・ナチュラル』をリリースし、日本デビューを飾っている。このツアーは、ギターにビン・ジ・リン、ベース、ドラムというシンプルな編成の3ピース。甘くてトロピカルなAORっぽいサウンドに、ファルセットボーカルがよく絡み合って、アーバン・ソウルっぽい感じ。4曲目では飛び入りでトミーが参加して、 座ってギターを弾いたり、マラカスを振ったりする一幕もあった。が、柱が邪魔でよく見えない…。全7曲くらいを演奏していた。

ステージ後方のスクリーンには、カラフルな抽象絵画やサイケデリックなアートが5秒置きに変わるVJ。それに見とれていると、なんの前触れもなくトミーが一人で出てきて「コンバンハ―! トーキョー! 」と一言。あれ、1人? 呆気にとられる観客をよそに、トミーはチューニングしたり、エフェクターをいじる作業を繰り返しながらどんどんギター・ノイズを膨らませていき、即席の音壁を創り上げていく。音響っぽいオープニングだが、ギターを胸で抱え込むように弾くスタイルがぜんぜん音響系じゃなくって、そのアンバランスさが何ともトミーらしい。

音圧が緩みはじめたところに、先ほどのビン・ジ・リンの3人にトランペット&キーボード奏者の1人を加えた4人が登場。トミーを含めた5人がようやくステージに揃ってプレイされたのは“ソウル・ミンナー”だった。音響っぽくてじめっとしたオープニングとは一転したウエストコースト的なナンバーに、会場はアメリカ西海岸の夕闇を思わせるエモ―ショナルな空間へあっさりと引き込まれる。

序盤は、トランペットと反復するベース・ラインがスリリングな“イエルバ・ブエナ・バンプ”、アバンギャルドなオルガンを前面に押し出し、トミーがコンガを叩きドラムとアイコンタクトを取りながらリズム・ワークを楽しんだ“カット・ザ・レインズ”、チープなドラム・マシンをボトムに、ランダム・パーカッションが入り乱れるラテンフレーバーな“マーチ・オブ・ザ・マッシズ”などニュー・アルバムからのジャジーな選曲が続いていく。

演奏以外で言えば、トミーはもうほんとありえない勢いでビールを呑みまくっていた。呑みながらライブをするというのは彼のいつものスタイルらしいけど、ライブ中にこんなに呑みまくる人、見たことない。曲終わりの度に「カンパーイ!」って言ってるし。たぶんライブ中だけでビール5~6缶は軽く飲み干していたと思う。酔っ払っていたのか、終盤には「キ○ガーイ」とか「アチーアチー」とか「サイコー」のような日本語をこれ見よがしに使うおちゃめな一面も。

さて、そんなビールがぶ飲み状態のトミーだったが、よく知られているように彼には天才スケーターという前歴があり、そしてアメリカ西海岸のカルチャーを象徴する人物でもある。しかし僕は、こと彼の音楽となるとそういったカルチャーのストレートな背景はあまり感じられないでいたし、むしろその背景を拒否するかのように陰鬱で薄暗いムードへ進んでいく彼に共感さえしていた。それは、どちらかと言えば知的で内向的で個人的な音楽だった。

けれど、どうだろう今宵のライブは。終盤へいくにつれ、そのインテリジェンスに加えてより高い攻撃性があらわになっていく。ジャズセッションのような小さな塊で始まったライブは、どんどん引き出しをあけては様々な音をばら撒き、オーディエンスにたたみ掛ける。フリージャズ、レア・グルーヴ、アブストラクト・ヒップホップ、ポスト・ロック、たぶん聴き方は様々だ。だが気がつけば、バンドの攻撃性は序盤とは比べものにならないほどの熱量を帯び、2本のギターもベースもドラムもトランペットもトミーを含めた5人の顔が真っ赤になるくらいアグレッシブに弾きまくっていた。演奏中なのに「ブラボー!トミー!」「トミー・イズ・クール!」みたいな歓声と拍手があちらこちらから聞こえ、スタンディングのライブなので、スタンディング・オベーションって言い方は適切じゃないけれど、もうなんかアポロシアターでチャンピオンが永遠と拍手喝采を浴び続けているような雰囲気なのだ。そんな祝祭的なムードすら漂わせながらライブは幕を閉じた。

リスニング主体の音楽が、ここまでアタックの強い音楽に変貌することがあるのだろうか。あるとは思う。だが、そこにあったグルーヴは、ロックでもダンスミュージックでもない何かだった。ジャズ特有の「スウィング」とも違う。なんとも形容しがたい「うねり」、そしてここまで踊らされている感がない、身体の奥底から踊りたい音楽に出会ったのは掛け値なしに久しぶりのことだった。(古川純基)
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