今年はアルバム『真昼のストレンジランド』のリリースに始まり、全国ツアーや数々のイベント出演でオーディエンスを濃密なロック・ワールドへと陶酔させてきたGRAPEVINE。彼らにとって今年最後となるライヴ納めは個人的にも興味津々だったplentyとの2マンイベントだ。この対バンは以前からGRAPVINEを聴いていたというplentyからのラヴコールを受け実現したのだそう。もちろん、この2バンドの組み合わせへの心躍る気持ちのみならず、来年デビュー15周年を迎えるGRAPEVINEが2月に発売するミニ・アルバム『MISOGI
EP』の片鱗をいち早く見せてくれるのではないかという期待を胸に会場へ足を運んだのだが、予想を遥かに上回るエッジの効いた新曲群、そして過去の楽曲からの布石とも言える鮮やかな進化を見せつけてくれたのだ。
開演の19時を回り、まずは先攻のplentyが登場。青のライトに染められたステージに静かに現れた江沼郁弥(Vo/G)と新田紀彰(B)、そして、サポートドラムの中畑大樹(VOLA&THE ORIENTAL MACHINE/ex.syrup16g)。江沼が静謐なアルペジオを鳴らし、"空が笑ってる"でスタートするとフロアはじっと見守るようにして聴き入る。柔らかな響きの裏にあるどうしようもない空虚感に胸が苛まれそうになりながら、徐々に胸が熱くなっていくのが分かる。そんな張りつめた空気を開放させていくように"待ち合わせの途中"が始まると、江沼の透明感溢れる高音ボーカルと3人のバンドアンサンブルが美しい弧を描いて力強く突き抜けていった。
チューニング・タイムでしばらく沈黙に包まれた会場に、「GRAPEVINE先輩とこんなに早く(対バン)できると思ってなかったね。すげぇ素のこと言っちゃったね(笑)」と江沼が一言。飄々とはしていたけれど、今日ばかりは念願の対バンに喜びを隠せないようだった。そして、美しいアルペジオと、それとは対照的な熱を帯びたバンドサウンドの調和が織り成す"からっぽ"の躍動感から、すでにライヴでも披露されている、ソリッドなギターがヒリヒリと迫りくる新曲、そして、スピード感に溢れたビートで攻め立てる"枠"と一気に駆け抜けていく。再びの沈黙の後、パイプオルガンのような幻想的な音色を出すエフェクターギターを駆使して"あいという"を丁寧に紡ぎ出すと、揺れ動く人間の感情を切り取ったような儚い想いに会場が包み込まれた。しかし、その余韻に浸る間もなく「最後です。ありがとうございました」と江沼が淡々と挨拶。ラストは"拝啓。皆さま"で轟音を叩きつけるようにしてステージを後にした。
そして、いよいよGRAPEVINEの登場。「こんばんはー!」という田中和将の第一声とともに、抜けるような青空を思わせる爽快な幕開けを飾った"真昼の子供たち"。いきなり広大なサウンドスケープを描き出し、フロアを温めていく。「みなさんとお会いするのも今年最後かなと思います。寂しい?」と田中。「寂しいー!」と返すオーディエンスに「ざまみろっ!」と言い放つという、いつもの田中の天邪鬼っぷりに笑わされたところで、"NOS"へ突入。濃密すぎるブルース・ロックに深く潜り込んでいき、耳に絡み付くような西川弘剛のギター・サウンドを噛みしめるようにオーディエンスはすっかり心酔しきっている。
「来年2月にミニ・アルバムが出ます!ということは、今日はその中からやっていきます!」と田中が煽ると、タイトル曲でもある"MISOGI"を豪快にプレイ。図太くてダイナミックなロックンロールに鮮やかななホーンセクションで派手さを演出。そこへ《禊説法》《釈迦に説法》という随所に散りばめられた言葉遊びが乗るという、ここ数作の作品で勝ち得た熟成されたロック・サウンドから跳躍した新たなGRAPEVINEの挑戦を窺わせる。続けて披露された"ONI"は疾駆していくビートとエッジのかかったギターサウンドが一体化し、フロアに熱狂を生み出す迫力に富んだ楽曲だ。6曲入りのミニ・アルバムだが、今日だけで惜しみなく4曲も披露。それだけこのミニアルバムにかける想いに自信が漲っているということだと思う。
"CORE"を挟んで披露された後半2曲の新曲は、本当に凄まじかった。女性目線の歌詞が印象的な"ANATA"は、誤解を恐れず言えば演歌的で濃厚すぎるエレジーを表現。妖艶、かつドロドロっとした高濃度なメロディの突き抜け感が半端ない。そして、"YOROI"では間奏部分で田中がギターを後ろに引っ提げたまま、両手にスティックを握って亀井亨とともに和太鼓を叩くようにシンバルを叩きまくり、金戸覚のベースとともに強烈なグルーヴを生み出していた。新曲4曲ともに強烈なパワーが漲っていて、ただただ圧倒されてしまう。これまで鍛え抜いてきた鉄壁のサウンドにさらなる共有感をプラスした感じで、来るミニ・アルバムが本当に楽しみになる。
イントロの唸るようなギターフレーズでフロア中が沸いた"(All the young)Yellow"や風通しのいいメロディアスな名曲"棘に毒"。久々に聴くナンバーに心を躍らせていると、「あっという間にラストになっちゃいました」と田中。ラストは"超える"。上昇気流に乗ってはためいていくようなキラキラとしたメロディが、限界を軽く飛び越えていこうとする来年のGRAPEVINEの新たな一歩を表しているようで、2011年の締めくくりに相応しい1曲となった。
GRAPEVINEとplenty、それぞれのアクトだけでも大満足の内容だったのだが、鳴り止まないアンコールに応えて再びステージに現れたGRAPEVINE。そして、なんとplentyの2人も一緒にステージに戻ってきたのだ。田中に「江沼! すげぇ、細い」と紹介されると、照れながら笑顔を見せる江沼。今日はMCで何度も「メリークリスマス!」と連発していた田中だが、「君たちのためにクリスマスプレゼントを用意した。スペシャル・アンコール!」と言って、plentyとのスペシャル・セッションを披露!
なんと1曲目に演奏したのは、plentyの"ボクのために歌う吟"。歌い出しを田中が歌うとフロアからは大歓声が上がった。亀井のドラム、西川のギター、高野のキーボードに新田のベース、田中と江沼もそれぞれギターを弾き、交互にハモリながら歌うという超貴重なセッションにオーディエンスも大興奮。だけど、最も興奮していたのはきっと江沼だろう。田中が自分の歌を歌う姿を見ながら、満面の笑みを浮かべてギターを弾く江沼は本当に嬉しそうだった。
続いて、ベースは金戸にチェンジし、江沼がアコースティックギターを抱えると、2曲目はなんとGRAPEVINEの"光について"。この曲を聴けるというだけで嬉しいのに、さらに贅沢なセッションで体感できるということに、この場にいられたことの幸せを噛みしめる。1番目は江沼が歌い、田中がコーラスを入れる。江沼の透き通るような歌声が見事にはまっていて、フロアから拍手喝采を浴びていた。
思わぬクリスマス・プレゼントに興奮を抑えられない観客に向けて「今年もありがとう。来年もよろしくー、良いお年をー」と自ら拍手をしながらステージを後にした田中。来年早々のGRAPEVINEの猛攻に期待がかかる素敵な一夜だった。(阿部英理子)
plenty
1.空が笑ってる
2.最近どうなの?
3.待ち合わせの途中
4.東京
5.からっぽ
6.新曲
7.枠
8.あいという
9.拝啓。皆さま
GRAPEVINE
1.真昼の子供たち
2.NOS
3.Darlin' from hell
4.MISOGI
5.ONI
6.CORE
7.ANATA
8.YOROI
9.(All the young)Yellow
10.棘に毒
11.超える
アンコール
1.ボクのために歌う吟
2.光について
GRAPEVINE×plenty@品川ステラボール
2011.12.21