サカナクション @ ZeppTokyo

サカナクション @ ZeppTokyo
凄まじいライブだった。オープニングからエンディングまでクライマックスのような状態がずっと続いていたような気がする。サウンド・テクスチャー、パフォーマンス、ステージング、ライティング、そして詰め掛けたオーディエンス、すべてが規格外のライブ。極上のエンターテインメント空間、そう言っても差し支えないほどに今宵のサカナクションはキレていた。1月のシングル『アルクアラウンド』、3月のアルバム『kikUUiki』をそれぞれオリコンチャート3位にぶち込んで望んだ全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2010 kikUUiki』。追加公演を含む全15公演のチケットはすべてソールド・アウト。さあ、今宵は正真正銘、このツアーを締めくくる追加公演のファイナル、ZeppTokyoである。

と、意気揚々と会場に足を運んだものの、開演予定の19:00を少し周った頃、機材トラブルにより開演が遅れるという場内アナウンス。まぁ、後々の高揚と狂騒を考えればこれくらいの対価は全く問題ない。19:23に機材の調整完了というアナウンスがあり、「オォー!」という割れんばかりの大歓声と拍手、そして2分後、場内が暗転。ステージを覆う幕を淡い光が照らし、メンバーのシルエットがゆっくりと浮かび上がっていく。

人の息づかいや雑踏、ビートやノイズが矢継ぎ早にコラージュされた音に、江島啓一のドラムスと観客のハンドクラップが乗る。なるほど、アルバム同様“intro = 汽空域”からスタートかと思いきや、そこに異物のように加わる和太鼓のトライバル・ビート。まだ幕は閉じられたままだ。ステージ両サイドで岩寺基晴(G)と草刈愛美(B)が和太鼓を叩き、岡崎英美(key)の煌びやかな鍵盤が加わったインスト・ダンス・ナンバー“21.1”でフロアの高揚感をぐいぐいと引っ張っていく。そして、もう暴発寸前となったフロアを寸止めするように山口一郎(Vo/G)の「汽空域の世界」という声が響く、幕にはサカナクションのロゴが投影される。映画のオープニング・ロールのような規格外のエンターテインメントを初っ端から見せつけられたフロアの歓声は、「ウォォォ!」を通り越して「ウワァァァ!」と盛大な狂騒状態に突入し、“明日から”でステージの幕が切って落とされた。

本編中盤で披露された“アンダー”、“シーラカンスと僕”、“Paradise of Sunny”は、個人的には彼らがアルバムで提唱した「汽空域」という世界感を最も体現した流れだったように思う。“アンダー”のオリエンタルなムードで大海原と海界を描き、“シーラカンスと僕”でさらに深海へといざない、その先の“Paradise of Sunny”(『kikUUiki』初回盤のエキストラ・トラックとして収録)は海底で行われる音楽実験のようだった。岩寺からはダブ的な空間処理を施したギターリフ、江島と草刈は煙たくこもったビート、岡崎は幽玄なシンセ・フレーズと様々な音ネタを次々と放り込む。ステージ中央はスモークで覆われ、その中で一郎が手持ちシンセでノイズをばらまいていく。アンビエント・ダブとも言える高揚感と安息感のトリップがスモークの向こう側に立ち上がる、観客への新たな音楽体験。「聴く」でも「盛り上がる」でも「踊る」でもない音に「浸る」という感覚を若いオーディエンスに提示する。これこそが「汽空域」だろう。ライブによって音が立体的に届くということもあるが、サカナクションのどの楽曲よりもフィジカルな印象を受けたこと、歌と詞を介さずに自らのコンセプトを具現化したこと、これらはCDを聴いただけではまずわからなかったことだ。

そこからは、奥深く潜った深海から上へ上へと昇っていくようにおなじみの“ライトダンス”、“インナーワールド”、“サンプル”というアッパーな流れを畳み掛ける。とにかくライティングとサウンドの絶妙なバランスがたまらない。そして彼らのバンド・アンサンブルがエレクトリックなスピードに乗ると同時に、以前よりもはるかにずっしりとした重みをビートに宿している。これは今回のステージで何度も感じたことだったが、そこに内包されるのはダンスというよりもロックの土着的なグルーヴであり、彼らが膨大な音の情報を楽曲に混ぜ込んだ安易なダンス・ミュージックを作っているわけではないことがよくわかる。

そして、突き刺すようなレーザーが“ネイティブダンサー”で乱れ飛び、続く“アルクアラウンド”への鉄板の盛り上がりを経て、本編ラストの“目が明く藍色”へ。サウンド面にしてもそうだけど、ここでの一郎の声は、ダンス・ミュージックの重層的なアレンジの鎖から解放されたように伸びやかに響き、ただ盛り上げただけでは終わらない独特のカタルシスが滲み出ていると思う。

アンコールは前回のツアーのオープニングをなぞらえた“Ame(B)”で、再びフロアを沸点まで持っていき、ここで一郎が「新曲をやってもいいですか!」と一言。そう、すでにニュースでも報じられているとおり、ここで8月4日にリリースされるニュー・シングル“アイデンティティ”が披露された。“セントレイ”や“アルクアラウンド”の系譜を受け継ぐ楽曲で、新たな試みとしてエレクトリックなラテン・ビートが盛り込まれ、これまでよりもBPMは早め、踊りやすい。しかし、それすらも霞んでしまうのは、もう、ポップという枠組を完全に突き抜けてしまったポップであるということ。なんなんだこれは。“アルクアラウンド”もそうだったが、こういったポップを意図的に、ある種の撒き餌的に生み出せる彼らの才能には感服するよりほかない。“アイデンティティ”にはそれだけの求心力があり、初披露されたにもかかわらず、今宵のライブの中で最高の盛り上がりを見せた一幕だった。

フロア一体となって斉唱された“潮”、“三日月サンセット”と続き、一郎が締めのMC。ライブ前もライブ中もとても緊張していたこと、彼の親友であるBase Ball Bearの小出祐介(Vo/G)が来ていることなどを話した後に「みんなに報告があります!」、そして一呼吸おいて「武道館やります!!」と10月8日(金)に日本武道館でワンマンライブを行うことを発表。これにはフロアも完全にノック・アウト。怒号を通りこして地割れが起こりそうなくらいの歓喜に酔いしれていた。ラストに届けられた“ナイトフィッシングイズグット”でメモリアルなライブは幕を閉じた。

過去のあらゆるロック・サウンドのフォーミュラから突き抜けたサカナクションが「汽空域」の次に見つける到達地点はどこなのか。早くも次を見据えたくなるほど、この日のライブは完璧だった。ツアーはこの日でファイナルとなったが、今後も多数の夏フェスへの出演も控えているし、ぜひともこれを機会に体感して頂きたい。(古川純基)

1.21.1
2.明日から
3.表参道26時
4.セントレイ
5.アドベンチャー
6.Klee
7.YES NO
8.アンダー
9.シーラカンスと僕
10.Paradise of Sunny
11.ライトダンス
12.インナーワールド
13.サンプル
14.ネイティブダンサー
15.アルクアラウンド
16.壁
17.目が明く藍色

ENCORE
18.Ame(B)
19.アイデンティティ
20.潮
21.三日月サンセット
22.ナイトフィッシングイズグット
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