MASS OF THE FERMENTING DREGS @ 恵比寿リキッドルーム

MASS OF THE FERMENTING DREGS @ 恵比寿リキッドルーム
MASS OF THE FERMENTING DREGS @ 恵比寿リキッドルーム
MASS OF THE FERMENTING DREGS @ 恵比寿リキッドルーム
今年2月10日には<EMI ミュージック・ジャパン>より初のメジャー作品『ひきずるビート/まで。』をリリースし、同時に約2年間サポートを務めてきたドラムの吉野功が正式にバンドメンバーとして加入、しっかり一枚岩となったマスドレことMASS OF THE FERMENTING DREGS。今宵はメジャー移籍後のマスドレ初となる全国ワンマンツアー4公演目で、この後も名古屋、大阪と続いていく。フロアに入ると、既にマスドレの登場を待ちわびたオーディエンスで一杯だ。リリースからの時間を経たぶん、2月のシングルがいかに好意的に受け入られたかを証明するような開演前の恵比寿リキッドルームである。

SEの音量が徐々に上がっていき、ほとんどノイズの域に達したところで3人が両手を上げながら大歓声に応えるように登場。ステージ左にドラムの吉野功、右にギターの石本知恵美、センターに立つベースボーカルの宮本菜津子は、いつものように裸足にワンピースというキュートなたたずまい。そして宮本の「せ〜のっ!!」という居合いのような掛け声から一閃、すさまじい音塊がフロアに叩きつけられる。この「せ〜のっ!!」の後に鳴らされる轟音は、マスドレの一番豊潤な純度100%のロックを味わうことのできる瞬間である。掛け値なしにかっこいい。この瞬間を観たいがためにマスドレのライブの見に行ってる、そんな気さえしてしまうほどこのバンドのオープニングはいつも衝撃的だ。初っ端からエネルギーの塊のようなステージングを見せつけられたオーディエンスは1曲目にして完全にレッドゾーンに突入。ラストに向かってどこまでも熱を高めながら加速していくのだった。

洪水のように雪崩れこんでくるディストーション・ギターから早弾きまでこなす超絶ギタリストの石本、変拍子を織り交ぜながら馬力のあるビートを叩き出す吉野、そして髪をぶんぶん振り回しながら痙攣気味に低域と高域を行き来する宮本のベースライン。この3人によって鳴らされる轟音は9mm Parabellum Bulletや凛として時雨と同じく、圧倒的な求心力を持っていると思う。(いつかこの3バンドの対バンを見たい!)マスドレは可憐なポップとカオティックなサウンドが同時に鳴っているバンドだけど、そのポップの部分を全て一人で請け負っているのが渦巻く轟音と戯れるように響く宮本のボーカルである。何かが突出したタイプのボーカリストではないけれど、飾り気のない透き通った彼女の歌声はこのサウンドの中ではむしろ個性と言えるのかもしれない。

今宵に披露された楽曲の中でも、2月にリリースされた“ひきずるビート”と“まで”の対照的な2曲がやはり際立っていたように感じた。“ひきずるビート”はリフやリズムのパターンが目まぐるしく変容するマスドレの方法論がこれでもかと敷き詰められ、焦燥感と切迫感がせめぎ合う楽曲。そして逆に竹を割ったような抜けのよいメロディが印象的な“まで”は、彼女たちの類まれなポップ・センスが見事に引き出されている。初期の“skabetty”にしてもそうなのだけど、そこらのガールズ・バンドのポップとは明らかに違う。軽やかというよりはどっしりと地に足のついたポップ、以前、くるりのオープニング・アクトに抜擢され、昨年では“飴色の部屋”のカバーまでオファーされた理由がなんとなくこのあたりにあるのかもしれない。彼女たちの武器は決して「轟音」だけではないのである。

まだ公演が残されているので、ライブの詳細を伝えることはできないけれど、これまでリリースした3作品の収録曲をほぼ網羅した全16曲のセットリスト。いつものようにアンコールはなく、すさまじい音塊を縦横無尽に暴発させ、オーディエンスに只ならぬ衝撃を与えた3人は嵐のように去っていった。新曲やあのカバー曲も披露されたし、これからライブを観る予定の人はぜひお楽しみに。(古川純基)
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