ジョン・バトラー・トリオ @ 赤坂BLITZ

ジョン・バトラー・トリオ @ 赤坂BLITZ
ジョン・バトラー・トリオ @ 赤坂BLITZ - pics by Yusuke Kitamurapics by Yusuke Kitamura
今回のジョン・バトラー・トリオ来日公演は、本来2010年10月に予定されていたジャパン・ツアーの振り替え公演であった。同2010年にフジ・ロックで繰り広げられた圧巻のショウ(というか彼らはもはや苗場との驚異の親和性を誇るのフジの看板アクトである)の記憶も鮮明な時期だっただけに10月の公演延期は無念だったわけだが、そのぶん今回のツアーにかけるバンド自身の意気込みも、そして熟しきったファンの期待値もマックスを計測していたのではないだろうか。

赤坂BLITZはほぼ満員御礼の入り。フジロッカー風のいかにもなお客さんもいれば、会社帰りのサラリーマン風のお客さんもいれば、大学の友達3人組みたいな若いお客さんも多い。今のジョン・バトラー・トリオは「フジとの親和性の高いバンド」=「ジャム・バンド」みたいな当初のステレオタイプからはみ出して、ここ日本でも開けたポピュラリティを獲得しつつあるバンドである。新ラインナップ、新レーベルで打ち出された最新作『April Uprising』自体がジャム・バンドからの脱却を図った一枚であったことも大きいだろう。オープニングは“Pickapart”。ジョン・バトラーのギター・イントロ、その波長が徐々に大きくうねりだす様に呼応するようにオーディエンスのどよめきも大きくなっていく。

ここからの2時間は、つくづく「とんでもないものを見せつけられたなぁ」という、記憶の反芻作業が楽しくてしかたない内容となった。大前提としてジョン・バトラー・トリオは恐ろしくプレイヤビリティの高い職人的集団だが、それ以上にプレイヤーとしてのオリジナリティが際立っている集団でもある。アコースティック・ギター、エレキ・ギター、バンジョーをめまぐるしくスイッチングしながら演奏していくジョン・バトラーは、アコースティック・ギターをまるでエレキ・ギターのように弾き、エレキ・ギターをまるでアコースティック・ギターみたいに弾くという、楽器の特性や境界線をあいまいにしていくタイプのプレイヤーだ。彼にとってのギターとはドラムス以上にリズム隊であり、まるでペダル・スティールのように緩く音波を描き、そしてまるでシンセサイザーのようにメロディアスな武器でもある。ここまでギターの可能性を広げきったプレイヤーは現在殆ど存在しないし、しかもジョン・バトラーのギターは可能性を広げることを一義とした不可解なアヴァンギャルドとは一線を画す、極めてフレンドリーで楽しいものだ。

最初のクライマックスとなった“Don’t Wanna”、最新アルバムからのシングル“Revolution”、そしてウッドベースに持ち替えての“Better Than”といった前半戦のナンバーは、ファンク、カントリー、レゲエ、フォーク、そしてジャズといったジョン・バトラーの持ち味を(「ジャム・バンド」としては)コンパクトに収納したポップチューンが中心で、瞬く間に会場が温まっていく。あと、このバンドは楽器の技巧に目を奪われがちになるが、実は華麗にハモるコーラスワークを筆頭に「歌」そのものも恐ろしく巧い。

そして中盤にきて、温まった空気が仕切り直しのように一転する。ブオンブオンと不穏に空気を震わせるディジリドゥーに先導されて始まったのは“Mama”。これが圧巻で、20分近く延々たるプレイが続く。“Mama”の20分にはこの日の2時間分のプレイに匹敵する情報量とストーリーが詰まっていて、「ショウの中のショウ」といった入れ子の構造すら感じさせる特異なナンバーだ。続く“Ocean”はジョン・バトラーのアコギ弾き語りスタイルの楽曲なのだが、これまた“Mama”同様にたった独りでバンドの演奏の熱量に匹敵する音数、アイディアの数が放出されていく。前半のコンパクト仕様なセットとはかけ離れた、もうひとつのジョン・バトラー・トリオの顔となるべき個性が、この中盤の2曲ではなかっただろうか。

そして“Ragged Mile”から始まった後半戦は、前半の凝縮された内容と中盤の膨張していく内容の折衷スタイルといった趣で、本来コンパクトなポップ・チューンが自在に変化、応用、昇華されていく。レゲエ、というか軽快なスカのリズムに乗って始まった“Excuse”ではジョン・バトラー以外の2人、ドラムスのニッキーとベースのバイロンがそれぞれ即興でソロの見せ場を作っていくのだが、これまたどうしようもなく格好いい。ジョン・バトラーの超絶プレイヤーっぷりに目を奪われがちなこのトリオだが、新ラインナップのニッキーとバイロンも間違いなく世界最高峰のプレイヤーである。

“Excuse”のクライマックスは、ニッキーが音頭を取って始まった客席との即席コール&レスポンスだった。ニッキーのトリッキー極まりないコールに対してほぼ完ぺきに揃った爆音レスをかますオーディエンスもとんでもない。もはやこの時点になると、私達オーディエンス一人一人の熱量までもが、彼らの音楽の一部に取り込まれていくような感覚を覚えずにはいられなかった。本編ラストの“Close To You”、アンコールの“One Way”、“Funky”と、最終コーナーはステージ上の彼らとフロアの私達がパーフェクトにシンクロした新たな「音楽体」の誕生といった趣で完全燃焼。

ラスト、ジョン・バトラーは白いチョークでステージに大きく「TOKYO」と落書きし、その上に3つのハートマークを描いた。この3つのハートマークは多分、ジョン、ニッキー、バイロンを表していたんじゃないだろうか。(粉川しの)

セットリスト
1.PICKAPART
2.USED TO GET HIGH
3.I’D DO ANYTHING
4.DON’T WANNA SEE YOUR FACE
5.REVOLUTION
6.BETTER THAN
7.TREAT YOUR MAMA
8.OCEAN
9.RAGGED MILE
10.GOOD EXCUSE
11.ZEBRA
12.C’MON NOW
13.CLOSE TO YOU

<ENCORE>
14.PEACHES & CREAM
15.ONE WAY ROAD
16.FUNKY TONIGHT
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