THEラブ人間 @ LIQUIDROOM ebisu

ゲロ、滞納金、シケモク等々、どちらかというとあまりカッコよくない…いや、積極的にカッコ悪い言葉ばかり羅列する自虐ぶりで、ほぼ最低レベルの日常とそこにどっぷり浸っている自身への逆ギレを爆発させるTHEラブ人間。それは、逆説的に言えばどん底真っ只中にあって今なお迸りをやめない生命力の讃歌であり、失うものは何も無いからこそ打ち出せる壮大な楽観であり、何よりそんなゼロ地点からならどこへでも旅立って行けるとする意志である。

そんなエネルギーを淀むことなく燃焼させる彼等のライヴは、一見ダメ人間な佇まいとは裏腹に強力な上昇志向と負けん気が煮えたぎったもので、言ってしまえばこの21世紀におけるリアル・パンクの怒りと内省と焦燥が合体したもの。しかも、その怒りが向かう矛先は「社会」などという漠然とした他者ではなく、「ダメな自分」というあまりにも近い存在であるため、投げつけられる罵詈讒謗は容赦ないまでに辛辣。しかし、それは限られた生命そして人生への、純粋過ぎるまでの責任感も強く潜んでいるからこそ、だ。

ほぼ一杯に埋まったこの日のLIQUIDROOM ebisu。MCや曲中で金田康平は何度も「こんな景色が見たかったんだ!」と繰り返していたが、あるいは「3年半やって、900人まで(観客が)膨らみました。ありがとう」といった台詞など、この日の言葉にはそのほとんどに初めて見る風景へのてらいの無い感謝の念が宿っていた。それは同時に、このメンバーと共に歩んできた道がどれほど正しかったのかを実感する喜びにも満ち溢れたもの。そんなようやく訪れたステップアップ時代を迎えて行なわれたのがこのライヴであり、それはこれまで鬱屈とともに蓄積~増幅されてきた表現意欲が一気に前向きな自信とともに爆発した、まさに上昇期が始まったバンドらしいギラギラした輝きに満ちたものだった。

なにより金田の声が歌い方が実に明確にして切実だったのだが、彼等の場合、それはつまりどうしようもなく赤裸々でエモーショナルになるということ。そこにあるのは、自分を分かって欲しいのは社会や世間や大人とかいう曖昧模糊としたものではなく、まずは目の前にいる目を見て話すことが出来るあなたひとりひとりであるという強い認識。そんな900人に向かって、自己紹介をするように一字一句を噛みしめ、時に悩ましくもエロティックなファルセットで苦悶を絶望を洗いざらいに開陳し、それでも最後には「俺は生きている、あなたも生きている」と叫ばずにはいられない姿は、21世紀のブルースマンでありソウルマンだ。

ライヴは、1曲目こそ静謐な語り部ソング“愛って悲しいね”で始まったものの、そこから先は無尽蔵なエネルギーがオーディエンスに向かってエンドレスで乱反射され続けるエネルギッシュなもの。金田は、早くも2曲目からギターを抱えたまま客席になだれこみ、背中からオーディエンスに向かってダイブし観客の頭上でギターソロを弾いている有様。そんな調子でノッケからすっかり場内を興奮の渦に叩きこむも、3曲目では「まだまだ、全然足りねぇぞ!」と叫び、全く焚きつけの手を緩めようとしない。

このツアーは、まず対バンを含む13本からスタートし、最後の3本に東名阪のワンマンが設定された日程で、この日はその最終日。東京で生まれ育った金田にとっては、まさに全国を一周して地元に帰って来た感覚だったようで、それゆえの羽の伸ばしっぷりは言わずもがなだが、なにより多くの現場を経てバンドそのものが充分に温まりきっている雰囲気がいい。4曲立て続けに演奏した後の最初の挨拶「ただいま、東京!帰ってきました」という言葉にも虚飾は無く、表情も実に晴れやか。しかしながら、話はツアー中の楽しかった話ではなく、むしろしんどかった話が裏表無く語られていく様子が実に彼らしい。

「きついこともいっぱいあって…、罵られもしました。(具体的にライヴハウス名を挙げて)××で、△△で、○○で、隅っこの方の人が『何、あのバンド? 早く終わらないかな…』そんな目で見ていた…そんな奴らをなんとかしてやりたい。わからせてやりたい」と語る金田の口調は、ホームタウンだからこその安心感も多分にあるとはいえ、正直すぎるくらいに正直なもの。そして、そのままの口調で曲を彼等のテーマソングのひとつでもある“わかってくれない”に繋げていくなど、どこまでも闘争心剥き出しのまま中盤以降も殴りかかるようにヒートアップした演奏が続いていく。ちなみに、この曲の冒頭で金田は「初めて(俺達のライヴに)来た、あなたたちを分からせにやって来たよ!」と叫んでいたが、これおそらく全国各地で叫んでいたんだろうと思う。

メニューは基本的に、5月にリリースされたメジャー1stアルバム『恋に似ている』からの楽曲が中心で、そこにインディーズ時代の楽曲を交えつつ進行するもの。なのだが、いくつか登場した新曲あるいは未発表曲が完全に今の自信から作られたであろう貪欲な楽曲ばかりで、全体の印象を想像以上にアグレッシヴなものへ水準を上げていく展開もまたいい。生命への強い執着を入院中の知人になぞらえて歌うロックンロール“病院”といい、手に入れたものは増えても納得しているものはほとんどないと歌い切る“未成年”といい、彼等の気持ちが現在一層加速中であることを否応なしに伝えてくるアクティヴなモードで駆け抜ける。

曲の緩急も良いバランス感覚で、バイオリンというよりフィドルという言い方が似合うお囃子調のラヴソング“わたしは小鳥”でまさにラヴな高揚感を醸し出したかと思えば、一転して荘厳なオルガンの響きに乗って取りつかれたように身をよじり「きみとぼくは他人になれた」と失恋の絶望を叫ぶ“八月生まれのきみの結婚式”も披露。そして「幸せだね」と囁く君に対し大きくしかもキッパリとした口調で「全っ然、幸せなんかじゃない!」と斬って返す“悪党になれたら”等々、ほどよいギミックも有効に山谷を重ねながら曲は続いていく。それらがよどみなく、言ってしまえば吐き出されるように連射されていく様子は、言いたいことがあり過ぎて苦悶している者だけが持つどす黒い輝きであり、そして身を切ってまでしても叫ばすにはいられないアーティストとしての性だ。

怒涛の勢いで進行した2時間はあっと言う間で、アンコールで登場した金田もあまりに早い展開にうすら笑いを浮かべながら、それでも「この夜が終わってしまったら、今までやってきたことの全てが無かったことになってしまうんじゃないかと不安な気持ちです」と真摯な口調で語る。しかし、何かを決心したかのように、しっかりとオーディエンスを見据えて「(バンドを結成して)3年半でようやくここまで来ましたが、THEラブ人間は、ここでこの3年半を終わらせて、次の場所に行きます」とも力強く語っており、どうやらまた近々、新たな展開が披露される様子なので、今後の作品や活動にはくれぐれも留意しておきたいと思う。ちなみに彼等は8月3日(金)の「ROCK IN JAPAN FES.2012」にて、朝のWING TENTに登場する予定になっているので、居合わせている方には是非とも体験してみることをお勧めします。

2回のアンコールに応えるなど、達成感もたっぷりに終了したライヴそしてツアーを記念して、最後は紅一点のベーシスト、おかもとえみによるコ―ルで締め括ることにした彼等。金田の「今日はどれくらい嬉しかった?」という問いかけに、彼女は「昨日、マラソンしている人を見かけて、それが草彅 剛だったんですけれど、それを見た時よりも嬉しい!」と笑顔で返答。そんな彼女の起案で最後は3本締めならぬ「え~、今日は22日なので、11本締めで」というエンディングに。一瞬キョトンとする場内だったが、金田の「方程式はのちほどツイートしますんで(笑)」というフォローもあり、めでたくオーディエンス全員参加による11本締めで、ツアーは大いなる充足感とともに幕と相成った。(小池清彦)


セットリスト
01 愛って悲しいね
02 アンカーソング
03 わたしは小鳥
04 西武鉄道999
05 わかってくれない
06 病院
07 東京
08 八月生まれのきみの結婚式
09 未成年
10 大人と子供(初夏のテーマ)
11 レイプミー
12 これはもう青春じゃないか
13 悪党になれたなら
14 砂男
15 おとなになんかならなくていいのに

アンコール1
01 りんごに火をつけて(Light My Apple)
02 京王線

アンコール 2
01 bedside baby blue (新曲・仮タイトル)
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