『星野 源のSHIWASU』 @ 渋谷公会堂 ゲスト:清水ミチコ 司会:寺坂直毅

『星野 源のSHIWASU』

all pics by 三浦 知也
昨年末に、清水ミチコと寺坂直毅の二方をゲストに迎えてリキッドルームで行われた、星野 源の『部屋(友達編)』。大好評を博したということで、今年は規模を拡大して渋谷公会堂での開催に踏み切ったものの、チケットは2分ほどでソールド・アウトとなってしまったらしい『星野 源のSHIWASU』。昨年の模様はこちらで詳しくレポートされているのでぜひ(→http://ro69.jp/live/detail/61504)。「今回は椅子があるので、ゆっくり楽しんでいってください」という星野 源の挨拶から、今回の公演はスタートした。

まずは星野 源のパフォーマンス。「今回は基本、弾き語りなんで、寝てもいいです。なんなら喋っていてもいいです」と彼らしいユルいヴァイブを振りまきながらも、《世界は ひとつになれない(“ばらばら”)》と穏やかな語り口で真実を射抜き、《ここではない何処か/いまではない彼方へ(“彼方”)》と歌うファルセットのメロディにオーディエンスを乗せて未知の光景へと連れ去ってしまう。ロック/ポップ・ミュージック史上の偉人たちが、あの手この手で生み出そうとしてきた音楽の魔法は何だったんだというぐらいの、素朴なのに強烈な「効果」をもたらす曲。そして歌、歌詞。聴衆の一人として、とんでもない集中力が引き出されているのを自覚してしまう。赤ちゃんの声が場内に響くと「声援が聞こえるなあ。あれ、赤さん、どこいった? 連れ出されちゃったの!? 別にいいのに(笑)」と空気を撹拌しながら、また強く歌に引き込む、の繰り返し。全5曲と短めの厳選セットながら、11月末にリリースしたシングル曲“知らない”も圧巻。《さよならはまだ言わないで/物語つづく 絶望をつれて》のフレーズが、クレッシェンドする歌で届けられる。現実から目を逸らさないという意味で、これこそが真の肯定性だ。「次で最後の曲になります。えーっ、とか言ってよ!」と言い放ったところに、また絶妙のタイミングで響く赤ちゃんの「ヤアーーッ!!」という声がMVPすぎた。

さて、星野 源が清水ミチコをステージに呼び入れる形で、選手交代。「みなさんに音楽の歴史を知ってもらいたいと思って。今回は、私の、ほぼ半世紀メドレーをお届けしたいと思います」と告げる。メドレーのトラックが流れ出し、背景には大型のスクリーンが用意されるのだが、例えば60-70年代編の冒頭を飾ったピンキーとキラーズ“恋の予感”では、声マネが繰り出されると同時にスクリーン上には「今陽子さんの太くて伸びやかな声は、渡辺美里さんにそっくりとわかり始めたMy Revolution」といった、ユーモア満載のモノマネ指南が踊る。浅田美代子では挨拶と音程でボケまくり、真理ちゃんコールを誘いながらの天地真理では、「四文字熟語じゃなくて、人名なの!?と友人」のコメントを読むのも忙しい。後に記載するセット・リスト上では、各年代ごとにメドレーが分かれているのだけれど、実際はほぼ間断なく、次から次へと60-2000年代のモノマネ・メドレーを繰り広げてゆく。ぶりっ子と高笑いが猛スピードで入れ替わる松田聖子、矢野顕子のヴァリエーションとして成立しそうなことにも気付かされた山下久美子、一青窈→元ちとせ→Chara→「この世にこんなにも可愛い声が存在するのかという感じで」YUKI→UAという、終盤の超ハイ・レヴェルな歌唱力の連打も凄かったのだが、とりわけ圧巻なのは声マネなのにマイクが通じてないトラブル発生時という設定の中森明菜(でも、ちゃんと明菜になってる)と、「寒い、と念じながら」の宇多田ヒカルだ。絶大な愛とリスペクト、でもおちょくってるぐらいにデフォルメしなければ成立しない、という引き裂かれるようなモノマネ魂のジレンマまで見せつけるような、メドレーであった。ダメ押しに、アグネス・チャンから哀川翔と50音順に入れ替わりながら無数の人々をモノマネする、ジェットコースターのような挨拶でフィニッシュする。唖然。あと、何度か変な声だして笑った。

そして星野 源が「これを観るために来た」と満足気な表情で再登場し、清水ミチコが着替えを済ませる間に、もう一方のゲストである寺坂直毅を呼び込む。自ら司会卓を手押ししながら姿を見せた寺坂直毅である。『NHK紅白歌合戦』の博識ぶりで知られる彼が、星野 源と清水ミチコの『ふたり紅白』を司会するという段取りだ。エレヴェーター・マニアでもあるという寺坂直毅、「お客さん、どこから来ました? 岡山? 岡山の有名なビルって言うと? ケンマヤ?(星野)」「ああ、天満屋ですね。あそこ(のエレヴェーター)は、三菱製です。天満屋の前社長が、岡山県知事になったんですよ(寺坂)」と、軽くイリュージョンみたいなトークでオーディエンスのハートを鷲掴みにしてしまう。

で、星野 源が歌う森進一の“襟裳岬”から『ふたり紅白』がスタート。星野 源のギターや、清水ミチコのピアノが奏でるイントロに、絶妙な尺で口上を乗せてゆく寺坂直毅がまた凄い。この部分だけめちゃくちゃ練習しているんじゃないかという感じで、つまり語りが音楽的なのだ。もはや歌の一部なのだ。しかも、「山川静夫アナウンサー風に」とか「宮田輝アナウンサー風に」とか「浅野ゆう子の大トリ紹介風に」とか、名調子を巧みに使い分ける。演奏曲はまったく紅白出場者っぽくなくて、「出たら面白い」「歌いたい」だけのものも多かったが、星野 源は昨年も披露した“スーダラ節”が完全に星野 源の歌だったのと、『JAPAN JAM 2012』で向井秀徳と念願の共演を果たしたことも口上に差し込まれた、まるでフリーク・フォークのように美しくぶっ飛んだ演奏のナンバーガール“透明少女”が素晴らしかった。清水ミチコの方は、感動的な口上がいちいち「今夜は……が歌います!」と別の有名人になってしまうので、そこで客席爆笑。美輪明宏のマネの後に赤ちゃんの声が聞こえると「やっぱり美輪さんは分かるんだねえ。ジブリ的な何かがあるんだねえ…」と応えてみたり、たまたま僕は2日前、ユーミン本人のライヴに行ったりしていたもので、“あの鐘を鳴らすのはあなた”をユーミンが歌うとなると、もう頭が情報を処理し切れなくてショートしそうになった。遂には歌合戦ですらなくなって、清水ミチコ扮する矢野顕子と星野 源がデュエットする鉄板の“中央線”、そして井上陽水奥田民生の“ありがとう”(清水ミチコはもちろん陽水役)で大団円を迎えるのだった。

優れた音楽と歌、驚きと笑いが一緒くたになったショウ。やはりもの凄い組み合わせである。「ぜひまたやりたい」と星野 源は語っていた。ただ、星野 源と清水ミチコのそれぞれのショウというのは、言ってみれば水と油である。どっちが油ということではないのだが、例えば星野 源のショウというのは、その音楽表現で目一杯張りつめて、全力で聴き入って、曲間に緩む、といったリズムで成立している。一方の清水ミチコはというと、次のネタはなんだろう、どれだけ凄いんだろうという期待値が歌マネ(や顔マネ)の始まる瞬間にピークに達して、ネタで笑いや驚きが一気に解放される。だから、矢野顕子のようにずっと聴き入っていたいものもあるが、だいたい1コーラスで終わる。要は、オーディエンスの姿勢として、パフォーマンスに向き合うときの緊張と弛緩のリズムがまったく逆なのだ。だからこの2人の共演の現場というのは、もの凄いカオスな空気になることがある。なので、DVDとかをリリースして貰って、ファンはこの空気に馴染む練習をした方がいい。義務づけるぐらいの感じで。「渋谷公会堂には、制限時間があるんですよ。なので1曲だけ」と星野 源が一人でアンコールに応えて“フィルム”を披露してくれたのだが、「星野 源のリズムでスッキリ終われた」ことがとても良かった。たぶん、オーディエンスからすると、星野 源本人が思っている以上に良かった。

紅白だ何だとさんざん書いて来たけれど、12/28から4日間、幕張では『COUNTDOWN JAPAN 12/13』が行われる。大晦日にもやっています。星野 源は28日に出演予定です。ぜひお楽しみに。(小池宏和)

SET LIST

■第一部 星野 源
01: ばらばら
02: 彼方
03: くだらないの中に
04: 知らない
05: 夢の外へ

■第二部 清水ミチコ
01: 60-70年代メドレー
恋の季節/ブルーライトヨコハマ/わたしの青い鳥/
イミテーション・ゴールド/赤い風船/真夏の出来事/ひとりじゃないの

02: 80年代メドレー
白いパラソル/セーラー服と機関銃/ラヴ・イズ・オーヴァー/
赤道小町ドキッ/いけないルージュマジック/セカンドラブ

03: 90-2000年代メドレー
もらい泣き/ワダツミの木/fantasy/歓びの種/悲しみジョニー/
笑/誰かの願いがかなうころ/地上の星

04: 「ラバー・カム・バック・トゥー・ミー」

■第三部 「ふたり紅白 コーナー」

01: 襟裳岬  (星野 源)
02: ハナミズキ (清水ミチコ:森山良子のマネ)
03: 素敵なバーディー (星野 源)
04: 愛の讃歌 (清水ミチコ:美輪明宏のマネ)
05: 透明少女 (星野 源)
06: 津軽海峡冬景色 (清水ミチコ:デヴィ夫人のマネ)
07: スーダラ節 (星野 源)
08: あの鐘を鳴らすのはあなた (清水ミチコ:松任谷由実のマネ)
09: 中央線 (清水ミチコ:矢野顕子のマネ & 星野 源)
10: ありがとう (星野 源 & 清水ミチコ:井上陽水のマネ)

EN: フィルム (星野 源)