ゆらゆら帝国 @ 新木場STUDIO COAST

ゆらゆら帝国 @ 新木場STUDIO COAST
ゆらゆら帝国 @ 新木場STUDIO COAST
ゆらゆら帝国 @ 新木場STUDIO COAST - pic by HITOSHI KATOpic by HITOSHI KATO
今年は通常の公演に加えてサマーソニックや朝霧JAM、METAMORPHOSEといったフェスへの出演、また9月には2007年のアルバム『空洞です』にシングル“美しい”を加えたCD『Hollow me/Beautiful』を<DFA>レーベルから全米リリースし、それに合わせてアメリカで3公演を行ったゆらゆら帝国。12月16日にはアメリカ公演で対バンしたヨ・ラ・テンゴの来日追加公演に出演することも決まっている彼らだが、ワンマン・ライブとしては今年最後となる今夜の「ゆらゆら帝国 LIVE2009.WINTER」。(終演後、12月30日に恵比寿リキッドルームで対バンライブ「ゆらゆら帝国 LIVE2009.FINAL」が開催されることも発表された。)

「あ、どうもこんばんは、ゆらゆら帝国です」と坂本慎太郎のいつも通りの挨拶で始まった今日のライブのセットリストはこのような感じ。

1. 冷たいギフト
2. なんとなく夢を
3. ソフトに死んでいる
4. 男は不安定
5. 新曲
6. 新曲
7. グレープフルーツちょうだい
8. 3×3×3
9. 恋がしたい
10. 新曲
11. 空洞です
12. あえて抵抗しない
13. できない
14. 夜行性の生き物3匹
15. つきぬけた
16. ロボットでした
17. 無い!!

新曲は3曲。最初のものは「ばかでかい穴ぼこ/正気でいるのがつらい」とコーラス部で歌われる変拍子の曲で(1度聴いただけでは何拍子なのか捉えきれなかった)、ギターとドラムの拍数もずれているように聴こえるかなり作り込まれたナンバー。続けて演奏された2つ目の新曲はプリミティヴな4ビートのドラミングに乗せられるギター・リフがちょっとキャプテン・ビーフハートを思わせる曲。「ほうら、突き破ろう」、「ほうら、振り払おう」という歌詞があった。曲の雰囲気という点では、2曲とも『空洞です』の延長上にあるもののように感じられた。

でも3番目の新曲は全くの新機軸で、どことなく秋を感じさせるバラード。インタビューでは「ファルセットはやりたいけど、うまく歌えない」と話していた坂本が何度もファルセットを使っていて、切ないフィーリングは“つぎの夜へ”みたいだけれど、循環するギターのパターンは“船”などの最近の曲に近い。たぶん恋人たちについて歌った曲だと思うのだが、そこに少し運命的なドラマの色合いが感じられるあたりは初期の“わかって下さい”のような曲も思わせる。

新曲を構成する大胆かつ斬新なアイディアによっていつも発見と驚きをもたらしてくれるゆらゆら帝国だが、彼らのライブでは過去の曲も足を運ぶたびに少しずつ新たな要素が取り入れられていて(あるいはそこにあったはずの要素が取り去られていて)、生まれ変わり続けている。

そんな曲としてこの夜特に印象的だったのが“なんとなく夢を”と“男は不安定”。アレンジ自体はアルバムに収録されているものとさほど変わらないギター・リフにほんの少しだけ不協和音が使われていて、それが坂本自身『空洞です』の制作前後によく聴いていたというアーサー・ラッセルの換骨奪胎されたディスコ・ミュージックにも似た微妙な乖離感を生んでいた。

そういう感覚は、彼らの曲を聴き慣れている自分のようなファンでも「今、自分が観て、聴いているこれは一体何なんだろう?」と頭の中で答えを探してしまうような不思議な効果をもたらしてくれる。そしてそういう時にこそ、聴き手は日常の些事や「ムードのない街」で生きることの疎外感を忘れて音楽の世界にのめり込めるのではないかと思う。

坂本が左手でマラカスを振りながら右手のみでギターのバッキング・コードを弾き続けた“3×3×3”や右手でタンバリンを振りながら左手だけでギター・ソロをやった“ロボットでした”の異様な光景も、ひずんだギター・サウンドがどこまでも拡がっていくクロージング曲“無い!!”のアウトロでミラーボールが回り始めた会場を包んだ見知らぬ空間も、あらゆるものが説明し尽くされ、夢や幻想や神秘感を抱く余地がことごとく排除されている時に人が拠りどころとするべき何かを訴えているように思えた。簡単に答えを出すことのできないものを前にして、初めて僕らは自分たちもまた簡単に答えを出すことのできない存在であることを知るのかもしれない、そう思わせるライブだった。(高久聡明)
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