それこそリキッドルームがぶっ壊れんじゃないかってくらいのデジタル・ハードコアの爆音轟音――鼓膜より早く全身の細胞にダイレクトに注ぎ込まれる、波動というか振動というか、とにかく「音」を越えた何かが、キャパ1000人程度の東京のライブハウスを怒濤の地下集会へと変貌させる……復活アタリ・ティーンエイジ・ライオットの東名阪ジャパン・ツアーの初日:恵比寿リキッドルーム公演。昨年夏の『SUMMER SONIC』直前に行われた『SUMMER SONIC EXTRA』でもここリキッドルームでワンマン公演を行ってはいるが、実に12年ぶりの新作アルバム『Is This Hyperreal?』を引っ提げての純然たる単独ジャパン・ツアーということもあって、会場に渦巻く熱気も突き上がる拳の力強さも超弩級。寒風吹き抜ける11月だというのに、でっかいフラッグが誇らしげに舞いプラカードがひらめき満場のオーディエンスがフロア狭しと踊り回る会場は終始灼熱天国だ。
開演時間の20時ちょうどにオン・ステージしたのは、今回のツアーで唯一東京公演のみオープニング・アクト出演の9mm Parabellum Bullet! 当初からのオープニングSEとしてお馴染みの“Digital Hardcore”つながりで、今年5月には日本企画盤『Introducing Digital Hardcore』の監修も務めた彼ら――だが、今や武道館も横浜アリーナも埋め尽くす実力派の精鋭とはいえ、音楽性的にはどちらかと言えばメタル寄りでデジタルでもハードコアでもない(菅原卓郎自身もMCで「ATRの音楽と俺たちの音楽の共通点は『ハイ・エナジーなところ』だけ」と話していた)9mmにとって、去年の復活にひときわ歓喜したオールドATRファンが多数を占める今日のリキッドルームのフロアははっきりアウェイと言える場所だったはずだ。それでも、いやだからこそ、挨拶代わりにダイナミックなメロディ過積載の“Living Dying Message”“Survive”“Discommunication”3連射で、満場のリキッドルームに9mm流の選手宣誓をかましてみせたのが逆に潔かった。
「韓国のフェスでアタリ・ティーンエイジ・ライオットと会って。アレック・エンパイアさんが『一緒に対バンしような』って言ってくれたのが、こんなに早く実現するとは……」と感慨深げに語る卓郎。「俺たちの演奏がみなさんのウォーミングアップになればいいなと。でも、ウォーミングアップじゃ生ヌルいし、ヒートアップじゃヒートテックみたいだし。バーニングアップしてステージを降りようと思うんで」という卓郎のやや天然MCで「?」と「!」と「(笑)」が巻き起こりフロアの温度が目に見えて上がったところを「リキッドルーム! いけるかああっ!」のコールでがっつり捕まえて“Black Market Blues”“The Revolutionary”“Vampiregirl”と畳み掛けたのはさすが。最後は“Punishment”のスラッシュ・ビートで10曲40分のアクトはフィニッシュ!
そして、21:04に場内暗転。フロアの歓声が徐々に怒号のようなテンションを帯び……時計が21:11を指したところで、いよいよニック・エンドウが、CXキッドトロニックが、そしてアレック・エンパイアがステージに登場! 1曲目はもちろん『Is This Hyperreal?』の幕開けを飾るナンバー“Activate!”! ステージ狭しとのし歩く3人のパワフルな「ヘイ!」のコールがいきなり満場のオーディエンスの衝動を突き動かし、渾身の拳とシャウトを突き上げさせていく図はどこまでもエキサイティングで、壮絶だ。スリリングなビートをバックにアレックとニックの掛け合いが冴える“The Only Slight Glimmer of Hope”では早くもキッドトロニックがフロアにダイブをかまし、「トキオ! ウィー・アー・アタリ・ティーンエイジ・ライオット! カモン!」のアレックの絶叫から雪崩れ込んだ“Black Flags”の「アー・ユー・レディ・トゥ・テスティファイ!」のフレーズが「今、ここ」の最高の闘争宣言として響き渡る……基本的には今年のフジ・ロック来日時と同じセットリストであったことからも、“Shadow Identity”“Re-arrange Your Synapses”など『Is This Hyperreal?』の楽曲を軸としつつ“Into The Death”など必殺曲を織り込んだ今回のセットリストが、キッドトロニックのラップ・スタイル&テクノ寄りになってよりダイレクトなエッジ感を増したビートとともに、すでに彼ら3人の2011年型の戦闘態勢として血肉化されていることがよくわかる。
何せすべてがあのデジタル・ノイズそのもののようなシャウトなので、アレックのMCを全部聞き取れたわけではないが、例によって「メイク・サム・ファッキン・ノーイズ!」を連発したり、フロアに突き上がっていた「ANTI原発RIOT」「原発反対! 責任トレ!」のプラカードを掴んで意気揚々と振り回していた以外、この日のアレックからはっきり政治的プロテストMCが聞かれることはなかった(アンコール最後の“Revolution Action”の時に何か叫んでいたが、デジタル音にかき消されてまったく聴こえなかった)。7月にフジ・ロック/レッド・マーキーのトリを飾った時には「今この時期に日本に行くのはデンジャラスだっていうけどさ、今こそ日本でプレイする時じゃないのか?」と直接的なメッセージを発していたのとは対照的だ。が、この日のリキッドルームには、政治のみならずより混迷度を増す「今」への明確な問題意識と反骨心が確かに躍動していた。ステージだけではない。フロアも含めた会場すべてに、集まったオーディエンス1人1人の中にもだ。ATRのデジタルの轟音は「表現」である以前に、「今」へのぶよぶよした信頼を揺さぶり、困難も希望も自らの意志で決める「未来」へ向けて聴く者すべてをぶん投げるメッセージだ。楽曲越しにそのメッセージを身体の底から感じ認識しているATRファンに対しては、それを敢えてMCで伝える必要はない――ということが、この日の熱狂越しにアレックにも伝わっていたのかもしれない。
“Is This Hyperreal?”で黄泉の国から天を貫くような凄絶なシャウトを響かせるアレック! そのまま“Codebreaker”“Blood In My Eyes”“Speed”で本編は圧巻のエンディングを迎え……たかと思ったらすぐに再び現れた3人が“Start The Riot”で場内のファンの情熱にさらに点火! そして“Collapse of History”、最後の最後は“Revolution Action”炸裂! やがて、爆音で痺れまくった神経細胞をバーストさせるかのようにストロボライトが激しく明滅し…………終了。1997年初来日公演を行ったリキッドルーム(当時は新宿だったが)に感謝の言葉を述べ、「アタリ・ティーンエイジ・ライオット、2011、ジャパン!」と高らかに叫び上げてステージを後にしたアレック。今この国だけでなく、僕らの行く手を妨げるものには自分の手で抗い、闘うべきだ――という不変の闘志がどこを切ってもあふれ出す1時間半、最高のアクトだった。18日は大阪・FANJ TWICE、19日は名古屋・クラブクアトロ!(高橋智樹)