カーリー・レイ・ジェプセン @ 赤坂BLITZ

華々しくアップリフティングな楽曲が多いわりに、どうにもほっこりとした、柔らかくあたたかなヴァイブに包まれてしまう。そして何より、カーリー・レイ・ジェプセンは「歌の人」であった。これまでにもプロモーションなどで何度か来日は果たしていたものの、単独来日公演は今回が初めて。開演直前、ピンク色のマイク・スタンドがステージ中央に置かれるだけで、歓声とどよめきが巻き起こる。募り募った待望感の大きさを物語るようだ。チケットが即完売となったジャパン・ツアーは、この日の東京公演を皮切りに2/4の名古屋、2/5の大阪と続く予定となっている。今後の参加を楽しみにされている方は、以下レポートの閲覧にご注意を。

無数のサイリウムやメッセージ・ボードが掲げられるフロアを前に、ギター、ベース、キーボード、ドラムスをそれぞれ担当するバンド・メンバーが位置に付き、浮遊感のあるシンセ・フレーズがたなびく。シルバーのジャケットを羽織ったカーリーが姿を見せると、さっそく前線のオーディエンスと触れ合いながら“Tonight I'm Getting Over You”を歌い出した。アルバム『キス』の本編部分は、恋のときめきと失意、そこからの再生が描かれたドラマティックな展開が素晴らしかったのだが、“Tonight I'm Getting Over You”は、カーリーの世界的大ブレイクに一役買ったジャスティン・ビーバーとのデュエットで悲しみを切々と歌う美曲“Beautiful”に続く、強靭な再生の意志が込められたナンバーとして配置されていた。つまり、ライヴはその「再生の瞬間」を前提としてスタートするわけである。これは熱い。コーラス・パートの立ち上がりと共にダンス・ビートが鳴り響き、オーディエンスを激しくバウンスさせる。見事なオープニングだ。

カーリーはライヴ中、ほぼ留まることなくステージ上を歩き回ってファンの顔を見つめ、同時に歌詞の中に入り込むようにして身振りを交えながら歌をまっすぐに届けようとしていた。これが現代最高のシンデレラ・ストーリーを生きる人のライヴなのかと思ってしまうくらい、派手な演出は何もない。振り付けが当てられたようなダンス・パフォーマンスもない。余りにも無防備に、自分が歌いたい歌をまっすぐに歌う。それだけなのである。「今日はサプライズがあるのよ!」と言うので何かと思えば、ドラマーが誕生日で、ケーキとバースデー・ソングの大合唱をさらりとプレゼントしてしまったりもする。ステージに立って、歌い、楽しむ。そういうことを当たり前にやって、目一杯の幸福感で輝いてしまう人。それがカーリー・レイ・ジェプセンなのである。

大ヒットした『キス』の収録曲を中心にしたセット・リストにはなっているけれども、ボーナス・トラックであった“Sweetie”や“I Know You Have A Girlfriend”、デビュー・アルバム収録の“Bucket”や“Sour Candy”といった楽曲が散りばめられているのも興味深い。ジャケットを脱いでキャミソール姿になったカーリーが歌う“Bucket”は、レゲエ風の小気味よいリズムにチャーミングなメロディのフックが弾けるナンバーだ。粒ぞろいの楽曲たちによって、彼女がもともと持ち合わせていたソング・ライティングの巧みさを伝えるライヴになっている。カーリーの歌は声を張り上げるでもなく、ナチュラルでキュートな響きを最大限に活かすスタイルだから、その点においても彼女が「自分の歌を理解している」優れたシンガーであることが分かると思う。ギターを抱えたメンバー(このとき以外はキーボードを担当していた)に音源でのアウル・シティーことアダム・ヤングのヴォーカル・パートを委ね、オーディエンスにきっちりコーラスの演習をさせた上で臨む“Good Time”も、カーリー自身のライヴ・レパートリーとしてすっかり昇華されている印象だ。

「これはとても個人的な状況を歌った曲よ。恋している人はいる?」と断った上で披露される、胸を搔き毟るような切ない旋律とダンス・ビートの相乗効果が凄い“More Than A Melody”。バブルガム・ポップ風の普遍的な胸キュン・メロディを完全にモノにしている“Hurt So Good”。そして《あなたがギターの弦を切ったら、私はそれを巻き付けて指輪にするわ》といったロマンチックな歌詞が秀逸な“Guitar String / Wedding Ring”。ダンスのシーンを煽り立てるプロのディーヴァというよりも、やはりカーリーはリアルな生活感を強く受け止めさせる普通の女の子だ。ただし、彼女は生活にドライヴ感をもたらすための歌を生み出す、優れたシンガー・ソングライターでもある。ときめきも深い悲しみも混ぜ込んだ歌が、ダンス・ミュージックの力を借りて、より強い推進力と興奮を形作ってゆくのである。

本編の最後は、これを聴かずには帰れない、「みんな歌ってくれるわよね!?」と“Call Me Maybe”へ。ストリングス風のシンセ・リフと最高にキャッチーなフックで盛り上がり、ステージ上には4体のご当地ゆるキャラも登場して踊っている。お、徳島のすだちくんがいるな。そのゆるキャラたちが、ステージから捌けるタイミングを見失ってしまって、スタッフに誘導されているのも可愛かった。アンコールではアコギを抱えたカーリーが、ソロの弾き語りで“Almost Said It”を披露するところから始まったのだが、肩肘を張らず、ごくごく自然な立ち居振る舞いで歌い出す姿は余りにも滑らかで美しい。決して華やかな場面ではなかったのだけれど、この夜の個人的なハイライトはここだった。カーリーがフロアにTシャツのプレゼントが投げ込んだり、手作り感たっぷりのメッセージ・ボードを受け取ってステージ上で掲げてみせたり(いちいち持ち主の元に返しにゆくのはカーリーの律儀さだろうか)、ファンとのそんな親密な交流の中で、カーリーの歌を分かち合う一夜であった。(小池宏和)


01: Tonight I'm Getting Over You
02: This Kiss
03: Sweetie
04: Tiny Little Bows
05: Bucket
06: Curiosity
07: Good Time
08: More Than A Melody
09: I Know You Have A Girlfriend
10: Sour Candy
11: Turn Me Up
12: Hurt So Good
13: Guitar String / Wedding Ring
14: Your Heart Is A Muscle
15: Call Me Maybe

encore
01: Almost Said It
02: Tug of War
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