黒猫チェルシー×The Birthday @ 東京キネマ倶楽部

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黒猫チェルシーの自主企画による対バン・イヴェントが久々の復活。今回は東京・鴬谷にある東京キネマ倶楽部にて、The Birthdayと相見えるその名も『黒猫チェルシーホテル 鶯の間』。古くはグランドキャバレーだったという趣のある空間で、うら若きリビドーと大人の色香が激突する。猥雑にして生身の人間のリアルなエネルギーに満ち満ちた、夏の宵のスタートだ。

黒猫チェルシー×The Birthday @ 東京キネマ倶楽部 - pics  by Yuki Shimbo(The Birthday)pics by Yuki Shimbo(The Birthday)
黒猫チェルシー×The Birthday @ 東京キネマ倶楽部
先行するのはThe Birthday。ステージへと降りてゆく階段に照明が当たり、そこにバンド・メンバーが姿を見せて喝采を浴びる。「まだ夏は終わってねえぞ!」と言い放つチバユウスケのセクシーな柄物シャツが、会場のムードに嵌っていてかっこいい。僕は5日前に彼らのフジ・ロックでのパフォーマンスを観ていたので、セット・リストはそのときと同じものかと思っていたのだけれど、少し違っていた。オープニングでは“Riot Night Serenade”が、くすぶり始める夜の訪れを告げる。オーディエンスのひしめくフロアがその音を浴び、心地良さそうに揺れていた。

バンド・サウンドが次第に熱を帯び、ヒライハルキ(Ba.)の見せるアクションも大きくなって彼の腰にぶら下げられたチェーンも激しく波打つ。フジイケンジのタイトにしてクリアに鳴り響くギター・フレーズが一層自由な迸りを見せ始める頃、チバはサングラスを外して“ホロスコープ”のささくれだったシャウティング・ヴォーカルを決めるのだった。オーディエンスによる一斉クラップと一緒くたに転げてゆくのは“カレンダーガール”だ。クハラカズユキ(Dr.)は「キネマ倶楽部は、いい雰囲気ですね。やりたかったですよ」と語っていた。

MCらしいMCはこのキュウちゃんの一言くらいで、ロックンロールにすべてを語らせようとするパフォーマンスが畳み掛けられてゆく。メンバーの名前を呼び続ける多くの声(ときどき子どもの声も混じっているのが可愛い)に、いちいち音で応えるようにして鳴り出すフジケンのギター・イントロ。“さよなら最終兵器”から、ムードたっぷりにスウィングしつつメンバーそれぞれに熱いソロを挟み込む“Red Eye”、そして“ROKA”へと至る流れは圧巻であった。会場の猥雑なムードと強烈なバンド・サウンド、オーディエンスの積極的なノリが混ざり合って化学反応を起こし、予想外にあたたかくてピースフルなヴァイブが生まれているのが面白い。“STORM”でパフォーマンスを終えて「ありがとう」と告げるチバが、ニッコリと最高のスマイルを残していったのを、見逃さなかった人も多いことだろう。

黒猫チェルシー×The Birthday @ 東京キネマ倶楽部
黒猫チェルシー×The Birthday @ 東京キネマ倶楽部
さていよいよ黒猫チェルシーだ。階段状の踊り場で大股を広げてポーズを決める澤竜次(G.)を先頭に、岡本啓佑(Dr.)、宮田岳(Ba.)が登場。3人による音出しが一発というところで、シャツのボタンを全開にした渡辺大知(Vo.)が飛び出し、脚部の無いスタンド・マイクをステッキかライフルのように振りかざして“嘘とドイツ兵”を披露し始める。黒猫チェルシーとThe Birthdayは、大雑把なジャンル分けで言えば共にR&Bやパンクの流れを汲むガレージ・ロックンロールということになるのだろう。でも、その音の手応えは随分違う。面白いことに、若い黒猫の方が、古いブルースのエッセンスを強く振りまいているのだ。それに比べるとThe Birthdayは、キャリアの中で手探りに掴み取ってきたような、現代型ロックンロール・サウンドになっている。

少年期のとめどなく溢れ出すリビドーが、時空を超えて奇跡的に掴まえてしまったブルース。黒猫のサウンドはそんなふうに形容することもできる。あと、派手な立ち居振る舞いを見せるヴォーカリストとギタリスト、それに対して見た目はクールだが抜群の安定感を誇るベーシストとドラマーという4ピースの在り方も、黒猫の方が古めかしい印象なのである。それでも涼しい顔をして動きのあるベース・フレーズを次々に繰り出す宮田や、最後列でメンバーを見守る元ゴールキーパー=岡本の佇まいは実に頼もしい。そして澤。演奏のテクニックはもとより、「ギター・ヒーローたる存在感」においてフジケンと肩を並べるか、それ以上なのが凄い。バンド内の明確な役割分担があってこその華やかさと言えるだろう。

The Birthdayのステージからグッド・ヴァイブレーションだけをそっくりそのまま引き継ぐようにして、黒猫もロックンロールを畳み掛ける。「The Birthday、かっこ良かったですよね。おれ今年22なんですけど、ああいうふうにかっこ良く年を取りたいです。この辺りでは、昼間っからお酒呑んでラブホテルに入っていく老夫婦なんかいますけど(※鴬谷には大規模なラブホテル街があります)、あれなんかもなかなか、ロックンロールやと思いますよ」と澤が語り、「ザ・フーのピート・タウンゼンドと共作した曲です」と自らがリード・ヴォーカルを務める“My generation”へと繋ぐ。いや、共作っていうか。でも、関西弁の歌詞が“マイジェネ”に小気味好く乗っかってゆく様は見事だった。土着の言葉というのは、それだけで音楽的な響きを持っている。

そして、それまで全速で跳ね回りつつ吠えまくっていた大知が、まっすぐにフロアを見据えて歌う“東京”。夢を形にするために社会の荒波に飛び込んで足掻く少年の姿。たとえば今回の『黒猫チェルシーホテル 鶯の間』も、それを描き出すために設けられた舞台装置だったろう。しかし黒猫はもはや、ジタバタと足掻いて喚き立てるだけの子どもではなかった。大人の社会に呑み込まれ潰されないように、しかしただ逃げ出すのではなく、自分なりの距離感を見定め、自分自身として社会と渡り合おうとしていた。そんな過程の中で、彼らのブルースは今後一層、深みを増してゆくはずだ。そう確信させるパフォーマンスであった。

10/17にリリースされる2作目のフル・アルバム『HARENTIC ZOO』と、それに先行して行われる『秋の大感謝祭ツアー2012』の告知がなされ、ツアーではインターネット上でのリクエスト投票が反映されるそうなので、ぜひ黒猫チェルシーのオフィシャルHPをチェックして欲しい。そしてもの凄いドライヴ感を備えた新曲もここで披露。今後の黒猫が見せるであろう走り方/戦い方を、象徴するようなナンバーであった。「まだまだやるぞー!」と目を引ん剥いて言い放つ大知。その言葉どおり、新曲以降は更に加速感・加熱感が尋常ではないパフォーマンスが繰り広げられていった。それにしても本当に、曲が良い。耳馴染みのよいメロディということではなく、スリリングで予想を気持ち良く裏切る展開があって、それを支える熱量とスキルがある。ロックンロールとして素晴らしい作曲がある。

こういうバンドが同世代にいるという若いロック・ファンを、僕は心底羨ましいと思う。生きるヒントを与えてくれて憧れを受け止めてくれるベテラン・ロッカーの存在も大切だし、大知もThe Birthdayに向けて「ただのいちファンの誘いを受けてくれて、ありがとうございます」という感謝の思いを投げ掛けていた。でも、同世代で共にリアルな悩みや痛みを共有し、ブルースを転がし、共に成長してくれるバンドの存在というのは、他の何物にも代え難い、一生涯の財産となるはずだからだ。もう、思い入れのレヴェルがまったく違うものになる。

さて、黒猫チェルシーの次なる舞台は、いよいよ8/3から3日間に渡って繰り広げられるROCK IN JAPAN FES. 2012の初日。WING TENTにて17時スタート。こちらもぜひお楽しみに。(小池宏和)


SET LIST

■The Birthday
01: Riot Night Serenade
02: ゲリラ
03: ホロスコープ
04: カレンダーガール
05: なぜか今日は
06: 涙がこぼれそう
07: さよなら最終兵器
08: Red Eye
09: ROKA
10: STORM

■黒猫チェルシー
01: 嘘とドイツ兵
02: ボリュームノブ
03: アナグラ
04: マタタビ
05: My generation
06: 東京
07: まったくいかしたやつらだぜ
08: 新曲
09: スピーカー
10: 廃人のロックンロール
11: YOUNG BLUE
12: Hey ライダー
EN: ベリーゲリーギャング
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