まだツアー中なのでセットリスト全掲載は避けておくが、基本的には“マジックディスク”に“迷子犬と雨のビート”に“さよならロストジェネレイション”に“イエス”――といった『マジックディスク』収録曲を随所に配しながらも、各公演ごとに曲順や内容を変えて挑んでいることが、前日・同会場のセットリストともかなり変わっているこの日の曲目からもわかる。が、大きく言えるのは2つ。格段に安定感を増したキヨシのドラムに象徴される通り、今のアジカンが「ギター・ロック・バンド」から強靭な「ビート・バンド」へとその佇まいを変貌させつつあること、そして『VIBRATION OF THE MUSIC』というツアー・タイトルの通り、個々のメッセージ性よりはでっかい音楽のタペストリーを描くことでオーディエンスに/時代に作用していこうとする開放的な音楽空間が広がっているということだ。
『マジックディスク』は、ゴッチによる/アジカンによる「00年代という時代の空気への決別」の作品だった(それはゴッチ自身「00年代的な曲」と言っていた“ソラニン”をわざわざボーナストラックと位置づけていたことからもわかる)し、“新世紀のラブソング”にしても“マジックディスク”にしても“さよならロストジェネレイション”にしても、当初は明らかな「闘争」の楽曲として響いていた。が、この日のアクトでフロアを揺らし真夏のような熱気を巻き起こしていたのは、『マジックディスク』の楽曲が持つ音楽的な豊かさであり、快活なロックのダイナミズムだった。“マジックディスク”での鮮烈なオルガン・プレイや“さよならロストジェネレイション”での豊潤なピアノ・ソロをはじめ、今回のツアーのほとんどの公演にサポート・キーボーディストとして参加しているフジファブリック・金澤ダイスケのプレイも要所要所で光っていた(11月の3公演のみexオトナモード・山本健太がKey参加)が、何より今のアジカンのアクトをタフで風通しよくしているのは、アジカン自身のモードに他ならない。今回のツアーで「小・中学生および高校生のチケット学割制度」を導入しているのも、そんな「より自由に/自然に音楽を楽しもう、いや楽しみたい!」というバンドの姿勢の表れなのかもしれない。
ゴッチいわく「昨日はしゃべりすぎて10分以上になっちゃった」という前日のMCに比べればこの日は、尺としては抑えめだったものの、金澤ダイスケを紹介する際に「長らくツアー中は飲み仲間がいなかった俺にね、いろいろお付き合いいただいて。もちろんプレイヤーとしてもすごいんだけどね(笑)。『どっか行きたい!』ってなった時もだいたい俺1人なんだけど、ダイちゃんが一緒に行くってことになると、移動車を出してもらえるんですよ(笑)。……バンドってこうなっていくんだよ? 10年ずっと仲良しっていうバンドある? 建ちゃんと山ちゃんはいつまでもつるんでて気持ち悪いんですけど(笑)」とメンバーをいじってみせたり、「人為的なミスっていろいろあるよね。開演5分前なのにサウンドチェックで“新世紀のラブソング”のイントロが(外音で)出ちゃったことがあって。『はじまっちゃった!』ってダイちゃんが急いで走ってきたりとかね(笑)。すぐ止まったんですけど」とツアー中のエピソードをネタにしたり、と至って滑らかだった。そして、その潤滑油になっていたのは、紛れもなくこのツアーの、そしてこの日のアジカンのタイトなアンサンブルへの充実感だろう。
本編途中で披露した新曲も最高だった。ストレートな8ビートで灰色の世界をカラッと塗り替えるようなパワーを感じさせつつ、ゴッチと建ちゃんがサビ近くでユニゾンでパワフルにハモっていたりするあたりは「洋楽オルタナ・バンドが高揚感勢い余って到達した激ポップな曲」的な匂いも感じさせる、不思議な味わいの曲。Wアンコールまで含めちょうど2時間、歓喜に満ちた時間はあっという間に過ぎていった。ツアーは3月5日・6日のZepp Fukuokaまでライブハウスを駆け抜けた後、横須賀芸術劇場/グランキューブ大阪/東京国際フォーラム ホールA(2公演)/名古屋国際会議場センチュリーホールを回ってフィナーレを迎える。この強烈なバイブレーションの向こうにどんな風景を見せてくれるのか? 今から楽しみで仕方がない。次の公演は2月1日、高崎club FLEEZ!(高橋智樹)