TRICERATOPS @ SHIBUYA-AX

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TRICERATOPS、通算10作目のフル・アルバムを携えての『WE ARE ONE TOUR 2010』で目下、全国絶賛行脚中。現在はまだ日程後半戦というところだけれども、東京・SHIBUYA-AX公演のライブレポートをお届けしたい。今後に控えた栃木・新潟・仙台・盛岡・札幌の各公演にお出かけの方は、本文中、多少のネタバレを含みますので、どうぞご注意下さい。週のど真ん中の水曜日であるにもかかわらず、AXのフロアは大盛況だ。渋いブルースやソウル、そしてザ・フー“マイ・ジェネレーション”とオープニングSEが流れ、いよいよトライセラがステージに姿を現す。

オープニング・ナンバーは、いきなり突き抜けるように強烈なグルーヴで時代を捉えるブルース・ロック“Neo Neo Mods”だ。吉田(Dr.)がキックするバスドラには、どかんとトリコロール・カラーのターゲット・マークが描かれている。60年代にはビートルズがいて、その後にはフーもいて、80年代からはマイケル・ジャクソンの輝かしい時代があって、そして90年代後半以降の日本にはトライセラがいるのである。ネオ・モッズよりも未来を生きる彼らは“Neo Neo Mods”なのだ。ちょっと乱暴なネーミングかもしれないけど、正しい。アイドルであり、アウトローでもあり、また革命家で、異文化が交わる場所での刺激的なダンス・ミュージックを鳴らしてくれるバンドなのである。

「『WE ARE ONE TOUR』へようこそ! 僕ら全力でやるんで、がっつりと踊っていってください。最高の夜にしましょう」。曲間にも和田は、発声練習よろしく鼻歌のメロディを歌って上機嫌だ。2トーン・スカ風にクライマックスを迎える“Pretty Wings”では、演奏をビシッとフィニッシュして「かっこいー!」と歓声を浴びてしまっている。そして大らかなロック・グルーヴの中で歌われる“Happy Saddy Mountain”の後には「天国の友人に捧げます」と、滑るように助走して力強く舞い上がってゆくメロディ“Invisible ~透明のハグ~”が。新作『WE ARE ONE』からのナンバーが連なる。こういう重いテーマを、これだけ希望に満ちた歌にして演奏してしまうトライセラはやはり凄い。

「ちょっと座っていい?」と、林(B)とともに用意された椅子に腰掛ける和田。「僕ら、もう30代なもんで……あ! ひとり40代が! めでたく佳史(吉田)は、今回のツアー中に40歳になって。出会った頃は25だったのに(笑)。昔はイベントやっても最年少バンドって言われることが多かったんだけど、最近は、最年長になることがあってね。まあ、いいことですよ?」すると吉田が口を挟んだ。「今日、誕生日の人がいる」。ファンも既に心得たもので、フロアのあちこちから祝福の声が上がっていた。先ほどから他人の年齢をネタにしている和田こそが、この日35歳の誕生日を迎えた当人なのであった。吉田を中心にして“ハッピー・バースデー”の歌が会場内に広がる。

「いやあ、幸せだわ。僕はずっと、みんなにロックで踊って欲しいってことを、インタビューとかで言い続けてきて。僕らがデビューした頃はロックってそういうものじゃなくて、苦悩するものだったり、暴れるものだったりしたわけ。でも僕は、ロックはもともとダンス・ミュージックだと思ってやってきたから、みんなにそう言い続けてきたの。そしたらようやく、《踊れるロックの…》なに? 《最高峰》とか? 自分でいったわけじゃないよ? そういうコピーを付けて貰えたりするようになって。つまりね、大切なのは、やめないこと」。そう、ここ10年ほどのシーンで隆盛を極めた、ロックとダンス・ミュージックの融合。或いはロックのダンス・ミュージックとしての復権。トライセラは間違いなく、その先頭を走ってきたバンドだ。

「とは言いながらも一方で、ロマンチックなもの、スウィートなものも好きで。今回はそういう曲を、アコースティックでやってもいいですか? 心のブラを外してもいいんだよ? 本当にブラ外してもいい。ロック・コンサートだから! では、恋をしちゃったりしている人に捧げます。あたし恋してない、捧げてもらえない、って思った人! 大丈夫、またするから! 人間、そういうもんだから。いずれまた恋をする人にも、捧げます」。そう告げて、軽やかなフレーズながらどこか悲しみをたたえた和田のギターが踊る“シラフの月”が披露される。いや、たとえアコースティックであっても、トライセラの楽曲はダンサブルだ。どんなに悲しみをたたえていても煌めく命そのもののような肯定性が、絶えずダンス・ミュージックという形を成して表出しているのだ。アコースティック編成のクリアな音像の中にクッキリと浮かび上がる“僕らの一歩”のストーリーテリングもまた、素晴らしかった。

さて、エレクトリック・セットに戻しての名曲“GOTHIC RING”がプレイされた後には、再び新作収録曲が畳み掛けられる。スクリーンに映し出されたMay J.との疑似デュエットを敢行した“Startin’ Lovin’”や、和田がブルージーなギター・フレーズを思うさま弾き倒した“あのねBaby”、大振りなハンド・クラップがフロア一面に広がる中で歌われたタイトル・ナンバー“WE ARE ONE”と、きっちりバンドのダイナミックな面も見せて、最後には“Fever”でヒート・アップしたまま本編を走り抜ける。

アンコールは何と、AXにほど近いNHKで収録を行っていたMay J.がステージに駆けつけるという、ファン驚喜のサプライズとともに始まった。無論、さきほどプレイされた“Startin’ Lovin’”が今度は生デュエットで歌われる。更には、彼女が作品でカバーしたマライア・キャリーの“All I Want For Christmas Is You”(邦題:“恋人たちのクリスマス”)も、トライセラ・バージョンで披露してしまった。幾らMay J.のピンクのミニ・ドレス姿が可愛いからと言って、彼女に花を持たせ過ぎじゃないだろうか? いや、とにかく彼女の伸びやかな歌声と、バンドのダンサブルな演奏が、見事にこの曲にフィットしていた。そもそも、和田は「ちょっと裏で練習してきた」とか言っていた割に、細かいフレーズまでマライアの原曲の雰囲気をしっかりと再現していたし。2010年もいよいよ12月に突入というところで、これは最高のクリスマス・プレゼントになった。

さて、『WE ARE ONE TOUR 2010』もまだまだ続行するトライセラなのだが、さらにその後の自主企画『DINOSAUR ROCK’N ROLL Vol.5』についても告知されていたので報告しておきたい。来る2011年3月24日及び25日、赤坂ブリッツで開催決定である。両日とも、トライセラがそれぞれ異なる2組のグループをゲストに招いて催されるとのこと。ぜひ、公式サイトで続報をチェックしていて欲しい。(小池宏和)
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