オープニングから打ちのめされた。アルバムの冒頭を飾る“狂骨の鳴り”のイントロが流れるやいなや、ステージ背後のスクリーンに映し出される真っ赤なマグマの映像。そこからバンド名とツアータイトルが表示され、1曲目“THE BLOSSOMING BLEELZEBUB”の重たいグルーヴが放たれると、人面や食べ物に真っ黒な虫がビッシリと貼りついたグロテスクな映像が映される。続く“OBSCURE”“獣慾”の連打では、闇を切り裂く超絶ビートとスクリーム! 「お前ら、もっと飛ばしてこい!」という京のアジテートが猛々しいオイ・コールを誘発し、ハリケーンの只中に放り込まれたような暴力的な空気が吹き荒れる。そこから“LOTUS”へ流れると、甘く哀しい旋律とともに場内に立ち込める官能的な匂い。まさに電光石火で駆け抜けた冒頭4曲だけで、DIR EN GREYの音楽の骨格をなす醜さ、激しさ、美しさの極点を描き切ってしまっていた。
怒号のような歓声が吹き荒れた長いインターバルを経て、次に鳴らされたのは“暁”。波打つビートと透明なギターが螺旋となって絡み合い、その上を京のハイトーン・ボイスが浮遊する。さらに目を見張ったのは、スクリーンの上半分が前面に折れ曲がり、メンバーを見下ろす低い天井となってフロアの密室的なムードを高めたステージ演出。そう、今回のライブはスクリーンをフル活用したコンセプチュアルな演出も見どころで、DIR EN GREYの断片的でカオティックな音楽世界を視覚化するツールとして一役買っていた。表情豊かなボーカルに操られるかのように躍動する天地の映像が映し出された“流転の塔”。疾走するビートに乗って巨大な大仏とインダストリアルな歯車の映像がダイナミックに交錯した“AMON”。暗い森やうず高く積まれたドクロの映像が楽曲の背徳的なムードを高めた“滴る朦朧”。リズムやメロディと完璧にマッチした映像が曲ごとに展開し、目と耳から送られる膨大な情報量で観る者に鮮烈なイメージを植えつけさせていく。
中でも鮮烈だったのが、中盤の“蜜と唾”“mazohyst of decadence”のひたすらスローで重たいパート。闇の底から放たれるような京のスクリームとディープな音像に乗って、“蜜と唾”では「Show・Lie・Mad・Sexual」「罪と罰」「レイプ」……などショッキングな歌詞が真っ赤な文字でデカデカと表示され、“mazohyst of decadence”ではステージ上の5人を極限までクローズアップしたリアルタイムのライブ映像が流される。まさに己の体内にうごめく表現欲求をオブラートなしで曝け出したような剥き身の表現だ。これまでも世間の闇や人間の弱さから目を逸らさず、生きることの痛みや喪失感を徹底的に暴き出してきたバンドだが、その表現の正しさを改めて突きつけるようなこの2曲の鬼気迫るエネルギーに、思わず身震いしてしまった。
“「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と詰めたい雨”で幕を明けた終盤は、さらなる狂気の世界へ。静と動の間をジェットコースターのように行き来する“DIFFERENT SENSE”、メタリックなビートがドシャメシャに放たれる“DECAYED CROW”など、スリリングな音の洪水が押し寄せては巨大化し、獰猛な怪物に呑み込まれたような戦慄が全身を駆け巡る。あまりにもアグレッシヴな音塊をバンド自身も制御し切れていないような一面もあったけど、それはこのアルバムが桁外れに規格外である証拠。高いプレイヤビリティを持った5人がストイシズムの塊のような音を解き放っていくさまはそれだけで美しいし、逆にこれが完璧に表現されたとき、見たこともないようなカタルシスが生まれるだろうという期待感も煽るものでもある。“激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇”で一気に絶頂へ上り詰めた後は、“残”であっという間のクライマックス! すべてのエネルギーを燃やし尽くして真っ白な灰と化した場内の惨状を象徴するかのように、5人がステージを去った後には真っ白なスモークだけが不敵に立ち込めていた。
アンコールでは、1曲目の“LIE BURIED WITH A VENGEANCE”のイントロからオイ・コールが爆発!続く“GRIFF”ではステージ前方に一列に並んでフロアを煽る4人に促され、強烈なハンドクラップが沸き起こる。“冷血なりせば”では、京の「飛べー!」というシャウトに導かれるハイ・ジャンプ! 本編では初めて生で聴くニュー・アルバムの圧倒的な音像に身じろぎしているシーンも少なくなかったフロアが、ここに来てDIR EN GREYのライブならではの一体感でバンドとの強固な共犯関係を結んでいく。“AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS”でさらにアグレッシヴに弾けた後は、「お前ら、ひとつになれるか? 全員で噛みついてこい!」という京のアジテートに続いて、“羅刹国”でフィニッシュ! オープニングから激しく壮大な情景を描き続けたアクトは、一縷のスキや弛みも許さないまま終幕を迎えてしまった。
スクリーンをフル活用した演出の影響もあったのかもしれないが、今夜改めて痛感させられたのはDIR EN GREYが描く世界の計り知れなさだ。5人が己の衝動をぶつけ合い、執拗なまでに闇を見すえたサディスティックな音楽。そこには、メタリックでインダストリアルな響きがあるとともに、地球の胎動を思わせるような原始的な響きも持ち合わせている。さらに世の中の一切のものと交わらない完全なる異物のようでいて、あらゆる物の真実に直結するような生々しい匂いを持っている。そして何より、その暴力性からは想像もできないほど、聴き手を力強く鼓舞していく前向きな姿勢が、DIR EN GREYの音楽には隠されている。それは、「闇や痛みと対峙することでしか本当の希望は開けない」という強靭な思想を持った5人だからこそ鳴らすことのできる音だろう。過去のアルバムを遥かに越える熱量で闇が描き出された『DUM SPIRO SPERO』という巨大なアルバムを提げたライブによって、その事実は否定できないものとなった。この時代にDIR EN GREYというバンドがいることを、心から祝福したくなるような2時間弱。ロックンロールの真価を有無を言わさず浮彫りにするような、戦慄のアクトだった。(齋藤美穂)
セットリスト
01 THE BLOSSOMING BEELZEBUB
02 OBSCURE
03 獣慾
04 LOTUS
05 暁
06 流転の塔
07 AMON
08 滴る朦朧
09 蜜と唾
10 mazohyst of decadence
11 「欲巣にDREAMBOX」あるいは成熟の理念と冷たい雨
12 DIFFERENT SENSE
13 DECAYED CROW
14 激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇
15 残
ENCORE
16 LIE BURIED WITH A VENGEANCE
17 GRIEF
18 冷血なりせば
19 AGITATED SCREAMS OF MAGGOTS
20 羅刹国