ACIDMAN@Zepp Tokyo

「いやあ、いい景色ですよ。すっごい……不安なこともあるけど、この景色を見ると頑張れるよ!」と、感激を隠せない様子のオオキノブオのアンコールのMCに、Zepp Tokyo満場のオーディエンスの大歓声! 自身3度目の日本武道館ワンマン公演をファイナルに据え、日本各地のみならず韓国・台湾公演も含んだ『ACIDMAN LIVE TOUR“ALMA”』の初日。客電が落ち、映像が流れ、SEに合わせてフロアから割れんばかりのクラップが沸き起こり、その手拍子が独特のシンコペーションを刻みながらさらに力を増し……という時点で胸が熱くなるくらいに感動的だった。が、オオキ/サトマことサトウマサトシ/イチゴことウラヤマイチゴの3人が気合い一閃、ソリッドな轟音を叩き出した瞬間、その感動はビッグバンのように膨張し、あっという間にZepp Tokyo全体を呑み込んだ。

ACIDMANの音楽は、一貫して、世界を、人間の心を、原子レベルのミクロの視点と銀河越しのマクロの視点の両アングルから描き切ることで、自分を含めた人間の儚さと弱さ、だからこそ今を全力で生きることの大切さを表現し続けてきた。轟音と静謐を真摯に織り重ねる彼らの3ピースのバンド・サウンドが、ソリッドな強靭さと悠久のスケール感を作品ごとに増大し続けてきたのも、まさに彼ら自身のそんな哲学がもたらした進化であると言える。が、そんな視座に立つということは、自らをイメージの極北に追いやるということでもある。最新アルバム『ALMA』はまさにその極致のような――何のガイドも命綱もない宇宙の果てから、聴き手の魂だけを信じて渾身のボトルメッセージを送るような作品だった。今の日本のシーンで、このシリアスで観念的なメッセージが伝わるのだろうか?と、オオキの気持ちが揺れる瞬間もあったはずだ。

しかし、蓋を開けてみれば、この日のアクトは終始オーディエンスのエモーションが轟々と音を立てて吹き荒れる、圧巻の魂炸裂大会だった。誰もがオオキの、そしてACIDMANの魂をがっちりと受け取って、この場所に立っていた。まったく異なる軌道を描きながら生きている2700人近い人たちが、運命的にこの日のZepp Tokyoに惑星直列を果たしていることの奇跡を、誰もが感じ、謳歌し、祝福し合っていた。そして……その奇跡を誰よりも感じまくっていたのが、他でもないオオキノブオ自身だった。ステージの途中で何度も顔を拭い、「こんなに盛り上がってくれるとは思ってなくて……思わず感極まってしまいました。本当にどうもありがとう!」とオオキは語り始めた。今作タイトルの由来にもなった、南米チリの電波望遠鏡「ALMA」を実際に見に行ったこと。そこで銀河の写真を撮ったこと。銀河がまるですぐ目の前にあるように感じたこと。「普段は見えないけど、銀河が本当にそこにあるんですね、東京では見えないだけで。僕らが今こうして生きて、ライブに集まってることも、ものすごい奇跡的なこと。そんなことを思わせてくれる旅だったんで……この想いを、全国に伝えに行きます」。感極まったような大歓声がフロアに広がった。

そして。なにぶんツアー初日なのでセットリストが掲載できないのが残念なところだが、今回は選曲と曲順、ライブ展開が実にいい。“風が吹く時”“ワンダーランド”など『ALMA』の楽曲を軸としつつ、“赤橙”から“OVER”まで過去曲を巧みに織り込み、楽曲の枠を超えた壮大なドラマを描き出すことに成功している。バンドとオーディエンスの魂がダイナミックに響き合う中、静寂の音世界を一瞬で荘厳なディストーションへと塗り替えてみせた“ノエル”には身体が震えたし、《嗚呼、これが心というものなんだね》(“2145年”)のフレーズは目が眩むほどのスケールで脳内に広がった。3人の磨き抜かれたタフなアンサンブルと、音楽の果てに人間の真実を描き出そうとする意志とが高次元で融合した、ロックを超えたアートフォーム。最高だ。

ちなみに。アンコールでは冒頭の「この景色を見ると頑張れるよ!」のオオキのMCに続けて「いい空気が満ちてます! 本当にありがとう!」とサトマが言ってさらに会場の温度が上がり、そして!と会場の注目が一身に集まったところでイチゴが「……ボーッとしてました!」と超天然のオチをつけたり、本編MCでも「オオキが一生懸命想いを伝えようと曲を書いて、それをこうしてみんな聴きにきてくれて。サトマはぴょんぴょん跳ねてるだけですけど」というイチゴにサトマがペットボトル投げてみせたり、そんなイチゴはイチゴで「深海魚ですか?」呼ばわりされるなど散々オオキにいじられまくっていたり……といった3人の関係性丸見えのMCでいつもの通りフロアを沸かせてもいた。が、そんな心地好い笑いに満ちた和みMCも霞んでしまうほど、この日のアクトは壮絶なまでのエネルギーを発していたし、2011年という時代におけるバンド/音楽の可能性をとんでもなく大きく広げて見せていた。アンコール含め約2時間半のアクトが終わった後、暗闇の中にスタッフクレジットが映し出されている間も、熱い拍手喝采が止むことはなかった。次の公演は3月3日、香川・高松オリーブホールにて。そして、ファイナルの武道館は5月1日。『ALMA』の旅は、まだ始まったばかりだ。(高橋智樹)
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