ビーディ・アイ @ ZEPP TOKYO

あのリアム・ギャラガーがサマソニからわずか3週間のショートスパンで再来日を果たすなんて、8月9月と2カ月連続で日本にやってくるなんて、オアシス時代を思い返せば俄かには信じがたい事態になっているが、それがビーディ・アイというリアムの新バンド、いや、「新人バンド」のリアル、フットワークの軽さなのである。そもそも今回のビーディ・アイのジャパン・ツアーは3月の大震災で延期になった公演の振り替えであり、本来はサマソニの前に実現するはずだったツアーだ。今回のツアーがサマソニの前に行われていれば、「新人バンド=ビーディ・アイ」のお披露目的意味、ウォーム・アップ的意味はより明確に示されていたのかもしれない。

しかしそうであっても、順序は逆になってしまったかもしれないけれど、キャパ2000~3000のライブハウスを回る今回のツアーはやはりビーディ・アイの「スタート地点」と呼ぶに相応しいものだった。リアムが日本のライブハウスのステージに立つなんてそれこそオアシスの1995年の来日以来のことだったりするわけで、その希少性は言うまでもなくもちろんチケットは瞬殺でソールドアウト。サマソニで既にビーディ・アイを観ているオーディエンスも相当数混ざっていたとは思うのだが、ライブハウス仕様の彼らの未知数に対する期待と逸る気持ちがごっちゃになって、ぎっしりすし詰めの場内は開演前から異様な熱気に包まれていた。

ちなみに開演前のSEはローリング・ストーンズの“サティスファクション”から始まってビートルズ、デヴィッド・ボウイ、ザ・フー、ザ・ジャム、イギー・ポップ、セックス・ピストルズ……という「一体どこの洋楽ハマりたての中学生の選曲ですか?」と言いたくなるようなど直球かつどベタな選曲が続き、のっけからビーディ・アイのロックンロールDNAを包み隠さず開陳する内容になっていてニヤニヤさせられてしまった。この身も蓋も無いロックンロール愛こそがビーディ・アイであり、リアム・ギャラガーなのである。

そんなSEが途切れて場内は暗転、大歓声の中ステージ上にリアム達が姿を現すと同時に、バックドロップには巨大な日の丸が映し出される。そして始まったのはビートルズの“アクロス・ザ・ユニバース”のカバー! 3月の東北大震災の際に彼らがチャリティ・リリースしたこの曲を、ジャパン・ツアーの1曲目に持ってきた意図に関しては言うまでもないだろう。リアムのカバー・レパートリーの中でも出色の出来で、特にこの日の声の伸びは1曲目ということもあって万全かつ悠久。ビーディ・アイの初ツアーの初日を飾るに相応しい、本当にスペシャルな幕開けになったと思う。

ただし“アクロス・ザ・ユニバース”はあくまでも例外にして特例な扱いのナンバーであって、続く“フォー・レター・ワード”こそが今夜の本当の意味でのオープニングだったと言えるかもしれない。瞬間着火型のロックンロール・ナンバーで、“アクロス・ザ・ユニバース”の余韻を一気に絶ち切っていく。サマソニのステージ以上に彼らのテンションは振り切れていて性急、実際演奏もかなり走っている。そして間髪いれずに“ビートルズ・アンド・ストーンズ”へ。リアムのヴォーカルにビーディ・アイならではの癖、特徴のようなものが新たに生まれているのに気づく。語尾を短くカットして息を小刻みに震わせる、そして躊躇なくシャウトする。オアシス時代の彼は大声でガナることはあってもメロディラインからの逸脱やアドリブは極力避ける歌い手だったわけだが、ビーディ・アイにおけるリアムのヴォーカルはその点についての一切の躊躇がない。弾力的でリズミカルなそんなリアムの新歌唱を垣間見たオープナーだった。

ちなみにリアムはおなじみのプリティ・グリーンのロング・コートでばっちり決めていて猛烈に格好良いのだが、なぜか右手に白いタオルをぐるぐる包帯みたいに巻きつけている。曲間でそれをびよーんと伸ばしてみたり、首にかけてみたり、ヌンチャクみたいに振り回してみたり、色々やってみるのだが、曲が終わるとやはり定位置の右手にぐるぐる巻きつけ直すという、最後まで意味不明な小道具と化していた。そんな白タオルの挙動不審を筆頭に(?)、今回のリアムはとにかくよく動く。オアシス時代の仁王立ちが嘘のようにサマソニ時もステージ上をうろうろしていたが、今回はもっと細かく、曲間に最前のファンと握手したりオーディエンスに拍手したりするサービスも含めて忙しそうに動き回っている。本当に、リアムのモードは2009年までとは全く違うのである。

続く“ミリオネア”はリアムの甘い歌声が直前までの逸る足取りを一旦クールダウンさせる。“トゥー・オブ・ア・カインド”では陽性サイケデリックなキーボードが華やかで、ゲムがアコギに持ち変えての“フォー・エニワン”、そして鉄板の“ローラー”までの中盤戦はロックンロールな冒頭から一転してメロディアスでフレンドリーなナンバーが並ぶ。実際“ローラー”では初めてオーディエンスの大合唱がおこった。ビーディ・アイのナンバーはファンのシンガロングを「拒絶する」ピッチと構造を持っていて、そこがオアシスと対峙する大きなアイデンティティでもあるわけだが、この日はほんの少しだけその境界からの逸脱が見えたのも面白かった。

サマソニでは後半に向かってどんどんサイケで広大なスケール感を持つナンバーを投下して、スタジアムに相応しい風格を証明して幕を下ろした彼らだったが、この日の後半戦は再び潔いロックンロール・モードで突っ走っていく。徹頭徹尾ライブハウス仕様、ダイナミックかつドラマティックなエンディングをどう演出するか(それはオアシス時代の大きなテーマでもあった)という観点は最早念頭になく、むしろ何度でもオープニングに立ち返ろうとするような闇雲なガッツこそが彼らを突き動かしていた。

オアシス後の自分に相応しいキャリアを「続ける」のではなく、たとえゼロ地点からだっていい、とにかく「始める」んだっていう、リアムの覚悟と決意を垣間見た一夜だった。(粉川しの)


1. Across The Universe
2. Four Letter Word
3. Beatles And Stones
4. Millionaire
5. Two Of A Kind
6. For Anyone
7. The Roller
8. Wind Up Dream
9. Bring The Light
10. Standing On The Edge Of The Noise
11. Kill For A Dream
12. The Beat Goes On
13. Three Ring Circus
14. Man Of Misery
15. Morning Sun
-encore-
16. Wigwam
17. Sons Of The Stage
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