the band apart×ASPARAGUS @ 日本武道館

「こうして武道館やらしてもらって、嬉しい反面……嬉しいよね! 『反面』ないよね! なんてラッキーなんだろうと思います。本当にありがとう!」という荒井岳史の万感MCと、それに応えるオーディエンスの熱い歓声が、ある意味この日のプレシャスな空気感を象徴していたと言えるだろう。盟友(というか先輩)ASPARAGUSとともに初の武道館公演を開催した……というよりは、the band apartが展開してきたライブ・シリーズ『SMOOTH LIKE BUTTER』が、ついにロックの殿堂=日本武道館にまで到達した、というほうが正しいのかもしれない。先攻=アスパラが“Far Away”の清冽なギター・ポップ・アンサンブルで幕開けを飾った瞬間から、バンアパがWアンコール“星に願いを”で武道館を心地好く揺さぶった瞬間まで、ロック・シーンをともにサバイバルしてきた者同士のにこやかな共闘感に貫かれた最高の時間と空間が、そこには確かにあった。

もちろん、「武道館に立ってますよ! なんでかはわかんないけど(笑)。特に何の記念でもなく。意味なし武道館!(笑)」と冗談めかしていた先攻=ASPARAGUSのしのっぴこと渡邊忍も「全然緊張してない!」と言いながら緊張のせいかMCで噛みまくっていたし、「やっぱりね、館(やかた)が館だけに……館の中では一番だと思うんで。嬉しいです!」と感激を隠せずにいたし、一方のバンアパ原昌和は「僕、昔空手をやってて。武道館でライブやってるのを見て『2秒で殺してやる!』と。武道館でライブやるなんて馬鹿じゃねえのかと」といつものやさぐれ口調で語りつつも、「聖地でライブをやるような気持ちです。君たちはどうかな?」とファンに語りかけて拍手喝采を誘っていたりした。要は、どちらのバンドもこの檜舞台を全身で謳歌しまくっていたということだ。そんな晴れやかなスペシャル感が、この日の両バンドのサウンドを盛り立てるスパイスとして随所で際立っていた。

ASPARAGUSは“JERK”の4つ打ちビートや“Knock Me Out”のタイトな2ビートでもって、スタンディングのアリーナから2階席までぐいぐい踊らせたかと思えば、シリアスなスロウ・ナンバー“Your Feelings”を披露し、その次の瞬間には「ごめんなさいね二枚目路線で!(笑)」(しのっぴ)とおどけてみせる――というウィットとユーモアのカタマリのようなライブ運びでもって、全13曲・1時間をあっという間に駆け抜けていく。「人生ってさ、すごいのよ! 上がったり下がったり。俺らも去年、機材車ごと盗まれちゃって。ズンってきちゃったなと思って。でもこうして武道館もやれちゃって。機材車もいただいちゃったんですよ! ギターもこれだけ(と手元のレスポール・スペシャルを見る)見っかったんですよ。人生ってわかんないよなあって。武道館、また誰か誘ってくんないかなあって(笑)。人間って、飛べないけど、でも飛びたい! そこでこの曲です!」という名調子MCの後にはもちろん“I FLY”。最後の“SILLY THING”“Fallin' Down”連射まで、爽快な熱風のような高揚感を武道館に巻き起こしていく。メロコアとアコースティック・ポップの接点からダイナミックな高揚感を噴き上げる唯一無二の3ピース・バンドの真髄のようなアクトだった。

そしてthe band apart。“AG(shit)”の穏やかなイントロから、広大な空間を震わせる真っ白な轟音カオスへ! そのまま“light in the city”“I love you Wasted Junks & Greens”の清冽にして獰猛なアンサンブル、3拍子と4拍子がポリリズム的に交錯するビートをあたかも川のせせらぎのような爽やかさでもって脳内に流し込んでくる“Game,Mom,Eraze,Fuck,Sleep”……と、こちらも唯一無二のロック・マジシャンぶりを、至って自然体のプレイでもって見せつけていく。ロックのスター・システムやカリスマ性とはまるで無縁のスタンスを貫きながら、純音楽的な才気と緻密な音像の構築と自らの鍛錬によって、インディー・ロックの雄として堂々たる存在感を獲得してきたバンアパ。そんな彼らが今、武道館のステージに立っている――その事実に感激しているのは、もちろん当のメンバー本人だ。「こういうところで『原さーん!』って言われると、嬉しい気持ちになるけど、病院に通ってる時に『原さーん!』って言われるのは……何言ってんだろうね?(笑)」と動揺を見せる原だが、「ASPARAGUSとは長い付き合いで、いい先輩なんですけど。タメ口でないと心が開けない、タチの悪い後輩なんですけど……アスパラありがとう!」と、いつになく素直な感謝の心を覗かせる。熱い歓声が沸き起こる。本編ラストは初期名曲“Eric.W”で武道館一丸踊りまくり!

この日の武道館公演から発売開始された、バンアパによるチャリティ盤『detoxification e.p.』の収録曲“The Sun”“Snow Lady”も披露。その収益を震災の義援金として寄付するという目的に共感して、レコーディング・エンジニアもマスタリング・エンジニアもタダで参加してくれた――というアンコールでの荒井のMCに、惜しみない拍手がステージへと送られる。バックステージではBRAHMANのTOSHI-LOWが終始いい感じで飲んでいるらしく、「TOSHI-LOWが酔い潰れてて、『早く酒を飲め』と要求してくるんだけど……まあ、いろんなやつがいる!(笑)。ほんとありがと!」と原。グランド・フィナーレのWアンコール曲“星に願いを”をステージいっぱいに散開しながら力の限りに弾き終えた後、ASPARAGUSの3人もステージに呼び込んで7人で一本締め! 約3時間に及んだ幸福な時間の余韻が、いつまでも胸に残った。(高橋智樹)
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