ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ

ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ - pics by 小林 シゲタ pics by 小林 シゲタ 
昨年4年ぶりとなる新作『プラウドリー・プレゼンツ…ディス・モダン・グリッチ』をリリースしたウォンバッツが、約3年半ぶりに待望の来日を果たした。リヴァプールが育んだポップ・アルチザン・トリオ、ウォンバッツにとってこの新作『ディス・モダン・グリッチ』は前作『ア・ガイド・トゥ・ラヴ、ロス・アンド・デスパレーション』をラフ・スケッチだったと思わせるような洗練されたポップ・アルバムだ。
本国UKでは初登場3位を記録し、見事にデビューから2作連続のヒットを手中に収めた彼らはいわゆる新人バンドの「二枚目のジンクス」を打ち破ることに成功した。

『ディス・モダン・グリッチ』の洗練とは簡単に言ってしまえばポップのバラエティが増えたということで、その牽引力となったのが大胆なキーボード、シンセサイザーの導入だった。とは言え3人の最少人数でのタイトな演奏を旨としてきたウォンバッツだけに、新作のバラエティを果たして3人でどうやってステージ上に現前させるのか、その点を注目して観に行ったライヴだった。

渋谷クラブクアトロは残念ながら超満員とはならなかったが、新作のオープニング・ナンバー“Our Perfect Disease”で幕を開けたショウはのっけからオーディエンスのコール、手拍子、合唱とパーフェクトなレスポンスが決まりまくる最高の滑り出し。その後も新作を聴き込んで今日のショウに臨んだ熱いファンの心意気を随所で感じる温かなショウとなった。そんな日本の若いインディ・キッズに混ざって海外の方も多かったのも、彼らの本国でのステイタスの高さを実感させるものだった。余談だが、ショウの途中でマシュー(V&G)が「オーストラリアから来てる人いる?」と訊くとびっくりするほど多くの手が上がる。なにしろオーストラリアに生息する動物(Wombat)から拝借したバンド名の彼ら、実は新作もオーストラリアでは本国UKに匹敵する大ヒットを記録しているのだ。

ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ
ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ
ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ
まあそんな話はさておき、このオープニングの“Our Perfect Disease”からウォンバッツの『ディス・モダン・グリッチ』の新モードは遺憾なく発揮されていた。彼らがキーボードをいかに導入するかと言えばこれがもう簡単な話で、マシューとトード(B)の前にそれぞれ小型のシンセが置いてあり、頑張ってそのシンセを弾きながら矢継ぎ早に頑張ってキーボードもベースも弾くという一人二役のめちゃくちゃ忙しない、そしてだからこそ的確に正しい、マストな音が精選されてどんぴしゃのタイミングで転がり出す。ファースト来日時のパフォーマンスと比べると「呑気」が抜けた感があって、ギター・ポップ・ジャンボリー的だったかつての牧歌性の代わりに隙を詰めて密度の上がった艶やかな音がむちゃくちゃスムーズで気持ちいい。ポール・マッカートニーが設立した音楽学校出身のリヴァプールの地域特待生のイメージから一転、ユニバーサル・デザインを手中に収めた彼らの現在を目撃する体験。新作のプロデューサーがエリック・バレンタイン(ex.グッド・シャーロット)であり、ジャック・ナイフ・リー(ex.U2)であり、リッチ・コスティ(ex.ミューズ)であったという豪華すぎる布陣の必然を、冒頭の数曲で一気に理解できるようなパフォーマンスでもあった。

ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ
この後も『ディス・モダン・グリッジ』のナンバーと『ア・ガイド・トゥ・ラヴ』がバランス良く配置されたセットが続くが、新作からのナンバーが圧倒的に良くて、自分がスマホにメモったポイントを見返してみても「“Jump Into The Fog”の後半スペース・ロック!」とか「“Techno Fan”キーボ×4つ打ちポップすぎる!」とか「“Tokyo”やばい!!」とか、とにかく「!」付きで異様に興奮してるのは大抵新作からのナンバーだったりした。ただし、単に新曲にはキーボードがプラスされたからその分が曲の魅力に加わったというわけではなくて、キーボードをはじめとする装飾が増えたことで改めてウォンバッツの「地」の良さを再認識できたというのが大きいんじゃないだろうか。

「東京に帰ってこれてほんとうに嬉しいよ、ダイスキ、トウキョウ」とマシューが言って始まった“Last Night I Dreamt”以降の後半は少しメロウな曲が続き、“1996”などは中期オアシスみたいな威風堂々のミッドテンポ・アンセムに育っている。そして本編ラストはもちろんこの曲を置いて他にない“Tokyo”!! この日一番の大合唱が東京の片隅のライヴハウスに満ちていく。ステージ上の彼らはひょっとしたらこの光景を観たくてこの曲を書いたのかもしれない。

とにかく新作からのナンバーが抜群にいい、抜群に前向きで健全なパフォーマンスだったと思う。というわけで最後に。ウォンバッツの新作『ディス・モダン・グリッジ』はたとえばキラーズやマルーン5が好きな方にもお勧めできる、全方位型のポップ・アルバムです。ぜひ聴いてみてください!(粉川しの)
ザ・ウォンバッツ @ 渋谷クラブクアトロ
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする