Hostess Club Weekender 1日目 @ Zepp DiverCity

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2012年2月からスタートした都市型インディペンデント・ミュージックの祭典=Hostess Club Weekenderも今回で早4度目の開催となる。前回より会場を恵比寿ガーデンホールからZEPP DiverCityへと移動し、家族連れや観光客で賑わう休日のお台場のショッピングモールに英米オルタナの先鋭的才能とそのファンが集結するというシュールな光景がまたしても繰り広げられることになった。ヴァンパイア・ウィークエンドとダーティー・プロジェクターズという、まさに2000年代後半以降のUSオルタナティヴ・ロックを象徴する両巨頭をヘッドライナーに据えた今回のHCWは過去4回の歴史の中でも最も豪華かつ旬なブッキングが実現し、2日間通し券は瞬く間にソールド・アウト。HCWはそのスタートから1年を経て、日本のインディ・ロック・ラヴァーにとってはUS/UKミュージックの「現在形」をヴィヴィッドに感じるために欠かせない恒例のイヴェントとなったと言っても過言ではないだろう。

Hostess Club Weekender 1日目 @ Zepp DiverCity
初日のオープニングを飾ったのはフィドラー。LA出身の4人組で、かの超優良インディ・レーベル=Wichita(クリブスやベスト・コーストも所属)が現在激プッシュしてるガレージ・パンク・バンドだ。もう、こいつらが初っ端から最高だった。「ガレージ!」である以外の形容が見つからない、いや、必要としないほど徹頭徹尾ストレートなガレージ・ロックを鳴らすバンドで、しかもメロディ・センスが異様にあるためにかつてのハイヴスのようにポップ・ミュージックとしても戦えそうなポテンシャルが凄い。AC/DCのパロディみたいなギター・リフのセンスも悪趣味ギリギリ一歩手前でキャッチーに転んでいくし、過去を的確に批評する知性とB級ナゲッツ愛的本能のバランスが目茶苦茶取れているバンドなのだ。その一方で彼ら自身のキャラは完全かつ意図的に悪趣味で、MC中に何度も「ウ○コ!ウ○コ!」と叫び、くだらない下ネタを発しては自分達だけでウケてゲラゲラ笑っているし、タイムテーブル10分巻き(!)で最後の曲を終えたと思ったら「オ○ッコシテキマース!」と言いながら去っていった。ほんと、最悪で最高なバンドである。

Hostess Club Weekender 1日目 @ Zepp DiverCity
そんな最悪で最高なフィドラーに続き登場したのはポートランドを拠点に活動を続けている3人組、アンノウン・モータル・オーケストラだ。こちらもUSインディの誇り高い牙城と呼ぶべきFat Possumからデビュー・アルバムを、そして最新作『Ⅱ』ではJagjaguwar(ボン・イヴェールやオネイダも所属)へと移籍し、Jagjaguwarのお家芸とでも言えそうなサイケデリック・ポップを鳴らすバンドだ。つまりフィドラーと比べるとかなり優等生と言うか、現USオルタナティヴの旬、潮流みたいなものと素直にリンクした音楽をやっている人達でもある。しかし3ピースとは思えないほど複雑なレイヤーを感じさせるリヴァーヴの中に時折ピンク・フロイドみたいなソリッドな構築性ものぞかせながら進むパフォーマンスは、巷に溢れ返るなんとなくドリーミーなふんわりサイケ・ポップと比べると格段に男っぽく骨太に感じた。『Ⅱ』を聴いた段階ではここまで温故知新のベースがしっかりしたバンドとは思わなかったので大きな収穫だった。

Hostess Club Weekender 1日目 @ Zepp DiverCity
と、ここまでの2組はまさに「USオルタナの今」を活写したニューカマーを立て続けに観たわけだが、次に登場するパーマ・ヴァイオレッツはロンドン出身の超新星、このHCW初日で唯一のUKからのエントリーだ。既にUKロック・ファンの間では2013年の台風の目として特大級の注目を集めているバンドでもある。だから今回の初来日もパーマ・ヴァイオレッツとはどんなバンドなのかニュートラルに見学する場というよりも、「ハイプか否か」「その真価を確かめてやろう」とするシビアな批評者の視点と、彼らを早くも本能で熱愛し始めているコアなファンの期待が交錯するという、かなりスペシャルな瞬間となった。

そして結論から言うならば、パーマ・ヴァイオレッツは最っっ高のバンドだった!! そこにあったのは青臭くもロマンティックなロックンロールだった。どしゃめしゃな演奏、焦り先走る衝動、どんな無様を引き受けても徹底してリアルでありたいとするアティテュードは、US勢の洗練や知性と比較するとあまりにもナイーヴで、そしてナイーヴだからこそどしゃめしゃの間から零れ落ちるメロディに、声に、一瞬にして永遠の輝きが宿る。そしてこのナイーヴィティこそが過去何度もUKロックを救ってきた大正義でもあると確信させてくれたステージだったのだ。“Best of Friends”ではステージにファンの男子達が数人駆け上り、狂ったように踊りまくる。ある意味スノビッシュなお客さんが多いこのHCWでこんな光景を観たのは初めてだったし、それはパーマ・ヴァイオレッツだからこそ成立した光景でもあった。ちなみにギター&ヴォーカルのサムは繊細そうな面持ちでリリカルな歌を得意とし、ベース&ヴォーカルのチリは細面のハンサムでパンキッシュなナンバーを煽る役割を果たす――というツイン・ヴォーカルのキャラの対比が、どうしたってリバティーンズのピートとカールの物語を思い出させるもので、これもまた感涙だった。

こうして最っっ高の初来日のステージをキメたパーマ・ヴァイオレッツも、少し巻き気味で終わった。HCWのいいところは1日のアクト数が5つと絞られているので、各バンドの持ち時間が通常のフェスに比べるとかなり余裕を持ってブッキングされているところだろう。フェスの制約の中でバンドの個性がシュリンクしていくのではなく、それぞれの個性を引き立てる時間が十分に与えられているのだ(だからこそフィドラーやパーマのようなバンドがとっとと終わるのも、それはそれで正しい)。

Hostess Club Weekender 1日目 @ Zepp DiverCity
そんなHCWの特性を存分に生かしきったエピックなショウを繰り広げたのが、続くバンド・オブ・ホーセズだ。直前がパーマだったからか、いや、そもそもこの日のラインナップの中で彼らが異質だからか、とにかく彼らのHCW初日の空気を仕切り直す風格は半端無いものがあった。初日では一番のベテラン、とは言えまだキャリア10年には満たないBOHだが、演奏の膨らみ、分厚さ、そして安定感が段違い。伝統的なフォークやカントリーが気づいた頃にはスペース・ロックに飛躍しているし、逆に昂揚感凄まじいサイケデリック・ロックが気づいた頃にはオーセンティックなブルースへと帰着している。その振れ幅は破格なのに、演奏がどっしりがっしりしているために全く無理がない。まるで大海原を悠々と進む巨大船みたいだ。最新作『ミラージュ・ロック』ではローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンも手掛けた伝説的エンジニア、グリン・ジョンズと共にそんなスケール感にさらに磨きをかけたBOHならではのステージで、「今」という「点」ではなくもっと脈々と続くロックの本流を感じさせるパフォーマンスだったと言っていい。そんなBOHの頃にはフロアも既に立錐の余地無き大入り状態で、いよいよこのHCW初日のクライマックスを迎える準備が整った。

そして20時を少し回ったところで、遂にヘッドライナーのヴァンパイア・ウィークエンドが登場である。彼らについてはもはや説明の必要はないかもしれない。2000年代後半のNYシーン、いや、USオルタナ・シーンを牽引する存在である彼らのステージは、語弊を恐れずに書くならば年を経るごとにどんどん「わかりやすく」なってきている。“Cousins”でトップスタートな幕開けとなったこの日のステージも、まさにそういうものだった。もともと要所要所をタイトに決めて曲の美観を大切にしてきたバンドだけれども、もはやタイトな演奏を心がけずとも楽曲自体が彼らのパフォーマンスを導くように、どんどんシンプルかつ明快な響きに代わってきている。それはVW自体の進化であると同時に、私達オーディエンス、VWの音楽を聴いて2000年代後半のオルタナティヴを理解してきた私達自身の耳の覚醒でもあったのではないだろうか。アフロ・ポップ云々といった限定的な物言いではなく、もはやVWの音楽こそが私達にとってのポップのスタンダード、指針になっているということ。エズラ(Vo&G)は『コントラ』のインタヴューで「ぼくらはカレッジ・ロックとかうんちゃらロックとか色々形容されて誤解されてきた」と語っていた。その彼の憤りも、今なら完全に理解できる。そうだよなあ、『コントラ』を初めて聴いた時はあまりにも革新的なコレをどう評するかでうんうん悩んでいた気がするけれど、この日聴いた“Holiday”や“California English”は最高のポップ・ソング、それ以外の何物でもなかったのだから。

一方で後半の“Horchata”や“I Think UR A Contra”といったナンバーは、いったんフラットに地鳴らしするというか、ポップ・ソングの完成度から素材の持ち味の吟味へと立ち返るようなアレンジが印象的で、今回のステージは5月にいよいよリリースされる新作に向けての露払い的な意味をも持つものだったのかもしれない。初めてNYを離れ、初めてプロデューサーと共にLAでレコーディングしたという彼らの新作は『コントラ』とはまた全く異なるベースを築く作品となるはずで、それはエズラがアコースティック・ギターに持ち替えて披露された新曲“Unbelievers”の開放的な響きにも明らかだった。この5年間で私達が獲得したオルタナティヴ・ロックの成果に快哉をあげ、そして再びワクワクする何かが始まる、そう予感させてくれる初日のフィナーレだった。(粉川しの)
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