デフトーンズ @ 渋谷クラブクアトロ

バンドがステージに姿を現す前から、場内には大きなデフトーンズ・コールが広がって至る所にホーン・サインが突き上げられている。4年ぶりの、一夜限りのデフトーンズ来日公演。8日のジャカルタから始まって10日間のうちに東京、マニラ、クアラルンプール、バンコク、シンガポール、ホノルルと各都市をまわる強行軍であることを考えると、日程や会場が予め限定されてしまっていたのは致し方のないところだろうか。とにかく、こんなショウを観ることができるのはまったく幸運としか言い様がない。開演前、すでに最高潮に達してしまっているオーディエンスの熱気にも頷けるというものだ。

08年に交通事故に見舞われて以来、依然昏睡状態にあるというベーシストのチ・チェンに代わって、最新アルバム『ダイアモンド・アイズ』のレコーディングにも参加した元クイックサンドのベーシスト、セルジオを加えたラインナップで大歓声の中にステージが幕を開ける。オープニング・ナンバーはデビュー作『アドレナリン』からの“バースマーク”である。ステファンの宙空を引っ掻き回すようなギター・フレーズが鳴り響いて、ネルシャツ姿のチノ・モレノによる気怠さと艶かしさが混在した彼独特の歌声が届けられる。続いて大振りなグルーヴのラップ・メタル・ナンバー“エンジン No.9”では、早々にオーディエンスによる間の手も見事にバンドのパフォーマンスに加味されてゆくのだった。“ビー・クワイエット・アンド・ドライヴ(ファー・アウェイ)”のイントロが轟くと、凄まじく鋭い反応で歓声が沸き上がる。今回の公演は、デフトーンズの各アルバムごとに代表曲が固め撃ちされてゆく形のセット・リストで進められてゆくのであった。

陰鬱なメロディと爆発的なスクリームが急転直下に姿を現すパフォーマンスを次々に乗りこなしながら、“デジタル・バス”あたりからはフランクによる印象的なシンセ・サウンドも前面に表れて曲調とバンド・アンサンブルの多彩さがさらに広がってゆく。いわゆるヘヴィ・ロックというスタイルに身を置いて十二分にサウンドのカタルシスをもたらしながら、ジャンルの枠から自由に解き放たれた感情表現をソングライティングに落とし込んで来たデフトーンズのキャリアが一息に説明されてゆくようだ。“ナイフ・パーティ”の昂ったシンガロングもまた、デフトーンズならではの光景と言えるだろう。あら? でもサード『ホワイト・ポニー』からはこの2曲だけか。個人的には他にも好きな曲がいっぱいあるんだけどな。「調子はどうだいトーキョー? この場に立つことが出来て本当に嬉しいよ」と、豊かな口髭の中に歯を綻ばせながらマイクを叩いてみせるチノである。

そしてデフトーンズ史上、恐らく爆発的なヘヴィネスが最も効果的に迫るセルフ・タイトルの4作目からの楽曲群へと突入してゆく。まったく、どこがハイライトなんだか分からないような、むしろさまざまな楽曲のハイライトだけを混沌とした1曲の中にミックスしてしまったようなとんでもないナンバー達が並べ立てられていった。暑い暑い。チノはペットボトルからぐびぐびと水をあおっている。予報では、今夜辺りから雪が降ることになっているような時期なのに。でも、オーストラリアの夏フェス、ビッグ・デイ・アウトへの出演をつい先月経てきたばかりの彼らには、この熱気はむしろありがたいのかも知れない。チノもギターを掻き鳴らして“ミネルバ”の美しい轟音とメロディが像を結ぶようにして浮かび上がってゆく。開演直後は少し音量が物足りない気もしたのだけれど、いつの間にか充分な音の迫力と広がりを見せているのだった。ラウド・ミュージックというのは必ずしも音量に依存するものではなくて、曲調や音の質感の方が重要だということがとても良く分かるステージだ。

後半、5作目の『サタデイ・ナイト・リスト』を後回しにして、最新作『ダイアモンド・アイズ』からの曲群が遂に解き放たれていった。フランクのシンセ音が煽るドラマティックなヘヴィ・スロウ・チューンのタイトル曲から、“ロイヤル”そして“CMND/CNTRL”と猛り狂うようなナンバーが続く。その感にも「いい気分だー!」と絶好調の笑顔を見せるチノ。そして幻想的なフレーズに、まったくさっきまでの鬼のような咆哮と同一人物なんだろうかと思わせるようなチノのファルセット・ボイスが舞う『ダイアモンド・アイズ』きっての切ない美曲“セックステープ”。最高。最高だ。とにかく『ダイアモンド・アイズ』は、過去の作品群の後に聴かせてもこれだけ粒ぞろいなんだぞという、頑強な自信に裏付けられたセット・リストになっているわけだ。『ダイアモンド・アイズ』は、誰も置き去りにせずにひたすら高みを目指す、デフトーンズの懐の深い指向がそのまま一枚のディスクに封じ込められたような名盤である。チノがメンバーを順にコールしてスタートした“ビューティー・スクール”までの新作からの7曲は、本当に素晴らしい時間帯だった。

そして終盤は『サタデイ・ナイト・リスト』からダイナミックなコンビネーションで叩き付けられる“ホール・イン・ジ・アース”と“KIMDRACULA”、そして再び『ホワイト・ポニー』からの“チェンジ(イン・ザ・ハウス・オブ・フライズ)”(喜!)と“パッセンジャー”で本編を締めくくった。この《俺はいつだってお前の足手まといなんだ》という大きな叫びこそが、デフトーンズのもたらしてくれる救済である。そしてステファンが一人残って美しいギター音響を聴かせるステージにメンバーが戻り、オーディエンスの弛まない間の手を巻きながら披露されたアンコールは“ルート”と“7ワーズ”だ。素晴らしいショウだった。この数時間後にはすでにセルジオが「飛行機に乗るために電車に揺られているよ」とツイートしてしまうぐらいの慌ただしい来日公演だったけれど、ファンにとっては一生モノの思い出となったのではないだろうか。(小池宏和)

セットリスト
1:Birthmark
2:Engine No.9
3:Be Quiet and Drive (Far Away)
4:My Own Summer (Shove It)
5:Lhabia
6:Around the Fur
7:Digital Bath
8:Knife Party
9:Hexagram
10:Minerva
11:Bloody Cape
12:Diamond Eyes
13:CMND/CNTRL
14:Royal
15:Sextape
16:Rocket Skates
17:You've Seen The Butcher
18:Beauty School
19:Hole in the Earth
20:Kimdracula
21:Change (In the House of Flies)
22:Passenger
EN-1:Root
EN-2:7 Words
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