bonobos @ SHIBUYA O-EAST

bonobos @ SHIBUYA O-EAST
「当たり前のようにライブができることを幸せに思います」。アンコールを終えた後、ステージに一人残った蔡忠浩(Vo/G)が口にした言葉に胸が沁みた。bonobosの5枚目のオリジナル・アルバム『ULTRA』を引っ提げた全国ツアーの初日、渋谷O-EAST公演。彼らのライブが聴き手に「幸せ」を伝播させる陽性のエネルギーに満ち溢れているのは今に始まったことじゃないけれど、ソロ活動やメンバー脱退などの紆余曲折を経たことで、さらに根源的な力を増したハッピー・ミュージックが、この日は高らかに鳴り響いていた。

定刻を少し回った19時35分、暗転した場内にSEが鳴り響いてメンバー登場。「ワン、ツー、スリー」のカウントから、鉄琴やクラリネットの音色がキラキラと飛び交うミドル・テンポのワルツが放たれる。旧式のメリーゴーラウンドを思わせるようなレトロでファンタジックな風合いを持ったこのインスト・ナンバーは、これから始まるライブのワクワク感を演出するのに打ってつけの楽曲。そのまま“星の住処”へ流れると、蔡、森本夏子(B)、辻凡人(Dr)のオリジナル・メンバーに、キーボードの野村卓史とホーン隊の武嶋聡&川崎太一朗をサポートに加えた6人編成による色彩豊かなアンサンブルがダイナミックに広がっていく。続く“ICON”では、「オー、イエー!」という掛け声とハンドクラップがフロアを包む最高にピースフルな一体感を生み出してしまった彼ら。一切のトゲやタガを感じさせないハッピーなヴァイブスで祝祭空間へと高らかに上り詰めていくbonobosならではの高揚感が、冒頭の3曲だけで完璧に生み出されていた。

昨日は交通機関が乱れるほどの春の嵐に見舞われた首都圏。「今日が昨日じゃなくて本当によかったー!」(蔡)とMCで触れた後は、“Standing There”“THANK YOU FOR THE MUSIC”を連打。bonobosの曲の中でも特にメッセージ性の強い名曲であるこの2曲がライブ序盤で投下されるとは少し意外だったけど、それも納得と思える展開がその後に待ち受けていた。辻が叩くスティールパンのふくよかな音色で幕を開ける“スユンチ!”を皮切りに、最新アルバム『ULTRA』の収録曲を次々と披露。夕立ち上がりの空に7色の虹が架かるように、7つの音(6人のサウンド+蔡の歌声)のタペストリーが繊細に紡がれた“虹”。森本が奏でる鉄琴のイントロと透明で壮大なサウンドスケープを経て、野性味溢れるバンドサウンドへとドラスティクに発展した“O’Death”。太くうねるグルーヴィーなダブサウンドの上で、フルートと鍵盤の音の花びらがはらはらと舞った“リレー”。そのどれもが鍵盤や管楽器を贅沢に取り入れた伸びやかで豊かなサウンドに仕上がっていて、聴いていて胸が躍る。そして圧巻だったのは、演奏時間12分以上にも及ぶ大作“あなたは太陽”。ギター/ベース/ドラム/鍵盤/管楽器それぞれが印象深いフレーズを奏でては消えていくバンドサウンドと、移ろいゆく季節を丹念に切り取ったような牧歌的なメロディと言葉とが重層的に絡み合うスロー・テンポの音像からは、聴き手をじんわりと癒す豊かなエモーションが湯水のごとく溢れ出していた。

終盤は、“GOLD”“water”の連打でフロアに心地よい横揺れを誘い、疾走感溢れるロック・チューン“wanderlust”を打ち鳴らして、“Go Symphony!”へ。蔡の清らかなハイトーン・ヴォイスとシンフォニックなアンサンブルが場内をカラフルに染め上げたところで、ライブ本編はクライマックスを迎えた。
さらにアンコールでは、昨日の強風を思わせる躍動的なサウンドがカオティックに炸裂した“春の嵐”、オレンジの光に包まれた場内で郷愁漂うサウンドスケープがゆったりと描かれた“夕景スケープ”を披露。「このあと4箇所も頑張っていきます!」と始まったばかりのツアーの意気込みを述べて、ライブを締めくくった。

豊かな音と、優しい言葉で彩られた、至福の極みのような2時間。冒頭に記述したMC以外に確信的な言葉や宣誓はなかったけれど、聴き手ひとりひとりの心に柔らかな光を灯していくような祝祭ムードに満ちたbonobosの歌は、それだけで日々を生き抜く指針となるような力強いメッセージを放っているように思えた。何気ない日常の幸せを愛することの大切さ。昨年の震災を経て日常の意味が変わってしまった今だからこそ、その尊さを真摯に伝え続けるbonobosの音楽が、より一層の輝きをもって胸に迫ることがよくわかる最高のアクトだった。(齋藤美穂)
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