Base Ball Bear @ 日本武道館

定刻を少し回った17時8分、まずは堀之内が登場し、ひとしきりステージを走り回ってからドラム・ソロをスタートさせる。しばらくの後、会場が暗転。ステージ両脇のスクリーンにこの日の公演タイトルや、シングル『yoakemae』のアートワークとなった電波塔のイラストが描画されていく。そして再び照明が点灯し、ステージ後方のスタンドエリアに目をやると、そこには小出、湯浅、関根の姿が! そんなドラマティックな演出によって幕を開けた「10th Anniversary tour (This Is The) Base Ball Bear part.2『Live新呼吸』」。一昨年前の初武道館からきっかり2年、バンド結成10周年を記念して昨年から精力的に行ってきた一連の活動を締めくくる、Base Ball Bear2度目の武道館公演である。 

場内が大歓声に沸いた鮮やかな登場から、堀之内の打ち鳴らす凛としたビートに関根→湯浅→小出の順でメンバーがひとりずつ音を足していき、立ち上がったキックオフ・ナンバーは“夕方ジェネレーション”。そのままノンストップで飛び込んでいった“Stairway Generation”“ELECTRIC SUMMER”で狂おしい青春の風景を描き出し、「今日はBase Ball Bear2011年大晦日ということでね、僕ら最後まで2011年に感じたことを全て捨て去るつもりで今日は演奏したいと思っておりやす! みなさん最後まで楽しんでいっていただけますかッ! 僕らと一緒に武道館になってもらってもいいですかッ!」と小出がやたらと歯切れ良く挨拶。そしてシンセ・サウンド風の湯浅のギター・リフがエキセントリックに飛び回る“yoakemae”、スカ・ビートと歌謡メロディがタッグを組んで襲い来る“Fragile Baby”と、ダンサブルな楽曲を連投。ここで発生した上昇気流に乗って“short hair”“GIRL FRIEND”と一気に駆け抜けて、武道館に充満する瑞々しい空気を無尽蔵に増幅させていくのであった。

中盤のMCでは、「前回のときはまさかこういう感じでまた武道館をやると思ってなかったから、結構『まとめ』っぽいライヴをしちゃったんだよね」と、前回の武道館ライヴを振り返る小出。その後は小出以外のメンバーが、この10年間で印象に残ったことをランキング形式で発表することに。なお、1位から15位くらいまではテレビやラジオでもう話してしまっているからという理由で、この日発表されたのは16位から20位まで。その内容の要約は以下のとおりである。

20位(湯浅):堀之内、足が意外と長い
19位(堀之内):小出、長崎の眼鏡橋にてメガネがぶっ壊れる
18位(関根):関根、この前まったく気が付かずに男子便所で用を足す
17位(湯浅):ヤンヤンボーイズ結成
16位(堀之内):小出、10年間で全く顔が変わっていない

以上の内容を10分超の時間をかけてじっくり語り、会場にだいたい「16位から20位」くらいの笑いを起こした後、「まぁあと10年ぐらいはこのメンバーで頑張りたいと思います!」という小出のまとめから“BOYFRIEN℃”を投下。続く関根ボーカルの“WINK SNIPER”では、「武道館、いっちゃえー」という関根のキュートな脱力ボイスが場内に歓声を巻き起こす。その後は堀之内以外のメンバーが一度ステージからはけていき、ドラム・ソロタイムへ突入。アリーナとスタンドのオーディエンスにそれぞれ別のリズムでハンドクラップをさせてから、堀之内がティンパニを使ってクラップ×クラップ×ティンパニのパーカッション3重奏を高らかに響かせる。そうしているうちに小出が戻ってきて、カッティング・ギター対ハイスピード・ドラムの壮絶なバトルが開始。そこに湯浅と関根が合流し、切れ味鋭い“転校生”を発射。中盤から終盤にかけて大きなシンガロングを勃発させてから、湯浅が鋭角ギター・ソロを叩き込む。そして本日のビッグ・サプライズその1。“kimino-me”の最初のサビを終えたところで突然アレンジがクラブ・ミュージック方面に寄っていき、「ここでスペシャル・ゲスト!」という小出の呼び込みでサカナクション・山口一郎がステージ・イン! 山口による「ギター! 湯浅将平!」コールも実現し、場内の熱狂はどこまでも高まっていくばかりなのであった。

その後の“十字架 You and I”の途中で、湯浅によるライヴ恒例のダンス・タイムがスタート。「将平が踊ってるうちに、不幸とか取り払われていきますからね」「湯浅大明神が、みんなの2012年の幸せを願って踊ってくれていますからね」と小出に縁起物のような扱いをされながら、ステージのみならず、後ろのスタンドエリアまでを使って全身でエモーションを爆発させる湯浅である。そして“スイミング・ガール”“海になりたい”“海になりたいpart. 2”を高BPMのメドレー形式で繋いでいき、新作アルバムのタイトル・トラック“新呼吸”へ。太陽が昇り朝を迎え、沈みゆく太陽が夜を運び、また再び新しい朝を迎える。そんな1日のサイクルを、アルバム全編にわたってドキュメント・タッチで描いていくことによって、連綿と繰り返される毎日の中で少しずつ変化していく=新たに生まれ変わっていく「僕」の実相を活写する『新呼吸』。そして、アルバムのラストでその世界観をより強固なものとして確立させているのがこの“新呼吸”である。《あたらしい朝が来れば 僕は変われるかな/新品の現実に出会うために 生きてく》。そんな決意を力強く歌い上げる今の小出の目には、かつてのような迷いの色はない。そして「ここが始まり!」(小出)と“changes”を飛翔させ、クライマックスに向けて転がっていくBase Ball Bear。イントロ終わりに金テープが発射されてドラマティックに雪崩れ込んだ“LOVE MATHEMATICS”を経て、“CRAZY FOR YOUの季節”のラストで小出がギターを高く掲げると、日本武道館は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。

そして本日のビッグ・サプライズその2は、アンコールの1曲目。「僕はこの曲を作った時、武道館でやるのが目標だったんですね」と小出が前置きしてから、「僕のディーヴァ!」とチャットモンチー・福岡晃子、「僕のプライベートのおトモダチコレクション!」と呂布を呼び込み、“クチビル・ディテクティヴ”をドロップして、場内の手を大きくスウィングさせる。彼らが去った後小出は、少し真面目なトーンでバンドにとっても世の中にとっても困難な年となった2011年を振り返り、これからも全力で音楽を、ロックを、バンドを楽しんでやっていきたいと思っていること、そしてその楽しみをみんなとこれからも共有していきたいと思っていることを語り、“Tabibito In The Dark”を披露する。内省的な冒頭部から、《踊れ 踊れ 何もかも忘れて 踊れ 音の中で》とダイナミックなサビへと展開していくこの曲が祈りのように響き渡り、自由の下に解き放たれたオーディエンスは、ラスト・ナンバーの“祭りのあと”が終わるまで、心の底から湧き出る衝動に身を任せ、ひたすらダンスに興じていた。

ここ10年くらいでギター・ロックが徐々に飽和状態となっていき、ダンス・ミュージックやルーツ・ミュージックに先鋭的な音楽表現の可能性を見出す新世代的なバンドが次々と台頭していく現在の邦楽ロック・シーン。その中であくまでも「ギター・バンド」というフォーマットに拘り、まだ見ぬ地平を切り開こうとロックとポップを衝突させるBase Ball Bearの在り方は、どこまでもストイックで、誇り高い。そのこと改めて証明したのが、この日の武道館のステージだったと思う。彼らの新たな10年が、ここから始まる。(前島耕)

 

[セットリスト]
1.夕方ジェネレーション
2.Stairway Generation
3.ELECTRIC SUMMER
4.yoakemae
5.Fragile Baby
6.short hair
7.GIRL FRIEND
8.BOYFRIEN℃
9.WINK SNIPER
10.転校生
11.kimino-me
12.十字架 You and I
13.スイミングガール~海になりたい~海になりたいpart.2
14.新呼吸
15.changes
16.LOVE MATHEMATICS
17.CRAZY FOR YOU の季節
アンコール
1.クチビル・ディテクティヴ
2.Tabibito In The Dark
3.祭りのあと
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