オープニングには、暴発寸前のオーディエンスの感情を解きほぐすように、まずインスト・ナンバー“present…” が届けられた。やや緊張した面持ちに見えた4人だったが、2曲目の“メリーゴーランド”からは、緊張感を振り払おうとするように高々と歌う高津戸(Vo/G)のボーカルに呼応し、アンサンブルも徐々に激しさを増していく。艶かしくも潤いをたっぷり含んだ高津戸の声は、アグレッシブなバンド・サウンドの中を気持ちよく泳ぐように響いてくる。これまでの作品で、絵本のようなアートワークの世界感を繊細な音とリリックで丁寧に表現してきた彼らだが、ライブは大変にエネルギッシュなものであった。しかも、そこで描かれるドラマチックな物語には、アリーナクラスの大多数の人達にも届くであろう壮大なスケール感を宿している。彼らの全方位的に解放していくような表現力は、大きいハコであればあるほど発揮できるものなのかもしれない。
ギターの清冽なコード・ストロークとリフが交錯する“ワスレジノ葉”も、エモーショナルなミディアム・ナンバー“rain show”もそうなのだけど、Dirty Old Menの楽曲というのは、どの曲をシングルで切っても勝負できそうなほど、とにかくメロディが立っている。『Dirty Old Men e.p.』がオリコン13位を記録したように、上位に位置するJ-POPの楽曲たちとも互角に渡り合うこともできるだろう。そして、ただ聴き手に物語を共有させるだけでなく、言葉が目の前で鳴らされているサウンドに乗り、より現実的な輪郭をもって聴き手側に投げかけられる。ただメロディが良いだけではない、ロックバンドにしか鳴らすことのできない歌、そして音像。Dirty Old Menは、それらを真摯に探し求め、過去のあらゆるロックのフォーミュラを突き抜けようとする姿勢が感じられる。それを象徴していたのは、やはり11曲目に披露された“桜川”だった。
13曲目の“robot”が終わると、少し長めのMCでメンバーがツアーの思い出を語る。自称・プロのサウナー(サウナに入りまくる人をこう呼んでいた)と豪語する高津戸は、松山滞在時に一日中サウナ→冷水→サウナ→冷水を繰り返して4kg痩せたらしい。ギターの山下は、照明スタッフに聞いた大漁間違いなしの釣りスポットで、一匹も連れずに退散。誰も呼ばないあだ名をつけるのが好きだというドラムの野瀧は、「タカッ、ドン」とドラムで高津戸の発音を鳴らして爆笑を誘い、ただひたすらに謙虚な山田、とキャラ立ちもバラバラなDirty Old Menの4人だったが、ひとたび音を合わせれば途方もないエモーショナルの波が洪水のように押し寄せてくる。そこからの本編ラストは圧倒的だった。オーディエンスが、拳を突き上げ、ジャンプ、ハンドクラップ、スウェイ、oiコールとありったけのアクションで、バンドに応えたラストはblue"D"。《さぁ乗りなよ みんなで空飛び回ろ》、《もう 1人で大丈夫》。オーディエンス一人一人に語りかけるように高津戸が歌い上げ、フロアにはじけるような笑顔が溢れた感動的なフィナーレであった。
アンコールでは、このツアーを支えてくれたスタッフ、集まったオーディエンスに最大級のリスペクトと感謝を伝える。そして、山下の巧みな仕切りから「トゥル トゥールル」の大合唱を巻き起こした“MY HERO”と“パントマイム”の2曲が披露された。内向きのエモーションをゆっくりと解放させるように高々と歌い上げる高津戸、それに共鳴する4人の煌びやかなバンド・アンサンブル。“パントマイム”は、彼らが今後歴史を積み重ねていく上で間違いなくアンセムになるだろう。いつまでも鳴り止まない拍手に包まれ、どことなく英雄的な香りを残しながら、Dirty Old Menの4人はステージから去っていった。
なお、本日のライブでは、9月15日にミニ・アルバム『somewhere』のリリース、そして10月からは全国対バンツアーの開催がアナウンスされた。7月末の同ツアー裏ファイナルを挟み、8月8日(日)の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2010』では、WING TENTに登場するDirty Old Men。今のバンドの状態はとてもいい。ぜひともこれを機会にチェックして欲しい。(古川純基)
<セットリスト>
1.present…
2.メリーゴーランド
3.象る天秤
4.elif
5.ワスレジノ葉
6.解いた手
7.rain show
8.セオリス
9.moon wet with honey
10.Time Machine Music
11.桜川
12.FORM of LIGHT
13.robot
14.Concrete Earth
15.knock duck
16 blue"D"
アンコール
17.MY HERO
18.パントマイム