HINTO @ 渋谷Star Lounge

HINTO @ 渋谷Star Lounge
HINTO @ 渋谷Star Lounge
HINTO初のワンマンライブは「おだいはみてのおかえりで」と名付けられたタイトル通り、入場者が帰り際に自分でライブの対価を決める投げ銭方式で行われた。つまり、チケット代は0円~。元スパルタローカルズの安部コウセイ(ボーカル&ギター)と伊東真一(ギター)を中心に結成された、という枕詞が必要なくなるくらいシーンにその存在が浸透してきたこのタイミングでする初ワンマンで、HINTOは勝負に出たのだ。当然ながら前のバンドからのファンが沢山いるHINTOは、たとえまだ「HINTOの音」が届いていなくともライブをすればある程度客は入る。しかし、そんなところに留まることをよしとせず「新人バンド」として少しでも広く世の目に、自分たちをまだ知らない人たちの目に留めたいという思惑が、この企画に繋がったのだと思う。そして、その思惑はライブが始まる前に、すでに半分は叶っている。整理券の申込受付には応募が殺到(安部コウセイはMCで「整理券の争奪戦凄かったらしいね!2000くらい来たって!」と言っていた)、それを受け次の日に同じ条件で開催することにした追加公演も即定員が埋まったし、しかも、その追加公演はUSTREAMでノー・カット生中継されることが決まったのだ。つまり、この2日間で間違いなくHINTOの音楽を知らなかった人たちが大勢彼らを目撃する。あとは、どれだけの爪痕を残せるかだ。そんな期待(すでにHINTOのライブを目撃していた者として、期待だけがあった)を抱いて行った超満員の渋谷Star Loungeで見たのは、まさしくぐうの音も出ないほどの圧勝のライブだった。

18時9分にSEで少年隊の“仮面舞踏会”が流されると同時にステージを覆っていた幕が開き、HINTOが姿を現した。フロントの3人は全員腕を組んで足を肩幅強に開き、不敵なポーズをとっている。おぉ、とその力が入っているんだか入ってないんだかよく分からない雰囲気に圧倒されていると、そのまま1曲目の“びいち”が始まった。演奏が始まった途端、ステージ上のバンドの雰囲気が一変する。とにかくこのバンドは演奏中「絵になる」のだ。メンバー1人1人を個別に見ている以上に全体像に、4人がステージの定位置に立ち楽器を演奏している光景に、何とも形容しがたい美しさと無敵感が生まれているのである。その立ち姿の良さは言わずもがなロック・バンドにとって最も大切なものの1つであり、同時に後天的に手に入れるのが難しいものでもあると思う。そして、HINTOはそれを、それだけでバンドの武器になるレベルで備えている。是非、生で見てみて欲しいと思う。うっとりするから。

2曲目“ハードル”、3曲目”しらないまち“と、昨年12月にオフィシャル・サイトとライブ会場限定販売でリリースされたファースト・ミニ・アルバム『チェーンサマー』収録の曲(”しらないまち“はボーナストラック別で2種類あるうちの「黄盤」の方のボーナストラックだが)が続けて演奏される。『チェーンサマー』も生まれたてのバンドの躍動感が詰め込まれた優れた作品だったが、正直に言ってしまうと、収録曲はどれもライブではすでに音源の遥か上を行く演奏に到達していた。生で見る迫力、というだけではなく、メンバーそれぞれのプレイヤーとしての凄さが非常に分かりやすい鳴り方をしているのだ。絶えずファンキーにうねるベース、手数の多いフィルで曲に激しさを与えるドラム、どれだけポップなメロディを歌っていてもどこかニュー・ウェイヴ的なストレンジな空気を漂わせ続けるボーカル、そしてときにキング・クリムゾンのロバート・フリップをさえ髣髴とさせるような変態的かつ超絶技巧のギター。それぞれ違った個性を持つ4人が、何の遠慮もなく全力を出し合っていることが、HINTOのサウンドの個性を決定付けていることがはっきり分かる。ライブでの演奏を見ていると。

その個性とはつまり、多彩、ということだ。HINTOの音楽の中には例えばファンカデリックも、ボブ・マーリーも、XTCも並列に見つけることができる。ジャンル、国境を超越したサウンドの混血と言う意味で、ここまでのオリジナリティは日本でも有数なのではないだろうか。しかし、その情報量の多さが難解さに直結しているかというとそうではなく、サウンドの風通しは非常に良い。それは、良い意味で音に情念がこもり過ぎていないからだと思う。自分の出来る一番格好良い演奏をする、そしてその演奏の格好良さを自分自身が楽しむ、それだけにひたすら集中していることが、あの解放感溢れるサウンドに繋がっているのではないだろうか。また、その軽やかなサウンドが響く中、本当に楽しそうなバンドがいて、見ているこちらも楽しくならないはずがない。自分の目に入る限りではフロアには終始笑顔が溢れていて、最高の空気が生まれていた。

今日のハイライトは、安部コウセイの「久々に聞いてみようと思うんですが、今日誕生日の方はいらっしゃるでしょうか?」→フロア沈黙→「いないのかよ!・・・真くん今日誕生日だっけ?」→→「・・・そうそう」(伊東真一)→「・・・何だこれ!」という、不運が少しかわいそうだったMCを経て披露された“バースデーパーティー”だったと思う。ヒリヒリするようなギターのフレーズが印象的な曲だが、テンションが右肩上がりに高まっていくにつれてどんどん前のめりになっていく演奏によって、曲の切迫感が数倍にも増しているように感じられた。しかも、激しくなればなるほど、同時により踊れる音になっているのが素晴らしかった。普通なら、あれだけヒートアップしたら少なからずバンド・アンサンブルが破綻してもおかしくないと思う。それがないということは、それぞれが優れたプレイヤーである、というだけでなく、優れたバンドである、ということだ。初ライブから1年足らずで、すでに。

ZAZEN BOYSと吉幾三が衝突して交じり合ったような奇天烈ファンク・チューン(その意味で、HINTOの今の持ち曲の中で唯一「日本的」な曲と言えるかもしれない。めちゃくちゃ個性的ではあるけれど)“メガネがない”でフロアの天井知らずの盛り上がりと共に本編を締めたあと、アンコールでは新曲“スクールホウス”を聴かせてくれた。これまたジャンルの分類が難しい、キャッチーなダンス・チューンで、『チェーンサマー』の方向性の先にある曲だと感じた。また、この曲と“メガネがない”で安部コウセイはハンドマイクで歌っていたのだが、この人のアジテーションの上手さに改めて気付かされた。もっとハンドマイクの曲が増えてもいいんじゃないか、そんな余計なことを考えてしまうくらいに安部コウセイのパフォーマンスによって深くグルーヴに乗せられ、凄い一体感、高揚感に包まれて1時間強のライブは終演した。

このライブなら、たとえ彼らを全く知らない人が見ても、格好良いし、楽しいし、何かしら「すげぇ!」って引っかかるポイントがあったはず。初めにも書いたが、この企画、圧勝だろう。そして、5月からは全国をまわるワンマン・ライブツアー「パラダイスHINTO~ようこそここへ~」(一応補足すると、このタイトル、光GENJIの超有名曲のパロディ。SEといい、80年代のジャニーズにはまっているんだろうか)が始まる。今回のライブで『チェーンサマー』という「今」のHINTOの熟成を感じることができたので、欲張ってこのツアーでは「次」のHINTOが見られることを、期待して待とうと思う。(土屋文平)

<セットリスト>
1.びいち
2.ハードル
3.しらないまち
4.マドロミオ
5.バブルなラブ
6.おまけにアンドロイド
7.バースデーパーティー
8.ひまわりばたけ
9.トーキョーカミカクシ
10.バイトさん
11.かんけいないね
12.メガネがない
アンコール
13.スクールホウス
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