4月27日にニュー・アルバム『正しい相対性理論』をリリースした相対性理論。中野サンプラザを舞台に開催されることになった今夜の自主企画ライブ「相対性理論presents『立式III』」は、京都会館第一ホールで行われた前回の『立式II』に続き、全席指定のホール形式という普段とは一風変わったセッティングでの公演となる。
ライブのオープニングはそんな設定を活かした内容で、会場が暗転すると、ステージ前に降りた幕に幻想的な青い照明があてられ、同時に『正しい相対性理論』から鈴木慶一が「再構築」を担当した“QMCMAS”が流れる。7分ほど経過したところで幕が開き、大きく半円を描くように並んだサポートの江藤直子(Key)、永井聖一(G)、西浦謙助(Dr)、真部脩一(B)、そして同じくサポートの勝井祐二(Violin)が、ワウ・ギターをフィーチャーした60'sジャズ風の演奏を始める(なお本公演のPAはzAkが担当している)。
やがてステージ上手から黒いワンピースと黒いリボンと黒い靴を身にまとったボーカルのやくしまるえつこが現れ、中央に設置された、たくさんの電球に縁どられた円いステージに上がると、演奏がブレイクするのと同時にそのままニュー・アルバムの1曲目“Q/P”に入る。
映画の世界には例えばロベール・ブレッソンやデヴィッド・リンチのように作品の内容とは別に映像の緊張感だけで観客を夢中にさせてしまう特異な作家たちがいるけれど、相対性理論のステージにはまさにそんな圧倒的に張りつめた空気が漂っている。おそらくその大部分は、ときおり体の前で両手を合わせたり離したりする以外はほとんど不動の姿勢を崩さないやくしまるえつこによるものなのだろう。4曲目の“ふしぎデカルト”の前には、「覚悟はいい?
ふしぎ体験、始まる」という最初のMCがあるが、会場はしーんと静まり返ったまま。
新曲の1つ“Q&Q”に続いて演奏された“四角革命”は、フェネスの手による『正しい相対性理論』収録曲“QSMJAF”と似て、最初のヴァースまではキーボードのゆったりとした柔らかいサウンドを用いたスローなアレンジ。第三者によって新たに提示された自分たちの曲に対する優れた視点をすぐさま取り入れていこうという姿勢は、実に彼ららしいと思う。曲の最後にはギターの永井がステージの一番前まで歩み出て、ひざまずいた格好でギターソロを取る。
「目が合ったら、撃ちます」という一言(今度はさすがに客席から笑い声が上がっていた)で始まった“シンデレラ”、印象的なイントロのギターリフをバイオリンで置き換え、そこにグランドピアノとベースが加わっていく愛らしいアレンジの“(恋は)百年戦争”、「ほうき星~」という歌詞で始まる未発表曲を経てセットは終盤に。「ブロードウェイ、vs、とげぬき地蔵」というMCから導入されたやくしまるえつこのソロ曲“COSMOS
vs ALIEN”と、『正しい相対性理論』のクロージング曲“(1 + 1)”を終えたところでやくしまるえつこが「またね」と挨拶して本編は終了。
ステージ上の相対性理論と私たち観客のあいだにある緊張感やコミュニケーションの断絶を、私たちは彼らの「キャラクター」や「パフォーマンス」の一種として受け取ってしまいがちだけれど、今夜のライブではそれが持つもっと実際的な機能のようなものが感じられた。彼らの見かけの「普通じゃなさ」は、彼らが私たちに発信したいと思うものを発信するための単なる手段、あるいは、そうしたものを発信するにあたって避けることのできない結果のひとつに過ぎないのではないだろうか。
私たちが彼らから受け取るものは、たぶん人によって違うのだろう。それは何か未知のものや不可思議なものの魅力なのかもしれないし、以前のライブで感じたように(http://ro69.jp/live/detail/32108)、私たちはみなそれぞれ自由に世界を眺めることができるのだという感覚なのかもしれない。しかしそれが何であれ、彼らは私たちが彼らの音楽を好きなように感じることができるように、スタジオやステージにおいて何をすべきか、何をすべきでないかをあらかじめ意識的に選んでいる。そのような作業は、まっとうで地に足の着いた、純粋に「普通」な視点なしに成し遂げることはできない種類のものだ。
その意味では、彼らは他のどのアーティストにも増して聴き手とのコミュニケーションを必要とし、前提としているバンドでもある。そのことは、彼らの過去曲や提供された音素材を聴いたミュージシャンたちによって「再構築」された楽曲集に『正しい相対性理論』というタイトルをつけたことや、震災を受けてオフィシャル・サイトに掲載された声明の「私たちがこれまで届けた、そしてこれから届ける音楽は、いつもみんなのものです」という一文からも明らかだろう。
アンコールは“ムーンライト銀河”。フリースタイルで始まった静謐な演奏に西浦の鋭いドラミングが入り、ミラーボールが回り始める。曲がひと通り終わると、ギターとベースとドラムの3人がステージを徐々にオーディエンスに明け渡すかのように、各々ソロを取ってから退場していく。やくしまるえつこはキーボードとバイオリンに合わせて再び曲の冒頭部分を歌い、「おやすみ」と言って80分ほどのセットに幕を下ろした。(高久聡明)
セットリスト
1:Q/P
2:ミス・パラレルワールド
3:ヴィーナスとジーザス
4:ふしぎデカルト
5:人工衛星
6:Q&Q
7:四角革命
8:シンデレラ
9:(恋は)百年戦争
10:新曲
11:COSMOS vs ALIEN
12:(1+1)
enc.
13:ムーンライト銀河
相対性理論 @ 中野サンプラザ
2011.05.21