cinema staff @ 渋谷クラブクアトロ ゲスト:LOST IN TIME

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cinema staff @ 渋谷クラブクアトロ   ゲスト:LOST IN TIME
最高に鮮烈なロック・アクトだった。cinema staff自身のツアー・ファイナルとして素晴らしかっただけでなく、聴く者の心に迫る切実な表現としてのロックの必然性をその音で証明するような、渾身のアクトがここにはあった。「大好きなバンドの節目のライブに呼んでもらえるっていうのは、自分の大事な作品が世に出るのと同じくらい嬉しいことで……」と、この日のゲストで登場したLOST IN TIME・海北大輔も充実感に満ちた表情で語っていたが、3月15日・福岡BEAT STATIONからスタートして岡山CRAZY MAMA 2nd Room/京都MUSE/名古屋クラブクアトロ/大阪umeda AKASOと回ってきたcinema staffの全国ツアー『TOUR 2012 “SALVAGE YOUR VINYL”』の全6公演のファイナル=渋谷クラブクアトロ公演は、どこまでもダイナミックで凛としたcinema staffという音楽世界の無限の可能性を十二分に提示するものだった。

各地公演で異なるゲスト・バンドを迎えてきたこのツアー、ファイナルの対バン相手として登場したのはLOST IN TIME。「cinema staffのみんな、呼んでくれてありがとう。そして、ツアーおつかれさまでした。お帰りなさい! 今日はね、シネマのメンバーみんなにアンケートとったんです。『聴きたい曲は何?』って。今日は彼らが好きだって言った曲だけをやろうと思います」という海北のMC通り、この日のLOST IN TIMEのセットリストは、発売されたばかりのベスト・アルバムに収録されていた新曲“あしたのおと”や最新アルバム『ロスト アンド ファウンド』の“夢”“スピンオフ”“ひとりごと”から1stアルバム『冬空と君の手』の“通り雨”まで、「オールタイム・ベスト」という視点とはまた異なる、それでいてシネマの4人が聴き手としてその1曲1曲に託してきた想いがじわりと滲んできて静かな感動を呼び起こす、というものだった。大岡源一郎&サポート・ギタリスト:三井律郎とともにシンプルの極みのような3ピースのアンサンブルを紡ぎながら、魂の揺らぎや躍動をそのまま言葉とメロディに置き換えたようなハートフルでエモーショナルな熱唱を響かせていく海北大輔。“あしたのおと”の凛としたビートと歌声。“悲しい歌”の赤黒く胸に焼きつく音世界。“スピンオフ”“ココロノウタ”の切迫した疾走感……「昨日」に苛まれながら「明日」を求めてやまない僕らの心にフォーカスしたLOST IN TIMEの音楽の核心が、全9曲・1時間弱のアクトに凝縮されていた。

「僕ら、今年でデビューして10年の節目を迎えて」と海北。「シネマみたいな素敵な、むしろ恐怖すら覚えるような若いバンドと出会えて思ったのは……続けることで見えてくる世界があるっていうこと。やめちゃダメだ」。シーンの中で派手な脚光を浴びることこそないが、10年間にわたって己のスタンスと歌を貫き続けてきたLOST IN TIMEの精神そのもののような言葉に、熱い拍手が広がる。「バンドってね、ファンと一緒に成長すると思う。僕はcinema staffが大好きで。ということは、cinema staffのファンであるあなたのことも大好きです。今日は本当にありがとう!」……そんな海北の言葉が、夜空を突き刺さんばかりのラスト“昨日の事”の絶唱とともに、いつまでも脳裏に残った。

cinema staff @ 渋谷クラブクアトロ   ゲスト:LOST IN TIME
そして19:45、いよいよcinema staffの登場! いきなり“想像力”の真っ白なカオスで視界を埋め尽くし、“ニトロ”のメロディアスな高揚感と性急な加速感がフロアを熱気で満たし……という幕開け時点でクライマックス状態のクアトロを、“第12感”の不可思議な展開と圧巻の爆発力がロックの異次元へと導いてみせる。コードやビートといった概念では到底割り切れない、複雑で緻密なアンサンブル。それこそ歌メロの入る余地すら埋め尽くすように轟々と渦巻くサウンドの中を鮮やかに飛翔しながら、聴く者すべてを多幸感の彼方へと連れて行ってしまう飯田瑞規のヴォーカリゼーション。その2つの要素が激しくぶつかり合いながらも、矛盾も分離もすることなく、お互いをより高みへと誘う翼となっていくーーそんな奇跡的な音世界が、格段にパワフルに鍛え上がったバンドの表現力で展開されることで、あたかもクアトロのステージの向こうに途方もない大空間が広がっているような錯覚すら覚えるほどのスケール感が生まれていく。

変拍子混じりのビートをいとも自然に叩きこなす久野洋平のドラム。重轟音ルート弾きから繊細なフレーズまで剛軟自在なプレイでバンドに強烈な推進力を与える三島想平のべース。ドラム・スタンドからフロア最前列まで猛獣のように動き回るアクション以上にアグレッシブでマジカルなギター・サウンドを放射する辻友貴。そして、ともすればイビツで混沌としたハードコア・サウンドにもなりかねない音像に目映い輝度と透明感を与えていく飯田の歌……今回ライブ初披露の“Seattle meets realism”から1stミニアルバム『document』の“部室にて”、2ndミニアルバム『Symmetoronica』の“Boys Will Be Scrap”といった楽曲をさらに織り重ね、静謐の底から轟音の極みまで瞬時に行き来しながら、博愛と衝動とが入り混じった人間そのものをヴィヴィッドに描き出していく。

めくるめくカオスを全身で謳歌しながら踊り歌い回るオーディエンスに、「楽しんでますか?」と中盤のMCで呼びかける飯田。「cinema staffからお知らせがありまして。リリースが決定しました。ポニーキャニオンからメジャー・デビューが……」と飯田が言い終わらないうちに、クアトロのフロアは怒濤の大歓声で埋め尽くされていく。そんなMCに続けて演奏したのは、6月20日発売のメジャー・デビューEP『into the green』のタイトル曲“into the green”。クリアで清冽なアンサンブルと歌と、随所で噴き上がるダイナミックなギター・サウンドとがくっきりとコントラストを描いていくーーかつてないほどにストレートな楽曲ながら、磨き抜かれた刃で眩しい夏の残像を紡ぐようなスリルと快感に満ちた名曲だ。同じく『into the green』からもう1曲披露された“棺とカーテン”も、8ビートのロック・アンサンブルを解体してまったく違う形で再構築したような、シンプル&ポップながら一抹の異形感を備えた、まさにcinema staffでしかない楽曲になっている。

「LOST IN TIMEのライブを観ると、何とも言えない気持ちになるよね」と、対バン相手にして敬愛する先輩:LOST IN TIMEへの想いと自らの決意を語っていた飯田。「高校の頃から好きで、何度も泣きそうになるんですけど。バンドを組んだ時の気持ちか、好きだった人のこととか、今だからわかる親の気持ちとか……僕らにとってLOST IN TIMEがそうであるように、cinema staffがみなさんにとって、そういう気持ちを思い出させてくれる存在になれたらいいなと思ってるんで。よろしくね!」。熱い拍手喝采が広がる中、“白い砂漠のマーチ”から“優しくしないで”“AMK HOLLIC”とシネマ・アンセムを畳み掛け、“GATE”の雄大なアンサンブルで高らかなシンガロングを巻き起こして……本編終了。

「LOST IN TIMEのみなさんも10年続けてて。僕らも高校生からなんで、9年なのか10年なのかよくわからないんですけど」……アンコールで登場した後、海北のMCを引き継ぐように語る三島。「『続けることをやめない』っていうのは重要で。僕らはそれがバンドだったんですけど……続けててよかったと思ってます。“into the green”っていう曲が出るんです。我々、去年の夏ぐらいに書いたんですけど。LOST IN TIMEみたいに、みなさんの日常に寄り添うものであればいいなと思ってるんで……買ってくれ!(笑)」。もう1曲未リリースの新曲を披露した後、アンコールの最後を締め括った楽曲は“海について”だった。“白い砂漠のマーチ”から“海について”へ至る壮大な世界を描いてみせた昨年の最新アルバム『cinema staff』を経て、さらにその先へーーという旅の「到達点」にして「出発点」でもある今この瞬間の彼らの沸き立つ冒険心が、“海について”の力強いサウンドスケープとともに伝わってきて、思わず胸が熱くなったし、なんだか嬉しくなった。6月20日の『into the green』の後、7月15日には恵比寿リキッドルームでワンマン・ライブを開催することもこの日アナウンスされた。1人でも多くの人にこの音に触れてほしい!と心から思える、素晴らしいステージだった。(高橋智樹)


■LOST IN TIME
01.あしたのおと
02.希望
03.通り雨
04.夢
05.悲しいうた
06.スピンオフ
07.ココロノウタ
08.ひとりごと
09.昨日の事

■cinema staff
01.想像力
02.ニトロ
03.第12感
04.Seattle meets realism
05.部室にて
06.Boys Will Be Scrap
07.into the green(新曲)
08.棺とカーテン
09.制裁は僕に下る
10.白い砂漠のマーチ
11.優しくしないで
12.AMK HOLLIC
13.GATE
Encore
14.新曲
15.海について=
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