高橋優 @ 恵比寿リキッドルーム

高橋優 @ 恵比寿リキッドルーム
高橋優 @ 恵比寿リキッドルーム
高橋優 @ 恵比寿リキッドルーム
東京メトロCM曲に起用された“福笑い”で話題を集めた高橋優が、ファースト・アルバム『リアルタイム・シンガーソングライター』を引っさげて初の全国ツアーを開催した。全国9会場で行われたライブは全公演SOLD OUT。追加公演となった今夜も、「SOLD OUT」の張り紙が出された会場の恵比寿リキッドルームには、開演前から多くの人がごった返している。

受付の長い行列を抜けて、やっとのことで場内に足を踏み入れたのは19:00ジャスト。19:10を過ぎた頃、開演を待ちかねた満場のフロアから自然と手拍子が沸き起こる。そして19:12、SEと共にバンドメンバー登場。最後に現れた高橋優は、フロアに一礼をしてステージ中央のアコギを携える。鳴り止まない拍手と歓声。……と、その歓声を切り裂くように鋭利なギターリフが発射! “希望の歌”の灼熱のグルーヴが、フロアを焼け野原に変えていく。続く“素晴らしき日常”でも、高橋優の性急な歌声と重たいビートがアグレッシヴに放たれる。美しいピアノの旋律に彩られながら、どこまでも骨太でソリッドなロックンロール。真っ赤な血がドクドクと脈打つような、ディープで生々しい音塊がずっしりと胸に響く。特に“素晴らしき日常”のラスト、《きっと世界は素晴らしい》という確信に満ちた言葉の響きには大きく胸を揺さぶられてしまった。

「皆と最高の時間を過ごすために、1曲1曲、一瞬一瞬を精一杯歌っていきたいと思います」という最初のMCに続いたのは、6月29日にリリースされたばかりの最新シングル“誰がために鐘は鳴る”。ここからは、壮大なオケと伸びやかな歌声が響きわたるミドル・チューンが続いていく。そして、ここで明らかになったのは高橋優が放つストレートな日本語の歌詞の説得力だった。エモーショナルなメロディの上で、切々と語られていく独白めいた言葉たち。世の中の歪みや哀しみを淡々と切り取りながら、その先にある明るい未来へとまっすぐに向かっていくそれらの言葉が、オーディエンスひとりひとりの心にじんわりと沁みていくのがよくわかる。フロアを熱狂に導くような派手さはないものの、聴き手の心を一人残らずポジティヴに変えていくようなエネルギーを備えた楽曲の逞しさに、改めて感じ入ってしまうセクションだった。

MCでは、高橋優の飾らない人柄が全開に。「今回のツアーの課題は、緊張しいの俺がどの会場でも緊張せずにステージに立てるかどうか。それをクリアするために、ツアー中もいつも通りの日常を過ごすことに徹したんです。普段、僕は自宅のアパートの下にあるコンビニでご飯を調達しているんですけど。ツアー中も、ご当地グルメじゃなくてコンビニ飯をずっと食べてました」とか、「それを心配した母親が、こないだ弁当を作ってきてくれた」とか、ほっこりしたエピソードでフロアを和ませていく。そして“サンドイッチ”を披露。日常の些細な出来事を慈しむような、牧歌的な歌詞とサウンドが心地いい。ギターを置いて、柔らかなピアノと歌声が優しく鳴り響いた“少年であれ”も最高だった。

そして終盤。「うまくいかないこともあるけれど、口角持ち上げてへこたれずにいこうじゃないか!」という合図で“花のように”へ雪崩れ込むと、ラストへ向けて攻撃的なナンバーの連続。核弾頭のようなサウンドがドカン!ドカン!と爆発した“終焉のディープキス”、肉感的なグルーヴが妖しく咲き誇った“頭ん中そればっかり”、光の世界をこじ開けるような高揚感あるメロディがフロアをハイジャンプに導いた“現実という名の怪物と戦う者たち”、殺傷力あるアコギのリフとつんのめったビートがスパークした“こどものうた”とノンストップで駆け抜けて、フロアを絶頂に導いた。
そして「皆さんが心の底から笑える瞬間が増えていきますように」というメッセージに続いて本編ラストに鳴らされたのは、“福笑い”。《きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う》というキラーフレーズとともに、フロアにたくさんの笑顔が咲き乱れた光景は本当に美しかった。

アンコール前には、オーディエンスが“福笑い”を大合唱するというシーンも。照れくさそうに再びステージに舞い戻った高橋優は、「原点を忘れてはいけないと思い、久しぶりにこの歌を歌います」とインディー時代の楽曲“駱駝”で満場のハンドクラップを誘い、“シーユーアゲイン”で秋に開催される2度目の全国ツアーでの再会を固く誓って、2時間弱に及ぶライブを締め括った。

ライブ後、ステージ左右の端まで足を運んでオーディエンスに深々とお辞儀をした高橋優。ダイナミックに炸裂するサウンドの勢いや、ダイレクトに胸を揺さぶる言葉の力は勿論だけど、今夜のライブでもっとも印象に残ったのは、そんな彼の真摯な態度だった。曲を終えるたびに一礼し、丁寧に曲名を述べていた高橋優。そこには、目の前の人には礼儀を尽くす、伝えたいことはハッキリ伝える、そして無駄に自分を飾らない、というような、人間として真っ当なことをひとつひとつ行為で示していこうとする彼の姿勢が、確かに貫かれていたように思う。そして、そんな愚直で地に足の着いた「世間との戦い方」が、どうしようもない現実にもがき苦しむ多くの人々の心を力強く鼓舞していることが何よりも素晴らしい。高橋優がステージを去った後も“福笑い”の大合唱が止むことのないフロアを前にして、その力の大きさに胸を揺さぶられずにはいられない感動的な一夜だった。(齋藤美穂)
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