のちにキューミリの菅原卓郎(Vo./G.)が「俺とか滝とか和彦の世代にとって(かみじょうが除外されている理由については、公式プロフィールの生年月日をご覧ください)、パンクってのはハイ・スタンダードでありAIR JAM世代で。まあロックの教科書に載ってるのはセックス・ピストルズかも知れないけど、そもそもロックに教科書なんかないんだけど、俺たちにとってハワイアンもまさにそういうパンクで。一緒にやれて嬉しいです。キューミリのファンってのは意外と、そういうパンクと対バンするのを観たことがないんじゃないかなって」と語っていたように、今回の共演はロック・シーンの棲み分けを踏み越えてゆくという点に置いても、とても意義深いものであった。
チャーミングなR&Bの曲調にメッセージが弾ける“Rainbow, Rainbow”は、ようやく春らしい穏やかな暖かさを迎えた、この日の東京の気候と混ざり合うようで最高だ。そこでHATANO、「今日はキューミリのご厚意により、有楽町線の終電30分前までやっていいって言われてます! あと、おまえらの前にはセキュリティの人たちがいるんだけど、かなり退屈そうにしております! こんなもんだよな東京はな。そうでもないのか? いつものライヴ・ハウスどおりにしてみろよ! 何も変わらねえよ!!」と煽りまくる。いや、割と最初の方から、セキュリティの人も忙しそうだったけれど。
それにしても、悲しみや憤りがだだ漏れになるハワイアンのマイナーなメロディの数々は、しかしそれによって湿っぽい気分にさせられることがなく、アクションのための燃料として完全燃焼してしまうところが凄い。「エモ燃費」の良さというか、感情のエネルギーを踏まえたパンク・サウンドとして随一の性能を誇っている。で、不思議なことに、音楽のスタイルもメッセージの文体も違うけれど、それってキューミリとも相通ずるところがあるのではないか。YUTAがギターを爪弾きながら切々と歌い出し2ビートの爆走に導く“A Cross Of Sadness”や、目映い視界の中でRYOSUKEのベース・ラインがドラマティックに紡ぎ出されてゆく“Ever Green”と、矢継ぎ早に名曲が披露される。
「キューミリのファンの人とか、楽しんで貰えるのかなって心配してたんだけど、結構なウェルカム感があってね。ありがとうございます。こうして楽しんで貰えればね、音楽の幅も広がってくかなって思って。おれ今、こうやって喋って好感度を上げようかなと思ってます! またこうして楽しんでいる力を、少しずつでも東北に繋げたいと思っています。俺たちはこれからも変わらず、東北を支援していくんで!」とHATANO。笑いではぐらかしながらも、ブレない意志がひしひしと伝わるようだ。「おまえたちがルールだかんな!」と終盤の更なる狂騒に繋いでいった。“Promise”のシンガロング・メロディは、心の深い部分まで抉り出して燃やし尽くしてくれるような、そんな手応えがある。瞬く間の14曲、みんな笑ってるけど果たして最後まで体力保つのか、というパフォーマンスであった。
「『DIAMOND HEADZ』にようこそ皆さん! ハワイに詳しい人は知ってると思うけど、岩場で、俺は行ったことないんだけどね。まあ俺たちはそこから連想して、ダイアモンド同士がぶつかったら凄い音がするんじゃねえか? みたいな、そういうタイトルです……」。言ってしまってから、あいたー、みたいな素振りを見せている卓郎である。で、文頭で触れた、彼らにとってのパンク観について語り、そして新曲が披露された。バンド一体型のダイナミックなリフで転がす、挑発的で新しいステージに巻き込んでゆくような歌詞が印象的なナンバーだ。サウンドがぐっと一塊になって届けられたこの新曲の後に、変態的なコンビネーションを見せつける“Sleepwalk”が置かれているのも良い。“The World”の、いわゆる小節を効かせたような、伸びやかで美しい歌声にも、今回のステージにおける強い集中力が受け止められた。
「老・若・男・女の顔が揃っておるな。最近、視力が落ちてきたんだけど、そこも、そこも、そこの人も、俺たちから丸見えだから油断めさるな。めさるな? でいいの? さっきハタノさんが、自由に楽しめみたいなこと言ってたけど、モッシュできないからダイヴできないから自由じゃない、ってことじゃなくてさ。それに捉われてる時点で自由じゃないじゃん。こんな話しようと思ってしてるわけじゃないんだけど、音楽ってのはギターの中にあるんじゃなくて、こう鳴らした瞬間にそこ(宙を指す)にあって。それは誰のものでもないわけだよ。だから今日は、それをみんなで奪い合うようにさ。野蛮に楽しもうじゃないか!」
と言いつつ、ここからは一時キューミリのロマンチック・サイドが開放される。“光の雨が降る夜に”、“キャンドルの灯を”、“カモメ”という珠玉の流れだ。ムードたっぷりにスウィングする和彦のアップライト・ベースも活躍し、弾け飛ぶようなエキサイトメントだけではなく、音楽の強烈な情景喚起力とともに入り組んだ思いを描くキューミリの射程の長さ・射角の広さが露になっていった。ハワイアンに負けじと矢継ぎ早に繰り出される楽曲群も良かったが、焚き付けられた集中力が一転して音像の美しさに落とし込まれるこの時間帯はキューミリならではの戦い方だ。素晴らしい。
「楽しいなー、今日はなー」と、零れるように思いを口にする卓郎。「ハワイアンは、名古屋も大阪も最高だったんだよ? でも、それを越える最高が起こっていたのでね。そうやって、毎回過去最高を記録していくわけだな。みんなが何やってるのか知らないけど、豆腐つくってますとか、ジョッキーやってますとか、顔で伝えてください。みんなが見てると、俺たちは逃げ場がないわけだよ。こっちからしてもそうなんだけど、そうやって、ライヴを盛り上げようじゃないか! あれ?(笑)」。いや、わかる。言わんとしていることは分かるけれども、オーディエンスの頭上に無数の「?」が浮かび上がっていたのも致し方ない。どうも今回の卓郎は、気の利いたことを言おうとするほどに空回っていたところがある。いつもの雄弁な彼からは想像も出来ないほどだが、それだけハワイアンに高揚させられていたということだろう。むしろ面白い。
終盤は、出し惜しみ無しの必殺ナンバー連打だ。かみじょうの鬼神の如きドラム・プレイが再び火を噴き、“Black Market Blues”ではステージの上も下も一斉に手を打ち鳴らしている。和彦がベースを置き去りに駈けずり回っては煽っていた。卓郎が「俺たちの歌だー!!」と高らかに宣言して繰り広げられた“The Revolutionary”は余りにも胸アツな光景。卓郎と滝とで、ツイン・リードのデッド・ヒートを見せてくれる。そして最速で飛ばしまくる“Punishment”によってフィニッシュを決める。前線のオーディエンスとタッチを繰り返して深く頭を下げる和彦。卓郎は満面の笑顔を見せつつ肉声で「ありがとうございましたー!!」と告げて去って行ったが、オーディエンスはなかなか帰ろうとしなかった。もはや顔ぶれが豪華だから、面白いからということだけではなくて、バンド同士もオーディエンスも互いに刺激され無限の相乗効果を生み出す。対バン企画というものの真意を見るような、そういう一夜であった。(小池宏和)
セット・リスト
HAWAIIAN6
01: Light And Shadow
02: An Apple Of Dhischord
03: Star Falls On Our Hands Tonight
04: Rainbow, Rainbow
05: The Lightning
06: Blackout
07: A Cross Of Sadness
08: Church
09: Ever Green
10: Eternal Wish, Twinkle Star
11: Magic
12: A Love Song
13: Promise
14: Fantasy
9mm Parabellum Bullet
01: Wanderland
02: Survive
03: Cold Edge
04: Supernova
05: 新曲
06: Sleepwalk
07: The World
08: 光の雨が降る夜に
09: キャンドルの灯を
10: カモメ
11: Termination
12: Black Market Blues
13: 新しい光
14: The Revolutionary
15: Punishment