コンヴァージ @ 渋谷クラブクアトロ

コンヴァージ @ 渋谷クラブクアトロ - pic by TEPPEIpic by TEPPEI
ぎちぎちに埋まった渋谷クラブクアトロは、なにか待望感と言えるものに満ち溢れていた。昨年10月にリリースされた8作目となるアルバム『オール・ウィ・ラヴ・リーヴ・ビハインド』を引っ提げてのコンヴァージの日本ツアー、来日公演は3年ぶりとなる。あの深遠なる音の切れ味を、久々に堪能することができる――そんな信頼感が場内にはある。

共演を務めたのは、コンヴァージのネイトに、アイシスのアーロン・ターナーに、ケイヴ・インのケイラブ・スコフィールド、そしてアーロンと共にゾゾブラでも活動しているサントス・モンターノという面子によるスーパー轟音集団、オールド・マン・グルーム。重低音のドゥームなSEが鳴り響くなか、4人が登場し、ネイトの弾くギター・リフから始まった1曲目から堂々たるド迫力サウンドが展開する。ヴォーカルはケイラブが担当。その後、ケイラブ、ネイト、アーロンとフロントの3人で曲ごとにヴォーカルが入れ替わっていくのだが、音源のときはそれほど感じなかったのだけど、ネイトがヴォーカルを務める曲はコンヴァージを彷彿とさせるし、アーロンの歌う曲はアイシスの面影があり、ケイラブの楽曲にはケイヴ・インの遺伝子がしっかりと受け継がれている。ショウが進むにつれ、音圧はどんどんと上がっていき、変拍子や奇天烈なギター・フレーズも織り交ぜながら、45分で14曲もの楽曲を披露。海外では「メタル」というカテゴライズで語られることの多い彼らだが、伝統的なヘヴィ・メタルとはまったく違った場所で、実験精神を謳歌していることが十分に伝わるステージだった。

そして、いよいよコンヴァージの登場である。場内は徐々に殺気立った空気を帯びていくが、そんななか、さらに貫禄の増した感があるカート、続いてジェイコブ、そして、ベンとネイトのリズム隊の2人がステージに現れる。待ってました!とでも言うべき大喝采が飛ぶ中、ヴォーカルのジェイコブは、ステージの感触を確かめるように、ジャンプを繰り返している。毎回見るたびに思うのだけど、本当に身体の線が細い。この身体からあの絶叫が吐き出されることに、やっぱり一つ感慨を感じてしまう。客席のフロアからも雄叫びのような咆哮が上がっている。ぐっと溜めたイントロから始まったのは、6作目の『ノー・ヒーローズ』の冒頭を飾る“Heartache”。一気に走り始めたこの4人のサウンドがやっぱりすごい。刹那という概念をそのまま音にしたような彼らのサウンドは、傷みで持って傷みを切り刻んでいくような、そんな感触がある。そして、2曲目でいきなり名作『Jane Doe』のオープニング・ナンバー“Concubine”を投下。ジェイコブはマイクを客席に預け、オーディエンスからは絶叫とも言えるシンガロングが巻き起こる。そのまま激烈ビートの“Dark Horse”に突入。ステージでは寡黙な印象もあるギターのカートまでもが前線に出てきて客席を煽り、ネイトがスクリームを決める。ベンのドラムは音圧の塊となって客席に飛んでくる。ジェイコブは早くも羽織っていたジャケットを脱ぎ、その下にはモーターヘッドのTシャツを着ている。“Heartless”“Aimless Arrow”と畳み掛け、ここまで5曲ほぼノンストップ。“Aimless Arrow”では観客の1人がステージに上がってみせ、既にフロアのなかはとんでもないことになっている。

殺伐としたサウンドとは裏腹に「Thank You」を繰り返すジェイコブに対し、客席から「モーターヘッド!」の声が飛ぶ。それに対し、ジェイコブも「モーターヘッド!」と返して、笑いが起こる。そして、「最新作からの曲だよ」と言って始まったのは、『オール・ウィ・ラヴ・リーヴ・ビハインド』から“Trespasses”。ここらへんまで来ると、ステージのメンバーの呼吸にも一体感が生まれてきているのが見て取れる。一方で、これまでのコンヴァージとのライヴとの違いも感じ始める。コンヴァージのサウンドのトレードマークと言えば、なんといってもカートの超絶的なギターだが、そのサウンドが小さい。“Bitter and Then Some”を挟んで演奏された、新作からの楽曲“All We Love We Leave Behind”“Sadness Comes Home”でもその印象は変わらない。しかし、楽曲が連なるにつれ、そのサウンド・バランスの意図が見えてくる。新作『オール・ウィ・ラヴ・リーヴ・ビハインド』は、カートが「今作に人工的なディストーションや小細工は一切ない。全てがオーガニックで俺達のライヴ・パフォーマンスをそのまま捉えたリアル・サウンドだ」と語っていた通り、「生」であることに徹底的にこだわった作品だったが、そうしたオーガニックなサウンドでも、よりパワーアップしたパフォーマンスに挑戦すること、そうした姿勢があったのではないかと思っている。実際、“Sadness Comes Home”では無数のクラウドサーフィンを巻き起こしてみせる。

スプリットEP『The Poacher Diaries』からの“Locust Reign”、客席から自然とハンドクラップが巻き起こり、ワビサビの溢れるカートのギターが素晴らしかった“Glacial Pace”、そしてこちらも名作の7作目『アックス・トゥ・フォール』から“Cutter”“Worms Will Feed”とライヴは終盤に突入していく。これまでも何度か、ペットボトルの水を頭からかぶっていたジェイコブだが、“Worms Will Feed”では更に大量の水をかぶり、彼が飛び跳ねるたびに水しぶきが飛ぶ。ここでジェイコブが「あと4曲演奏するよ」と言うと、客席からは「Six more」など思い思いの声が飛ぶ。しかし、ネイトがそれを制して「ノー! イチ・ニー・サン・シ」と日本語でMC。続いてジェイコブが「じゃあ、次の曲は……」と言って始まったのが“Axe To Fall”。この曲ではステージ袖から、オールド・マン・グルームのライヴを終えたケイレブもダイヴを決める。再びハンドクラップが巻き起こった“Empty On The inside”、これぞコンヴァージの醍醐味と言える豪速ナンバー“Eagles Become Vultures”、そしてジェイコブは高々と人差し指を掲げ、残り1曲、本編ラスト・ナンバーとして始まったのは『Jane Doe』からの“The Broken Vow”。今度はアーロンがダイヴを決め、あっという間に終わってしまう。そして、アンコール。またもやギターのカートが最初に姿を現し、ベンは満面の笑みで客席に向かって手を振ってみせる。最後の最後に演奏されたのは“First Light / Last Light”。ここまで約1時間のライヴだったが、最後に最大のキレをサウンドで見せるからすごい。ジェイコブは最後にマイクを天井に向かって投げ、だらりと1本マイクが天井からぶら下がる光景と共にライヴは終わった。

おそらく、この日、渋谷クラブクアトロに集まった人たちは、コンヴァージが「世界最強」であることを十分に理解している人たちだったと思う。しかし、そうした地位を築きながら、それでもカートのギターに象徴的なように更に進化しようとしていること、それが何よりも感動的なライヴだった。『Jane Doe』というシーンを代表するような傑作を持ちながら、カオティック・コアのシーンを超えて音楽的に進化を遂げようとする姿勢は、今回のライヴでも貫徹されていた。演奏を終えた後も、しきりに最前列のオーディエンスと握手をしているジェイコブの姿を見ながら、そんなことを考えた。(古川琢也)

1. Heartache
2. Concubine
3. Dark Horse
4. Heartless
5. Aimless Arrow
6. Trespasses
7. Bitter and Then Some
8. All We Love We Leave Behind
9. Sadness Comes Home
10. Locust Reign
11. Glacial Pace
12. Cutter
13. Worms Will Feed
14. Axe To Fall
15. Empty On The Inside
16. Eagles Become Vultures
17. The Broken Vow
(encore)
18. First Light / Last Light
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