フレンドリー・ファイアーズ @ 新木場STUDIO COAST

素っ晴らしいライヴだった! 今年2月に代官山UNITで敢行したウォーム・アップ・ギグもフレンドリー・ファイアーズの確変を告げるエポックなショウだったし、今年夏のサマソニ出演も、あの日の幕張メッセでフェスの多幸感を最もダイレクトに感じさせる素晴らしいステージだった。そう、最新作『PALA』を手にして以降のフレンドリー・ファイアーズはライヴ・バンドとして凄まじいスピードで進化を遂げてきたわけだが、今回の新木場コースト公演はそんな彼らの激動の年になった2011年を締めくくる、集大成的なパフォーマンスだったと言っていいだろう。

『PALA』とは、UKクロスオーヴァーの旗手だったフレンドリー・ファイアーズがそのステイタスを捨てて、もっと大胆にポップであること、もっと明確にファンクやR&Bであることを目指したアルバムだった。クロスオーヴァーという名の「曖昧」を払拭して正々堂々とメインストリームで勝とうとしたアルバムだった。そして、そんな彼らの鉄壁の意思が隅々まで発揮され、ファンキーなナンバーはよりファンキーに、ゴージャスなナンバーはよりゴージャスに振り切れることを一切躊躇しない、思い切りの良いパフォーマンスを観ることができるのがこの『PALA』ツアーなのだ。

そんな『PALA』ツアーの重要なポイントを担っているのがホーン・セクションだ。オープニングの“Lovesick”からいきなり大フィーチャーされるそれは、いつの間にかフレンドリー・ファイアーズにおけるスーパーサブの座をシンセサイザーから奪っている。ちなみにホーン・セクションはツアーで巡る各地で随時スカウトしていく方式で、エド(Vo)は「日本のホーンがベスト!」と先日のインタヴューでも断言していた。いずれにしても全セットリスト中3分の2以上の曲でホーンが鳴る、それが『パラ』ツアーの特色だ。宅録系のへなちょこロック・バンドだった彼らのライヴは、このホーンに煽られるように一気にビルドアップしていった。

続く“Jump In Pool”は今回のセットリスト中でも数少ないシンセ主体のナンバーで、“Lovesick”のエスノファンクから一転、フレンドリー・ファイアーズのかつての代名詞だったコズミックなエレクトロが華麗に鳴り響く。“Blue Cassette”も同様のシンセ・ナンバーだが、こちらはエレクトロ云々と言うよりもはや超アッパーなポップ・ソングで、フロアにはお縦ノリのウェーブが巻き起こる。そして再び一転、“True Love”は洗練の極みのR&B、アメリカの売れ線イージー・リスニング系のそれにも匹敵するベタなポップ・センスが光るナンバーだ。ファンクも、エレクトロも、R&Bも、そしてポップも、それぞれが最も強力で効果的なかたちで鳴らされる。それが脱クロスオーヴァーを遂げたフレンドリー・ファイアーズの現在形だということを証明する、そんな前半の流れだった。

続く懐かしの“On Board”では彼らはカウベルとマラカスを持ちだし、エドの珍妙なペンギン踊りと共にちゃかぽことロウ・キーかつフリーキーにスタートさせる。今の彼らのプロフェッショナルな演奏スタイルと比較すると相当アマチュア臭いスターターだが、アウトロに至る頃にはホーンが高らかに鳴り響くゴージャス・ポップへと転じていて驚かされる。思えば彼らがデビューした2000年代後半、この“On Board”みたいなちょっと気の効いたEPだけ作って消えていったディスコ・ポップ・バンドは腐るほどいた。この日観た“On Board”はフレンドリー・ファイアーズがそんなハイプの中から唯一サヴァイヴできた理由を、その1曲の中で十全に伝えるパフォーマンスになっていたと思う。

この日はオーディエンスの援護射撃と言うか団結力も本当に素晴らしくて、縦横自由自在にノリながらウェーブしていく彼らの様は、フレンドリー・ファイアーズと共に成長してきたかのような絶妙のバランス感覚を感じるものだった。“Skeleton Boy”ではバスドラのキックと完璧に同期したタイミングで数百の拳が突きあげられるという圧巻の光景もあった。そして“Hurting”、“Pull Me Back To Earth”と『PALA』中でも際立ってキラーな2曲が本編のクライマックスを飾る。「アメリカのボーイズ・グループみたいな、誰が聴いても一瞬で口ずさめるポップ・ソングを書きたい」と言っていたエドの言葉をまさに体現した2曲となった。

そして本編ラストの“Paris”でミラーボールが回り始める。フロアではなんとサークルモッシュが始まっている。と思ったらダイバーまで出現した。フレンドリー・ファイアーズでサークルモッシュ!フレンドリー・ファイアーズでダイブ!3年前には想像だにしなかった光景に圧倒される。フレンドリー・ファイアーズはこの曲のヒットのお陰で始まったと言っても過言ではないバンドだけど、そんな彼らが今や“Paris”本来の文脈を無視してこんな途方も無い場所までこの曲を連れてきているのが感動的だった。

そして、そんな“Paris”で完全燃焼した先のアンコールで“Hawaiian Air”と“Kiss of Life”が待ち構えている、というのも凄かった。アルバム2枚しか出してないとは思えないほど潤沢なアンセムを持ち合わせた新世代最新鋭のポップ・バンド、それがフレンドリー・ファイアーズの現在地である。(粉川しの)
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