宇宙まお @ 渋谷DESEO

この日のこれ、主にアマチュアが6アーティスト出る、いわゆるイベント形式のライヴであり、お客もからっぽではないがさして入っているということもないような、通常のRO69のライヴレポでは、まず取り上げない感じのものではあるのですが……いや、小さなライヴハウスはレポしない、ってことではありません。小さなライヴハウスであっても、「ワンマン」とか「○○企画」とか、そういうのはレポしたこと、過去に何度もあります。ありますが、そういう「誰か主体のライヴ」のその「誰か」ではない、6つ中2つめに出たアーティストをレポするようなことは、普段しない、ということです。ことですが、もう、ちょっと、がまんできないので書きます。宇宙まお、すげえ。

ジャパンでも他誌でもプッシュが始まっているし、このRO69でもデビュー・ミニ・アルバム『風とどこかへ』のリリース・タイミングで全曲解説特集をやったが(こちらです http://ro69.jp/feat/uchumao201204)、本当に優れている、このアーティスト。その圧倒的な優れっぷりが、下手するとぱっと聴いてもわからないかもしれない、聴きようによっては「ふつーじゃん」とか思われかねないところまで含めて、突出していると思う。

誰にでも共有できるような感情や感覚や考えを、誰でも意味がわかるような平易で簡単な言葉と、誰でも口ずさめるような(つまりキーが高かったり低かったりすごい歌唱力を必要としたりはしない)メロディでもって、聴き手に届ける音楽。そういうのって、「ものすごく凡庸でものすごくありきたり」か「ものすごく普遍的でものすごくすばらしい」のどっちかにばっきり分かれるものである、そして後者の例はほぼゼロに近い、ということを、自分が音楽を聴いてきた上での経験則として僕は知っているが、明らかにその「ほぼゼロに近い後者」だ、この人。しかも、ちょっとありえないレベルで。声域が広いわけじゃないし、とんでもねえ声が出るわけでもないし、予想外な展開のメロディがくり出されるわけでもないし、基本的にはギター弾きながら淡々と歌っているだけだし(途中で1曲ギター置いてハンドマイクで歌ったけど、それでも淡々としてました。リアムみたいに後ろで手を組んで歌う形が素敵でしたが)、一体何がすごいのか、最初はわからないかもしれない。だが、よおく、じっくりと、隅から隅まで聴いてみてほしい。「わかりにくい」とは対極にある音楽なので、まず、理解はできると思う。で、よく聴いているうちに、「あれ? これ、もしかして、すごくないか?」ってことが、じわじわとわかってくると思う。いきなり「うわ、すげえ!」ってなってくれればそれに越したことはないが、そうならなくても、しつこく付き合ってみていただければ、と思います。RO69のこんなコーナーまでちゃんと読んでいるような人なら、届くはずだ、とも思います。

リード曲は、この日1曲目だった“ロックの神様”だし、音楽メディア関係の人たちには4曲目にやった“穴だらけ”(ハンドマイクで歌った)の評判がいいらしいときいたが、僕としては5曲目に歌われた“満月の夜”の普遍性が、特にとんでもないと聴くたびに思う。もうなんか、日本のロック・ポップスのスタンダードのよう。これ、歌っている人がいなくなっても曲は残るレベルだ。沖縄のあちこちで、山梨県甲府市出身の宮沢和史が作った“島唄”が、何十年にもわたって歌われているような。なんだそのたとえは。いや、でも、そんなふうな「作り手を歌が超えていく」レベルの名曲だと思います、本当に。

宇宙まおのバンド、ギター:PLECTRUMのアッキーこと藤田顕(GREAT3とかCurly GiraffeとかCoccoとか)、ベース:キタダマキ(syrup16gとかSalyuとかホフディランとか)、ドラム:脇山広介(tobaccojuice)という、まあ、すごいメンツである。アルバムのプロデューサーがアイゴンだったので、彼のアイディアなのでは、と思うが、すばらしいプレイヤーしかいないバンドです。なんだけど、ライヴを観ると、大学を卒業したばかり(だそうです)の、歌もギターもさしてうまいわけじゃない女の子のパフォーマンスが、この猛者3人に全っ然負けていないことがわかる。という事実が、宇宙まおがなんであるかを表している、とも思います。(兵庫慎司)


セットリスト
1 ロックの神様
2 バイバイ
3 みじめちゃん
4 穴だらけ
5 満月の夜
6 誰も知らない国へ
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