YUKI@東京国際フォーラムAホール

YUKI@東京国際フォーラムAホール
YUKI@東京国際フォーラムAホール
2年ぶりの全国ツアーであり、彼女自身のソロ・キャリアにおいても最長規模となる『YUKI concert tour 2010“うれしくって抱きあうよ”』。7月頭から行われてきたこの全23公演のツアーが、いよいよ大詰めを迎える。日程終盤の、東京国際フォーラムAホールにおける公演は9月13日、14日、17日、18日と4日間に渡って繰り広げられ、さらに沖縄での9月25日、26日の2公演で全日程がフィニッシュすることになる。今回のレポートでは、東京初日9月13日公演分についてをお届けしたい。

本来は機能的にスマートにデザインされた国際フォーラムのステージが、古めかしい石柱や豪奢なベルベット、が描かれた枠で覆われている。妙に手作り感満点な、スケールの大きい学芸会のようなステージだ。そして開演と同時に、真紅の幕に唐突に踊る影が。なんと、空を飛ぶ鳥に掴まってステージに舞い降りるYUKIのシルエットである。そして行き交う何人もの人の影が組み合わさって、それを見上げる小人のようなYUKIの前に姿を現す巨木、はたまた美しい野狐。見事な影絵が作り上げられてゆく。これは凄い。わずか数秒で観る者をファンタジーの世界に引き込む演出である。どうやっているのか不思議だ。ちょっとマジックのようでもある。YUKIと戯れる子狐の姿が浮かび上がったところで幕が開くと、そこにはあやつり人形を操作しつつステップを踏むYUKIの姿。割れんばかりの拍手が彼女を包むのであった。

2010年YUKIライブの定番となった、4人の「きらめきストリングス」、5人の「ときめきホーンズ」、2人のコーラス、そして5ピースの「ザ・ウラー」から成るビッグ・バンド編成でのステージで、YUKIは左側だけがヒラヒラとしたアンシンメトリーな衣装を身に纏い、右側に膝あたりまでの長い三つ編みのエクステが揺れている。“朝が来る”でスタートしたパフォーマンスは“ミス・イエスタデイ”で早くも芯のある伸びやかな歌声をホール内に響かせて、『うれしくって抱きあうよ』モード現在のYUKIの姿をしっかりと提示してみせるのであった。

「みなさんこんばんは、YUKIです。『YUKI concert tour 2010“うれしくって抱きあうよ”』へようこそ。今日もお上手に歌うのではなく、一曲一曲、心を込めて歌いますので、最後までゆっくりお楽しみ下さい」。軽快にスウィングする楽曲にオーディエンスの盛大なハンド・クラップが加わり、“WAGON”が歌われる。演奏の途中でリズムがボ・ディドリー・ビートへと切り替わり、山下達郎の“DONUT SONG”が挿入される恒例のスペシャル・アレンジである。このビッグ・バンド編成でのライブは6月のスペシャル・ライブ『The Present』やROCK IN JAPANのステージでも観ているが、生演奏のコミュニケーションから生まれるアイデアを駆使して、歌を届けるということをYUKI自身が心底楽しんでいるように見受けられる。

「今年発表したアルバムを作っている間にも、こういうツアーにしたい、っていうイメージがどんどん沸いてきてしまって。着地点が見えてきたんですけど。例えば、昔の黒電話のダイヤルがジーッて戻る感じとか、メールよりやっぱり手紙が好きとか、そういう手応えのあるものがいいなと思って。チクチクと刺繍をする感じで作ったアルバムなんです。なので、デジタルも好きなんですけど、今回はこういうツアーになりました」。ここで『うれしくって抱きあうよ』のジャケット写真の抱きつくポーズをとるYUKI。「これ、本物よ(笑)。大きな木とか大好きな人とか、会いたいけどもう二度と会えない人とかをイメージしながら撮影したんですけど、今日、この中に入るのは皆さんなんです。それではツアー・タイトルでもある“うれしくって抱きあうよ”、聴いてください」。

ウロのある緑の木々のセットや田園風景の背景の中で、バンドの演奏とYUKIの歌が広がる。続く“さようなら、おかえり”のノスタルジックな印象が強い歌にも、このステージ・セットはとても良く似合っていた。肩の部分が大きくせり出したベージュの薄いドレスに衣装チェンジしたYUKIはアコースティック・ギターの演奏に合わせて“ハミングバード”を歌い、その間にも背景の上空には三日月が、大きな滑車で吊り上げられて昇っていくのであった。

ステージ下手のバンマス・浦清英のピアノ伴奏のみで力強く歌われた“プリズム”にしても、今度は上手のギタリストの脇に腰掛けて披露された“同じ手”にしても、今回のツアーは常にビッグ・バンドが重厚なアンサンブルでYUKIの歌を盛り立てるわけではない。バイオリンが二胡のようにオリエンタルなメロディを奏でた“チャイニーズガール”の後の“汽車に乗って”では、各プレイヤーが短いリード・パートを交代で聴かせてゆく雄大なアレンジになっていたりもするなど、ずいぶん贅沢な、イヤらしい言い方をすれば「とにかく人件費がかさむ」パフォーマンスなのだ。でも、この生音のキャッチボールから生まれるヴァイブでなければ成立しないステージなのだろう。YUKIが目指したアナログ感・手作り感に満ち溢れたツアーというのは、心のこもった生々しい息づかいが折り重なって届けられるという意味での豪華さ・贅沢さではないだろうか。

バンドが奏でるワルツ風の演奏とともに幾つもの星が宙に浮かび、なんと白いドレス姿になったYUKIが天井から舞い降りてくる。そして絶え間ない思いを迸らせるようにして“長い夢”が歌われた。賑々しいロック・チューンで披露された“プレゼント”ではオーディエンスのシンガロングを求め、フィニッシュとともに大歓声を浴びるYUKI。ここから華々しいダンス・ビートとレーザー光線に彩られた“ランデヴー”、高いハイヒールでそんなに駆けずり回って大丈夫か、とまで思わせた“COSMIC BOX”までのアッパーな展開は、実に見事なクライマックスを描き出していった。本編ラストはアルバムと同様、たくさんの花が咲き乱れる壁紙風のバックとともに歌われた“夜が来る”で締めくくられる。

アンコールでは9月15日リリースのニュー・シングル“二人のストーリー”が披露された。YUKIによればかぐや姫“赤ちょうちん”の平成版、ということで半コーラスほど“赤ちょうちん”をアカペラで熱唱したりもしていたが、生活のリアリティに踏み込んだ男性視線の新ラブソングである(RO69のディスクレビューはコチラ→http://ro69.jp/disc/detail/40304)。そして「みんなもっとスウィングしたい!?」とメンバー紹介を交えながら華やかにアンコールを駆け抜けた“恋愛模様”へ。次なるステップまでもを垣間見せる、豪華絢爛そのもののパフォーマンスであった。なお、この日のYUKIは「ゲッツ!」がいたくお気に入りで、ことあるごとに指差しまくっていたが、幕が閉じようとするその瞬間にも、この日最後の「ゲッツ!」を客席に向けて見舞っていたのであった。(小池宏和)

セット・リスト

1.朝が来る
2.ミス・イエスタデイ
3.WAGON
4.歓びの種
5.うれしくって抱きあうよ
6.さようなら、おかえり
7.ハミングバード
8.プリズム
9.同じ手
10.ユメミテイタイ
11.チャイニーズガール
12.汽車に乗って
13.長い夢
14.星屑サンセット
15.プレゼント
16.ランデヴー
17.COSMIC BOX
18.夜が来る

EC1.2人のストーリー
EC2.恋愛模様
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