オマー・ロドリゲス・ロペス・グループ @ LIQUIDROOM ebisu

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マーズ・ヴォルタの最新作リリースとツアー、そして活動休止。フジ・ロックやロラパルーザ、レディングなどの大型フェスにおけるアット・ザ・ドライヴ‐インの期間限定再結成パフォーマンス、更には3作ものソロ・アルバム発表と、ただでさえ多作家であるところに八面六臂の活躍に拍車がかかった2012年のオマー・ロドリゲス・ロペス。今回、オーストラリアやニュージーランドでの公演を経て大阪と東京で行われたオマー・ロドリゲス・ロペス・グループ名義のジャパン・ツアーは、実質的にオマーの新バンド=ボスニアン・レインボウズ(Bosnian Rainbows)の試運転期間に相当するツアーである。

これまでのオマー・ロドリゲス・ロペス・グループはメンバーが流動的で、日本でのステージにおいてもその都度、編成と音楽性の異なるパフォーマンスを見せて来たわけだが、今回のステージではオマーが誇らしげにボスニアン・レインボウズのバンド名を紹介し、来年にはアルバムを発表するよ、と宣言していたこともあって、オマー自身が新バンドのケミストリーについて非常に大きな手応えと可能性を感じていることが見て取れた。そもそも彼はロック・バンドに対してクールなスタンスを取るところがあるというか、裏を返せばロック・バンドのケミストリーに寄せる期待が人一倍強いということでもあると思うのだが、アット・ザ・ドライヴ‐インの再結成パフォーマンスさえもさらりとこなしてしまったところがある。それだけに、きっちりと新しいバンド名まで付与されたボスニアン・レインボウズの始動は、かつてのアット・ザ・ドライヴ‐インやマーズ・ヴォルタ始動時の強いテンションを期待させるものだと思う。

オマー・ロドリゲス・ロペス・グループ @ LIQUIDROOM ebisu
オマー・ロドリゲス・ロペス・グループ @ LIQUIDROOM ebisu
メンバーは、オマー(G./Vo.)とディーントニ・パークス(Dr./Key.)のマーズ・ヴォルタ組、主にエレクトロニック・パートやシンセ・ベースを担当するニッキ・キャスパー(Nicci Casper:Key.)、そしてレ・ブチェレッツ(Le Butcherettes)としてもオマーと共に活動してきたフロント・ウーマン=テリー・ジェンダー・ベンダー(Teri Gender Bender:Vo.)の4人。オマーのバンドとしては比較的、少人数編成のバンドと言える。エレクトロニック・サウンドを配し、テリーによる透き通った美しい歌声からフィオナ・アップルを彷彿とさせる迫力の情念系歌唱までを行き来するヴォーカリゼーションを軸に据えた楽曲を披露する。「歌もの」としての手応えが大きいバンドなのである。

で、このテリーというヴォーカリストがとにかく目を引く。前衛舞踏と呼ぶには余りにもギクシャクとぎこちないが、ときにユーモラスで印象的な身振りを交えながら歌い、遂には自らの黒髪をひと掴み、切り落としてしまったりする。オマー・ロドリゲス・ロペス・グループには以前にも女性のリード・ヴォーカリストが在籍していたことがあって(2010年のMETAMORPHOSE出演時はそうだった)、オマーが一歩引いた位置に立つというスタイルはそのときと同様だが、テリーは歌声もさることながらそのアクティヴなパフォーマンスゆえに、バンドのアイコンとしての役割が大きい。楽曲を終えるたびに、人が変わったように表情を綻ばせて「アリガトー」と告げる姿もチャーミングだった。

複雑に入り組んだ構成の楽曲群にテリーのエモーションが筋を通し、オマーはサウスポーのギターを弾きまくるわけではないものの、要所要所に効果的なインプロを加えてゆく。エレクトロニックな要素については、オマーのソロ名義作である2012年の3枚のアルバム(『Un Corazón de Nadie』、『Saber, Querer, Osar y Callar』、『Octopus Kool Aid』)に見られたダブステップ/エレクトロニカ/ダウンテンポからの影響を感じさせるものの、ディーントニが左手で鋭利なスネアを刻みながら右手の鍵盤でシンセ・ベースのフレーズを繰り出す場面があるなど、ボスニアン・レインボウズがソリッドかつスリリングなバンド・サウンドを鳴らしていることは間違いない。少人数の編成で最大の効果を生み出す、そんなパフォーマンスだ。

オマーは、その変態的なロックの興奮とは裏腹に思えるかも知れないが、ロックへのクールな批評精神によって、レフトフィールドな多ジャンルからの信頼も勝ち得て来たアーティストだ。現代的なロックとはどのような形であるかを吟味し、新しいジャンルにスポイルされない、ロックの延命方法を開拓し続けている。まるで優れた外科医のように、正しくメスをふるい、正しい処置を施す。だから、ロック・バンド幻想に対しては一貫して醒めている。個性と才能と探究心を有り余るほど持っているのに、パーマネントなバンドのロック・スターの座に収まることもない。21世紀のロック・シーンにおいて、いかにもロック・スターらしいアーティストがなかなか見つからないのは、オマーのように優れたアーティストほど、ロックのスター・システムに対して大なり小なりの慎重なスタンスを取っているからではないだろうか。優等生的といってもいい。

オマー・ロドリゲス・ロペス・グループ @ LIQUIDROOM ebisu
それがときに歯痒くもある。その才能と表現の素晴らしさを広く知らしめるために、オマーにはスター性を引き受けて欲しいと思うことがある。極めてロックらしい、ドラマティックでエモーショナルな、かつスリリングなパフォーマンスを披露し、しかもテリー・ジェンダー・ベンダーというユニークなアイコンを擁するこのボスニアン・レインボウズが、オマーにとって良い意味でのスター・システムとなることを願うばかりだ。まずはアルバム、期待したい。(小池宏和)
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