GRAPEVINE@渋谷CLUB QUATTRO ゲスト:アナログフィッシュ

今年でデビュー15周年を迎えるGRAPEVINE。2月にリリースされた6曲入り新作『MISOGI』はバックトゥルーツしたタイトな一作で彼等の本懐を今一度確認させるものであり、そして9月には東京・大阪それぞれのNHKホールライヴも決定するなど、祝祭気分も俄かに盛り上がる彼等周辺。今回の8本のクラブ・サーキットも新作の内容に即したブルース・マナーの復権は勿論、15年の積み重ねあらばこその自由自在なアンサンブル、そして何より田中和将の歌声が醸し出す狂おしいばかりのエモーションが真正面から襲いかかってくる、現在の彼等の魅力をストレートに発揮してくるものだった。

このサーキットでは、ほぼ全行程において髭とアナログフィッシュのいずれかが対バンで客演していたのだが、ファイナルとなる今夜はアナログフィッシュがお相手。開演時刻ちょうどの19時に3人が現れ、さながらじらすように電子音の緩いループ音から入る、しかし“誰も誰かの替りにはなれない”と心意気は熱い「荒野」から始まるところはGRAPEVINEのファンに対する大人な自己紹介といったところで、じっくり時間をかけて互いを分かり合おうとする実直な雰囲気からライヴはスタート。

彼等も昨年『荒野/On the Wild Side』というベスト的な内容のアルバムをリリースした直後ということもあり、満員のオーディエンスを前にしても気遅れの無い自信たっぷりの表情が逞しい。凝ったメロディーのくせして歌詞は蒼い情熱を内包する下岡晃作品と、豪放な歌いっぷりとアクションの中にも仄かな感傷を滲ませる佐々木健太郎作品のコントラストも素晴らしく、総じて言えば一筋縄ではいかないバンド体質はGRAPEVINEのファンにもおおむね馴染みのいいものであることは間違いなく、虚飾の無い進行の中にもハッキリと歓迎の意が場内に膨らんでくる空気がいい。

中盤、佐々木が「青春時代に夢中になって聴いた曲です」と紹介し、おもむろに弾きだしたベースのやや性急なイントロ・フレーズが、どこか聴いたことがあるような気がする…と思っていたらGRAPEVINEの2枚目のシングル「君を待つ間」(98年)を速めのBPMで改編したバージョンであることが歌い出しで判明するや、場内が大きな拍手に包まれた瞬間もいいフックに。そこからは近年の代表曲ともいえる、夜の太陽を描いた「月の花」、正義という暴力を歌った「HYBRID」と彼等の何たるかを抽出した濃いめの曲をしっかりとオーディエンスに浸透させていく理想的な展開に繋がっていく。そして最後は出来たてのラヴソングが登場。“期限があるから引っ越そう。事件が起こるから引っ越そう”という意味深長な始まりから最後はただただひたむきな恋心へと話が収束していくスローナンバー「抱きしめて」で1時間を締め括る、近年の好調ぶりを強く実感させるメニューで続くGRAPEVINEへとバトンを渡していく。

約20分のセットチェンジを経て、20時20分頃GRAPEVINEが登場。下手からお馴染みのサポートメンバー2人、ベースに金戸覚、鍵盤に高野勲という面々を含む5人が足早に現れ、すぐさま定位置に就くや、田中の威勢のいい開口一番「こんばんはー」というちょっとドヤ声にも似た景気づけから1曲目、最新作のタイトル曲「MISOGI」の黒光りするようなブルース感覚と野太いグルーヴが場内に堰切ったように放たれていく。

流石15年の蓄積、と感じ入るどっぷりとした横揺れビートに今一度胸を突かれる思いの中、続く2曲目も同作からの「ONI」を繰り出すことで、そのこだわりをさらに加速させていく強気の姿勢を見せる彼等。ツアーも最終日とあって、すでにこの段階でメンバーの体が充分に温まっていることも明確に伝わる手際の良さで、早くも“任せて安心”な信頼感を構築してしまう頼もしさも素晴らしい。

最初のMCで田中が「今日はお足もとの悪い中、お集まりいただいてありがとうございます」と妙に丁寧な口調だったのも余裕の表れであることはすぐに分かったし、続いて「今日はUstも入ってますから、いつもより盛り上がってる体で!」と言うや場内の照明が一瞬明るくなり、そこでオーディエンスがここぞとばかりに手を振りかざして大騒ぎする絵も彼等のライヴには珍しく、序盤からいきなり笑いの渦が巻き起こる。もっともそこで「どうやって盛り上がれちゅうねん!という曲ばかり続きますが(笑)」と早々に意地悪なところを見せつけてくるのも田中らしいところだが。

そこからは本当に、彼等のブラックミュージックへの憧憬をダイレクトに表現したアーシ―な楽曲が続いただけでなく、時に暑苦しさをやや極端なまでに膨らませた挑戦的なアレンジの曲も出現する。3曲目もやはり『MISOGI』からの「YOROI」だったのだが、歪んだべ―ス音をループさせた殆どノイズといっていい重低音の波が重々しく耳をつんざく中、田中と高野の2人がパーカッション乱打を行うという意外な展開を見せたり、同じく同作からの「SATORI」では思い切りテンポを落としたへヴィーな演奏に乗せて亀井のフリ―キーなドラムをフィーチャーする一幕も。「TWO」では一瞬演奏をブレイクさせ、田中がセクシーな喘ぎ調の声でほとんどアカペラ状態のままに“ア~ア~”とフェイク・ヴォーカルで延々と場を引っ張ったかと思いきや、「B.D.S」ではアウトロ部分を西川のスライドギターによるサイケな響きで壮大に盛り上げるなど、匠の技を惜しげも無く見せつける芳醇な時間が続く。

重厚なひとときをたっぷり過ごしたところで、いいチェンジ・オブ・ぺ―スになったのは中盤の田中のMC。「さっきアナログフィッシュが“君を待つ間”をカバーしてくれましたが、それでは俺達バージョンを」。懐かしい曲の、しかもオリジナル・アレンジによる登場に場の色が一気に陽性のものに変化してからは、ロックンロールをベースにしたアッパーな曲が続くコーナーへ。カントリ―・テイストも軽快な「RAKUEN」、そして70年代的なギターリフで西川のギターがスペースロック風のトランス感で暴れる「So.」~「放浪フリ―ク」の連続技で一気にクライマックスへ持ちこみながら、同時にデビュー以来の歳月を何気にフラッシュバックさせる手法も心憎い。田中も「今日は来てくれてどうもありがとう! Ustを見ている全世界の皆さんもありがとう!」と珍しく機嫌の良さを隠さず、繰り返すシャウトで素直に喜びを噛みしめていた様子もまた胸に残る後半戦だった。

それでも最終曲はやはり最新作からの「ANATA」でじっくり締める構成で、現在の基本モードを再確認する流れ。場内の熱狂を意図的にクールダウンさせるように、マイクの前に立ったまましばし微動だにしなかった田中。ようやく静かになった頃合いを見計らって、イントロも無いまま唐突に“花は散っていく”としなやかに歌いだした瞬間には、やはり15年経った今だからこそ出来た楽曲で締め括っておきたかった気持ちが凝縮されており、ステージを去る姿も心なしか丁重な足取りに見えたように思う。

アンコールの呼び声もそこそこに、すぐさまメンバーが再登場。最早恒例となっている話だが、早くもメンバーそれぞれの手には缶ビールが握られ、場内は一足早い打ち上げに突入したようなカジュアル感に満たされる。全員すっかり笑顔の中で始まったナンバーは、田中の派手なコード・カッティングが冴える「真昼の子供たち」。イントロだけでも腰が動き出すリズムに続いて青空のように晴れやかなオルガンが鳴り響き“世界を変えてしまうかもしれない。君が笑うかもしれない”と田中が叫び出す頃には場内は再び熱狂の図で、オーディエンス側もここぞとばかりにエネルギーを全噴射するような歓声で応えていく。

すっかり場が和んだところで、最終曲で田中がまた珍しいMCを口にする。「僕等は一切(オーディエンスを)煽ったりとかはしないんですが、ここだけ付き合ってください。僕が“せーの”と言ったら“アナログフィッシュ”と叫んで欲しいんです。それでは、いいですか?」という流れに乗ってアナログフィッシュの3人が再びステージに登場。ドラムセットにはアナログの斉藤が座り、亀井は前方に出てきてアナログの下岡・佐々木と一緒に3人でひとつのマイクを囲むという不思議な配置となる。そこで田中が「ビーチボーイズ再結成記念!」と叫ぶや、3人がアカペラで歌い始めたのは「I get around」。あの“ウ~ウ~ウ~”と3声が織り重なっていくコーラスでお馴染みの、同時に難題度も高い曲に挑戦するという予想だにしなかったサプライズ・コーナーに突入する。3人の阿吽は最初こそやや危なっかしかったものの、演奏が入るや次第に調子を掴み、中盤から田中のワイルドなシャウト・ヴォーカルが寄り添う頃には、なかなか上出来なものになっていたんじゃないだろうか。本編とは全然違う趣旨の、パーティー的な一体感でライヴは幕という彼等にしては珍しい一夜になったが、やはりアニバーサリー・イヤーだからこそ、こういう音楽的な遊びはもっとやってくれていいとも思う。今年はフェス出演も続々と決定しているほか、その前には盟友TRICERATOPSのツアーへの参加など、今夏は胸の膨らむ予定が多々用意されている彼等だが、それらの収穫を総括するであろう9月のスペシャルライヴにこそ特別な期待を抱かせてくれる、そんな実り多い一夜となったこの日のCLUB QUATTROだった。(小池清彦)

セットリスト

アナログフィッシュ
1 荒野
2 PHASE
3 FINE
4 ロックンロール
5 君を待つ間
6 TOWN
7 月の花
8 並行
9 HYBRID
10 抱きしめて

GRAPEVINE
1 MISOGI
2 ONI
3 YOROI
4 Reverb
5 FORGEMASTER
6 SATORI
7 Two
8 B.D.S
9 君を待つ間
10 RAKUEN
11 Good bye my world
12 So.
13 放浪フリーク
14 ANATA
アンコール
15 真昼の子供たち
16 I get around (GRAPEVINE+アナログフィッシュ)
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