ジン @ リキッドルーム恵比寿

充実のアクトだった。2月にリリースされた2ndアルバム『クオリア』を引っ提げての全国ツアー全23公演、そのファイナルとなるリキッドルームのワンマン・ライブ――というシチュエーションが、ライブそのものの完成度を後押ししていたのもあるだろう。が、何よりもひぃたん、ハルカ、もとき、哲之の、「自分たちの沸点を更新したい!」という熱意、そしてそれを絵空事ではなく現実のものにしたいというタイトな意志こそが生んだ充実感だったと思う。

19:08、場内暗転。4人が現れ、ステージで円陣を組む。「こんばんはジンです! イェイイェイイェイ!」というひぃたんの絶叫から、“獅子の種”“フーガ”“Route 18”と畳み掛け、多彩なビートの嵐、そしてハルカの音色博覧会のようなギター・プレイで一気にリキッドルームの空気を塗り替えていく。かつてのいわゆるヘヴィ・ミクスチャーとはまるで異なる、ファンクとメタルとアンビエントが正面衝突したようなサウンドも、“雷音”でハルカ&もときがクロスする空中殺法ジャンプも、もはや「飛び道具」ではなく、4人の呼吸の一部になってしまっているかのように自然にキマっていた。

「ツアーの間、ほんっとにいろんなことがあった! メンバーともケンカしたしね。特に後半とか3週間出っ放しとかあるわけで、そうなると3週間ずっと4人一緒なわけよ」とMCでひぃたんも語っていたように、2ヶ月間の強行軍ツアーは若い4人にとっても相当な試練だったようだ。続けてひぃたん。「今日の私は、わかりあうことがテーマ。みんなが『自分が正しい』『オマエが悪い』って言ってたらわかりあえない。となりの人を大事にしてあげてください! 今日は雨だけど、みんなの心の中の雨が少しでも晴れますように!」と“お天気雨”へ。オーディエンスは一面の手拍子でそのやわらかなサウンドを迎える。

ちなみに、2回のアンコール含めて全16曲というのは最近のワンマンとしては曲数的に決して多い方ではない。それでも終演まできっちり2時間かかるのは、それこそイースタンユース吉野寿かひぃたんか、というくらい1曲ごとに挿入される前口上によるところが大きい。この日もひぃたんのMCは、ライブが後半に差し掛かってその手応えを感じていくにつれてどんどん熱を帯びていった。

「今日、みんなにプレゼントがあります! ツアーで吸収したものを経て、新曲もってきました! 自画自賛しちゃうけど、すっげえ好きです!」とひぃたん。自分は確かにこの世界に生きているのか、真っ白にぼやけた世界の中で何を信じればいいか、という問いかけから生まれたという新曲“白夜”のエモーション大噴火のようなアンサンブルは、4人の着実な進化を物語っている。

その後も「壁をぶち壊しに行こうか!」「まだまだこんなもんじゃないだろ!」とオーディエンスを煽り倒すひぃたん。あっという間に本編最後の“パンドラ”へ。「終わっちゃうなー。泣いていいか? 泣かないけど」と笑うひぃたん。アンコール2曲を炸裂させた後、ダブルアンコールで鳴らしたもう1つの新曲“フィナーレ”は、爆音やエフェクトといったジンのサウンド面での「武装」を解いて、素のままで世界と向き合うような、しみじみとした無防備な曲だった。フロア一面汗だくで暴れ回る熱狂アクト!というものではなかったが、ロック界に降り立った「未知の生命体」から確固たる意志を持ったロック・バンドへ――そんな変化の瞬間を象徴するような一夜だった。(高橋智樹)

1.獅子の種
2.フーガ
3.Route 18
4.雷音
5.トーン・ジギ
6.夜鷹
7.マラカイト
8.お天気雨
9.白夜(新曲)
10.スケール
11.ワンスモア
12.Vuena Vista
13.パンドラ

アンコール
14.解読不能
15.創の手

アンコール2
17.フィナーレ(新曲)
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