スピリチュアライズド @ SHIBUYA O-EAST

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2012年に限って言えば、スピリチュアライズドは驚くほど頻繁に来日してくれている。2月のホステス・クラブ・ウィークエンダーのヘッドライナー、そして7月のフジ・ロックではレッドマーキーのヘッドライナーを務め、そして今回、単独ツアーで今年3度目となる再再来日を果たした。しかし、単独来日という意味では実に約4年ぶりということにもなるのだ。フェスのパフォーマンスと単独のパフォーマンスとでは、スピリチュアライズドの場合かなり大きな意味の違いが生じてくる。彼らの場合、60~80分程度のフェス仕様のダイジェストと、90~120分(過去、一番長かった時期には180分近いショウもあった)のフルセットでは、単に曲数が違う以上に1曲毎のスケールを調整する必要が出てくるからだ。そういう意味でも久々の、そして念願の単独来日なのである。

定刻を少し回ったところでメンバーが登場。ジェイソンはいつものように頭上で自ら拍手をしながらファンの歓声に応えている。白Tシャツ、デニムにスニーカー、そしてサングラス。これまた定番の格好である。この日のショウは“Here It Comes”でスタート。ジェイソンはこれまた例のごとく座ってギターを弾き、歌うのだが、今回のツアーのポジションはステージ向かって左手になっている。彼の手前には譜面台、足元には無数のエフェクター、そして背後にはキーボードが設置されている。バンド・メンバーはギターのDoggenことトニー・フォスターを筆頭にいつもの面子(ジェイソン、G、B、Dr、Key)で、加えて女声コーラスが2人参加した編成も近年の基本フォーマットだ。

つまりスピリチュアライズドとしては最小単位と言っていいバンドなわけで、今夜の冒頭の“Here It Comes”も曲の良さを最大限に際だたせるシンプリシティで貫かれた演奏。濁らないコーラスを筆頭にメロディも異様にクリアだ。これはスピリチュアライズド史上最もポップな最新作『スウィート・ハート・スウィート・ライト』のモードでもある。続く“Hey Jane”はそんな『スウィート・ハート・スウィート・ライト』がポップ・ソング集としてずば抜けて素晴らしいことを饒舌に証明するナンバーで、力強いマーチング・バンドのようなリズム隊に先導され、キラーなメロディ・ラインが幾重にも反復&転調していく。スピリチュアライズドは『スウィート・ハート・スウィート・ライト』ツアーからスクリーンの映像をプロパーな演出として加えてきた。しかもフジの時はもやもやと抽象的なイメージ映像の連続だったそれが嘘のように、今回は明快なモチーフが次から次へと映し出される。街角の雑多なトラフィック・ジャムの模様から一気に宇宙へと飛躍していく映像のカタルシスが、“Hey Jane”のドラマティックな転調と見事にリンクしていて、これまためちゃくちゃポップな演出だったと言っていいだろう。続く“Electricity”も潔くガレージーでパンクなアレンジで、ノイズをばらまきながらつんのめり気味に走りきる。

スピリチュアライズド @ SHIBUYA O-EAST
そして前半の、いや、この日の全体でも一、二を争うハイライトとなったのが“宇宙遊泳”こと“Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space”だ。1997年の超絶名盤『宇宙遊泳』収録曲でライヴで盛り上がる鉄板アンセムと言えば、数年前までは“Come Together”であり“Electricity”だったと思うが、近年凄まじい勢いで再評価・普遍化しているナンバーがこの“Ladies And Gentlemen~”だ。今回は大胆にワルツのリズムがフィーチャーされ、まるで可愛らしい御伽の国のBGMのように幕開け、それが徐々に徐々に壮大なスペース・ロックへと変貌を遂げていく。『スウィート・ハート・スウィート・ライト』のポップなスピリチュアライズドと、彼らの不変の個性であるスペース・ロック&サイケデリックが最高のかたちで融合を見せたパフォーマンスだったと思う。

続く“So Long You Pretty Thing”もそんな“Ladies And Gentlemen~”の流れを組む最高の展開で、全ての楽器の音量がマックスに差し掛かりさあこれからクライマックス!……っ……というところで何故かいきなりジェイソンが歌を止めてしまう。何やらギターの不調が気になるらしく、しきりに幕内のギターテクに目線を送っている。その後も歌はコーラス隊に任せてギターに専念しつつペダルを踏み替えてみたりなんだかんだとしているのだが、結局この曲を演奏し終えたところでジェイソンはふらっと立ちあがりステージから立ち去ってしまう。バンドも後に続き、ステージは暗転したまま無音で放置される。ええええ……!?フロアのファンからは「どこも悪くないよな?!」との叫びも飛んだが、本当に、何が問題だったのか、いまだによくわからない。よくわからないけれど、ジェイソン・ピアースという人は最近はずいぶん丸くなったものの、根本的にはよくわからないマッドジーニアスでもある。そしてたっぷり5分以上は経ったところで、ようやくバンドが戻ってくる。ジェイソンは何やらガッツポーズのようなしぐさをしている。彼なりに大丈夫だよと、ごめんねと、ファンに気を使ったのかもしれない。

しかし、結果的にこの予期せぬ中断がこの日のショウの構成をより際だたせるものになっていた。なにしろ後半は明らかにモードが違ったのだ。ちなみに2月のホステス・クラブ・ウィークエンダーは完全に『スウィート・ハート・スウィート・ライト』の試運転を兼ねた新曲メインのセットだった。一方7月のフジは“Broken Hearts”や“I Think I’m In Love”も披露し、『宇宙遊泳』以降の中期~後期スピリチュアライズドの名曲を中心に構成されたセットだった。対して今回のショウの主軸を担っていたのは『スウィート・ハート・スウィート・ライト』の楽曲、そしてそこに加えて初期の2枚『レーザー・ガイデッド・メロディ』、『ピュア・フェイズ』からのナンバーだった。そう、明らかにある時代の自分達に対するレトロスペクティヴの意思が感じられるものだったのだ。特に“Take Your Time”と“Electric Mainline”が続けざまにプレイされた最終コーナーはとんでもなく、スピリチュアライズド史上最もドラッギーかつサイケデリックだった時代のナンバー群が、20年近い時を経て今なお「拡大中」であること、まだまだ限界には到達していなかったことを証明する凄まじい波状につぐ波状のサイケデリック攻撃に飲み込まれ、完全に意識がぶっ飛んでしまった。

加えて、アンコールの1曲目はなんとスペースメン3の“Come Down Easy”だった。ジェイソンが“Walking with Jesus”と“Take Me To The Other Side”以外のスペースメン3の曲をプレイするのはかなり珍しいことだと思うが、彼らは12月のツアーから各地でいきなりこの曲を解禁し始めているようだ。「1987年、俺はとにかくぶっ飛びたいんだ」と歌い出すこの曲は「天国なんて行けなくたってクスリがあればここが天国だし」と歌った“Walking With Jesus”と並びジェイソンの書いた究極の思春期ニヒリズム・ソング、言わば厨二系の名曲なわけだが、それを40代に差し掛かったジェイソンが歌う、しかもちゃんと今にアクチュアリティを持って歌う様には目眩がする。“Walking With Jesus”に至っては近年演るたびに聖歌感が増していくという異様なゾーンに突入している。

スピリチュアライズド @ SHIBUYA O-EAST
そんなスペースメン3の連打に酔いしれているに落雷したのがこれまた懐かしの“Smile”!!!『レーザー・ガイデッド・メロディ』中でも特にどサイケ&カオティックなこの曲が、これまた過去最高にどサイケ&カオティックな演奏で披露される。しかも、最後にきっちりカオスが集約されていく、ジェイソンのモノトーンなギターの爪弾きの粒音で終わるという演出まで含めて完璧だった。スピリチュアライズド、今夜も完全燃焼!!(粉川しの)

12月12日 渋谷O-EASTセットリスト
Here It Comes
Hey Jane
Electricity
Headin' For The Top Now
Freedom
Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space
So Long You Pretty Things
A Song
Perfect Miracle
Take Your Time
Electric Mainline
(encore)
Come Down Easy
Walking With Jesus
Smiles
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