泉谷しげる @ SHIBUYA-AX

19時きっかりに客電が落ちたステージで「今夜はバラッバラにしてやっからな!」と高らかに宣言した後は、「今日は全然(チケット)売れてなくて、ガラッガラでやるはずだったんだけど、なんでこんなに集まってんだ!」とか「新曲を中心にやってんだけど、とにかくめんどくさくてな!」とか、とにかく隙あらば苦笑いとグチと悪態のオンパレード。その矛先は、この日AXに集まったベテラン・ファン中心とお見受けするオーディエンスから、今年自ら命を絶った旧友・加藤和彦まで、ひたすら全方位に向けられていく。が、それが愛情と照れ隠しがこんがらがった泉谷しげる唯一無二の表現方法であることは、僕らは知っている。だからこそ、それらのMCの1つ1つが、会場の温度をいちいち上げまくっていくのだ。

『ライブ2009 バラッドな夜』と銘打たれた、泉谷しげるの2009年最後のワンマン・ライブ。12月2日に発売されたばかりの新作アルバム『愛と憎しみのバラッド』の楽曲を要所要所に織り込んだセットリストは、2部構成で実に全28曲。昨年10月には還暦を祝って20曲ずつ3部構成で60曲(!)をやりきるという狂気のオールナイト・ライブをやったこともある彼にとっては「想定内」のことかもしれないが、それにしても御年61歳のアーティストの、しかもウイーク・デイのライブの尺としては相当長いことは確かだ。

「今日は長いからな! 途中で帰ったっていいんだぜ!」とかいうMCを挟みつつ、冒頭から“カウントダウン”の剥き身なロックンロール・サウンドや“逃亡者”のぶっといリフと絶唱でぐいぐい観客を巻き込んでいく。阿波踊りみたいな身振りとともに♪どぉせ男は消耗品~と歌い上げる“Y染色体のうた”のシニカルでコミカルなサウンドから一転、怒濤の逆ギレ・エモーション炸裂ロック・ナンバー“フェードアウトは嫌いだ!”へ雪崩れ込んだり……と変幻自在にAXの空気を塗り替えながら、とにかく1曲1曲死力を振り絞って割れんばかりのシャウトでオーディエンスをびりびりと震わせ高揚させていく。そこで展開されているのは、70年代から今までずっと脈打ち続ける怒りと反骨と抵抗のエネルギーそのものだ。通常はスタンディング・エリアになっているフロアに椅子席が用意されたこの日のAXが、なんだか70年代から続く芝居小屋みたいに感じられて仕方なかったのは、他ならぬその不変の闘争心と、それが長年の盟友である中西康晴(Key)やアナーキー・藤沼伸一(G)を擁したバンドによってソリッドかつリアルに再現されたサウンドのせいだろう。あまりに死力を尽くしすぎて、数曲やっちゃあ「休ませろや!」と息を切らしたり「語り合おうぜ」と曲間を空けたり、ワンフレーズごとに視線が足下のディスプレイ(歌詞が表示されるらしい)にあからさまに向けられたり……というのは、まあご愛嬌だ。

もともとのフォーキーな叙情性をタイト、4つ打ちキック+16ビート・ハイハットのタイトなビートで更新した“春夏秋冬”の後、第1部後半はアコースティック中心のスペシャル・コーナー。完全オフマイクのアコギ弾き語りで“東西南北”をやったり、ジョン・レノン“Working Class Hero”の超勝手訳カバーをやったり、ヴァイオリニストを迎えて共演しちゃあそのヴァイオリニストをいじったり、中西/藤沼と3人で“春のからっ風”“つなひき”をやったり、“愛と憎しみのバラッド”で登場した弦楽隊の青年3人衆に「初体験はいつですか?」「ナマ派ですか?」「デブ専ですか?」と訊きまくったり、相も変わらず泉谷節は絶好調だ。

そんな第1部のやさぐれモードが、15分の休憩を挟んで雪崩れ込んだ第2部では一変。さっきまでの黒シャツから目の覚めるような白シャツに着替えて登場した泉谷御大が「ロープを外せ!」とステージ前のスタッフに指示すると、オーディエンスがステージ前に大移動。文字通りかぶりつき状態になる。「無礼講だあああ!」と絶叫した御大、そのまま豪快なロック・ナンバー“巨人はゆりかごで眠る”から立て続けに8曲連射! “褐色のセールスマン”や“国旗はためく下に”のレゲエ・アレンジも、第1部の“あいまいな夜”のレゲエ・フォーク調とは違う鋭利な響きを持っているし、“火の鳥”では聴く者すべてのエモーションを真っ赤に染め上げていくし、“翼なき野郎ども”のびりびりと空気を震わす泉谷の歌に感動を通り越して戦慄を覚えずにはいられなかった。

さすがに息も絶え絶えの様子の御大、「これで終わりだ! 帰れ帰れ!」と言いつつ、「今日はお前らのために精力を出し尽くしてるからな!」と頭から水をかぶる。「野郎、元気出せ!……女も来てほしいけど(笑)」。そして、“長い友とのはじまりに”を演奏した後、「お前らには俺がついてるぜ! キヨシローには俺がついてるぜ! まかせとけ!」の声に、年配紳士風のオーディエンスまでもが拳を突き上げうおおおおと大歓声! 曲はもちろん“雨上がりの夜空に”。会場一丸の大合唱が高らかに響き渡る。「俺はやり続けてやっからな! あいつは俺の師匠だから。歳はあいつのほうがいくつか下なんだけど」。他界した日本最大のロック・アイコン=忌野清志郎の想いを、悪態ついたりグチを言ったりしながらも渾身の力で背負っていくことを、泉谷は決めた。その決意が、フロアをいっそう熱くしていた。

そして、最後の“野生のバラッド”……の前に、彼はザ・フォーク・クルセダーズ“帰って来たヨッパライ”の歌詞を辛辣にアレンジしつつ、加藤和彦の死について歌い始めた。「曲を作ってる人は、人の心に土足でズカズカ入り込んでんだから、勝手に死ぬんじゃねえよ! 残されたもんはどうすりゃいいんだよ!」という言葉も、裏を返せば「残された者」として亡き友の想いを引き受けていくという闘争宣言に他ならない。“野生のバラッド”の途中でステージを降り、まさにもみくちゃにされながら《Oh なんてお前に伝えよう 騒ぎの好きな俺について》のフレーズを最後の力を振り絞って歌い上げる姿が、その静かなる決意を身をもって証明していた。3時間以上に及んだライブ、というか死闘は、完全にエネルギーを使い果たした御大の「……今日はこれで勘弁しといてやらあ! 愛してるぜええ!」という言葉で、最高の幕切れを迎えた。(高橋智樹)


[SET LIST]
01 カウントダウン
02 逃亡者
03 Y染色体のうた
04 フェードアウトは嫌いだ!
05 すべて時代のせいにして
06 野良犬
07 街角
08 あいまいな夜
09 夜と昼の顔
10 春夏秋冬
11 東西南北
12 Working Class Hero(労働階級の英雄)
13 愛しの臨死体験
14 真夏のユメ
15 春のからっ風
16 つなひき
17 愛と憎しみのバラッド
……………………………………………………
18 巨人はゆりかごで眠る
19 地下室のヒーロー
20 デトロイトポーカー
21 褐色のセールスマン
22 火の鳥
23 眠れない夜
24 国旗はためく下に
25 翼なき野郎ども
26 長い友との始まりに
27 雨上がりの夜空に
28 野生のバラッド
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