名古屋/福岡/東京と回ってきた通常の単独ツアーを大成功させるだけでなく、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとGOING UNDER GROUNDを迎えての大阪/東京2公演=「weezer FESTIVAL」を開催してしまうあたりからも、日本での根強い人気と今年リリースされた『レッド・アルバム』の好評ぶりが窺えると思う。そして、ハナから満員のオーディエンスの熱気のせいか、「weezer FESTIVAL」最終日となるこの日の代々木第一体育館は、単なる「ウィーザー好きな日本のバンドをゲストに迎えた大規模な来日公演」とはどこか雰囲気を異にする空間だった。
18:00定刻きっかりに、トップバッター=GOING UNDER GROUND登場。「やっとこの日が来たね! 最後まで楽しんでくれよ!」という松本素生(Vo/G)の呼びかけを挟みつつ、CM曲にもなった“STAND BY ME”なども挟みつつ、それでも印象に残ったのは初期の“グラフティー”であり、さらにその前のインディー時代の名曲“思春期のブルース”だった。
今や日本のギター・ポップ・シーンを代表するバンドになった彼ら5人も、“思春期のブルース”の頃は荒々しいインディー・ギター・ロックのサウンドに乗せて、ただただ己のはちきれんばかりの切なさを叫び上げるしかない青年たちだった。そんな彼らのアーリー・デイズにも、ウィーザーの音は確かに寄り添っていたのだろう。
「今日はファンの1人として楽しんで帰りたいと思います!」という素生はMCで語っていた。が、当初はほぼ一本指演奏だった伊藤洋一(Key)の豊潤なシンセ・ブラス・サウンドのプレイを聴くまでもなく、この日の彼らはお気楽な「ファン」などではなく、紛れもなくタフな「表現者」だった。それが、彼らなりのロック・アイドルへの礼儀だったのかもしれない。
続いて18:55、ASIAN KUNG-FU GENERATION! メンバー3人がTシャツ姿の中、ゴッチ(Vo/G)1人だけ長袖の襟つきシャツを着てるあたりがリヴァース・クオモ色を感じさせて面白い。大学時代のゴッチに会ったことはないが、学生時代はこんな感じだったんだろうな、ということは想像に難くない。
セッションから“センスレス”に流れ込んだかと思うと、アジカン流パワー・ポップの名曲“アンダースタンド”! さらに“トラベログ”“No.9”と畳み掛け、たった4曲でアジカンの「これまで」と「今」を1万人のオーディエンスにアピールしてしまった。「weezer FESTIVALプチ情報!」とゴッチ。「このステージは、昨日アヴリル・ラヴィーンが使ったそのままを使っております」……ややウケ。「僕らは学生時代から(ウィーザーの)ファンでして。楽屋で一部のメンバーが舞い上がりまして、僕以外の3人が、メンバーとスタッフのホットミールを平らげまして……。今日はそのお詫びに来ました」。場内爆笑。
「大学生の時に、青いジャケットの1stアルバムを買ったんですけど……見ての通り、冴えない大学生でしたけど、ウィーザーの何枚かのアルバムで救われました」というゴッチのMCを残して、最後は“ワールド ワールド ワールド”“新しい世界”。それにしても、ウィーザーから受け取った音楽の遺伝子を≪泣かないでやさしい君よなんで君が泣くの≫という泣き笑いの言葉にジャック・インしたゴーイングと、≪軋んだその心、それアンダースタンド/歪んだ日の君を捨てないでよ≫とエモーション大放出の原動力にしたアジカンという2バンドのキャラの違いが浮かび上がってくるあたりが面白い。
そして、いよいよウィーザー登場に向けてステージで転換作業中……のはずが、どこからともなくリヴァースの歌う“メリクリ”が聴こえてくる。どこ? どこ?とキョロキョロしていたら――いた。アリーナ中央、PA卓のすぐ前あたりに、何やらお立ち台のような小さなステージが組んであって、そこで意気揚々と歌っているのだ。「昨日、『(崖の上の)ポニョ』を観ました! よかったです! ♪ポーニョポーニョポニョ」と歌い始めると、期せずして1万人が手拍子! 「いい歌ですね」と妙に慣れた日本語で応えるリヴァース。早くも「ただのライブ」を超えたマジックが生まれ始めている。
「ウィーザー・ファンとウィーザーは、ちょっと音楽をします!」と言って、アメリカ・ツアーでもやっていた「フーテナニー」コーナーへ。ピアニカやらタンバリンやらそれぞれ楽器を手にした一般募集のファン(ゴーイング伊藤もその中にいた)と一緒に、ウィーザーのメンバーが“Island In The Sun”“Beverly Hills”などを熱演。60年代フォークの時代のような、あるいは巨大な歌声喫茶のような不思議な空気が、代々木体育館の巨大な空間を満たしていく。
すっかりフロアがあったまったところで、メンバーがステージへ移動して“Dreamin\'”から本編開始! “Pork & Beans”のコシの強いゴリゴリのギターも、“Hash Pipe”のハード・ロック風のリフも、スコットの「シンガロング!」の声とともに鳴り響いたレディオヘッド“Creep”のカバーも、すべてが暴発寸前のポップであふれていた。
あと、長いこと「メガネ優男ロック」の代名詞のように語られてきたリヴァース・クオモが『レッド・アルバム』ジャケットにメガネなし&口ひげ姿で登場したのはご存知の通りだが、この日の佇まいはすごい。口ひげ生やしたいい大人が、長袖の襟つきシャツに、七分丈のパンツにハイソックスにスニーカーである。こんなコーディネートを「あり」にできるのは、永遠のロックだだっ子=リヴァースだけだ。
「先週、熊本にいました。温泉に行きました。気持ちよかった!」など、要所要所でリヴァースの日本語MCを盛り込みつつ、それでも“Perfect Situation”で1万人の大合唱を演出してみせたりして、試合巧者ぶりとシニカルなやんちゃポップぶりを見せつける。本編最後は、ハンドマイクで“Troublemaker”を披露したリヴァースが再びMC。「日本が大好きです! 今、このツアーが終わります。でも、とても楽しかったです! おつかれさまでした! また来週!」。場内騒然。「違った。また来年!」。ほっとする間もなく同時に押し寄せた「来年!?」という高揚感が、アンコールの“Automatic”“Greatest Man That Ever Lived”の後にもなお強く濃く残っていた。(高橋智樹)