「幼馴染みの4人は羽田空港の近くにライブハウスを作ってーー」……開演前、往年のファミコン風にデザインされたメンバー4人のキャラとテロップの解説でバンドの歩みを振り返る映像がヴィジョンに流れていく。そのテロップが、「僕ららしくって何だろう?」「いつの間にか音楽は仕事になっちゃってたんだなあ」と、ものすごいスピードでシーン最前線に至った自分たちの葛藤を映し出す。そして「僕ららしくっていうのは、僕らが作ってくものじゃないか」「過去の自分を殺すんだ!」と、Fukase/Nakajin/Saori/DJ LOVEがそれぞれ「過去の自分」に鉈を打ち込み、ステージへと向かう――というストーリーをそのまま引き継いで、返り血で染まった白い衣装で舞台に現れた4人。「みなさんこんばんは! SEKAI NO OWARIです!」というNakajinのコールとともに突入した“スターライトパレード”の、一点の曇りもない高純度なポップ・ミュージックが、壮麗なまでのスケール感で鳴り響いていく。リストバンドの明滅が客席をテクニカラーに染めた“虹色の戦争”のアグレッシブなビート感で代々木を揺らしながら、「歌える?」と呼びかけて力強いシンガロングを巻き起こし「……いいね!」と満足げな表情をみせるFukase。単純に楽曲をセットリストに編み上げて「披露する」のではなく、アルバム・タイトルの通り、それらをひとつの巨大なエンターテインメントへと昇華する意欲とセンスが、あっという間に代々木第一体育館をSEKAI NO OWARIの空間に塗り替えてしまった。「ヴォーカル/ギター/ピアノ/DJ、ドラム&ベースなし」という異色なスタイルも、今や4人にとって唯一無二にして最強の武器になっていることがよくわかる。
「フランスに行く前に『Nakajinと私の髪の色が同じだからフランス人には区別がつかない』って言われて、『これでどうだ!』って金髪にしてしまいました!(笑)」とSaori。「2013年始まってから、ほんとにSEKAI NO OWARIは大変で。笑いあり、涙あり、ケンカあり……結構メンバーでもモメたりして。で、最終的に、うちのギターの中島真一がリーダーになりました! 今まではFukaseさんがリーダーだったんですけど……」と話すSaoriに「辞任しました(笑)。大暴れしたいと! 僕がリーダーやってると、物事進まないことも多くて。やめちまえ!と。常識なんて壊しちまえ!と(笑)」と答えるFukase。そして、「Nakajinがリーダーである理由」を描いたSaoriのイラストに、3人が集中砲火的にツッコんでいく図が、会場の温度をさらに上げていく。鳴っている音のスケール感と、MCでの4人のパーソナルな空気感とが、あまりに自然に共存していることには逆に驚くが、それもひとえに「理想の音楽スタイルを実現するためにバンドを組んだ」とか「バンド幻想に身を捧げた」とかではなく「まず仲間がいて、次に音楽がある」というSEKAI NO OWARIの基本思想の象徴的な場面と言えるだろう。
「強くなること」と「鈍感になること」は似ている、強くなりながら敏感にならなきゃいけない……インディーズ時代からからFukase/Nakajin/Saori/DJ LOVEの4人は来るべきその矛盾を予感していたし、自らの表現のスケールを急速に拡大する中で、実際にその命題に直面して苦悩してきた。「ほんとに、去年がすごく大変だったんですけど。2013年、『もう1回ゼロからのスタートをしよう』っていう話になって。気合い十分でやっております!」というSaoriの言葉からは、そんな葛藤すら乗り越えて邁進している4人の「今」がリアルに伝わってくる。そして、彼女が初めて作詞を手掛けた“花鳥風月”がやわらかく、しかし強靭なヴァイブをもって、客席の隅々まで広がっていく。
命のサイクルの意味をシリアスかつハード・エッジなサウンド越しに問いかける“生物学的幻想曲”の《ぐるぐるぐるぐる廻り永遠に繰り返していく》のフレーズに合わせて観客の頭上にタオルが渦を巻き、“illusion”でステージ中央に長く伸びた花道をアリーナ中央まで駆け出していくFukaseに高らかな歓声が巻き起こる。「空高く飛んでいく風船を追いかけてLOVEが空中浮遊(!)」という大仕掛けがあったり、「写真撮影OK」というこの日のライブのコンセプトをアピールするようにNakajinが「みんな、スマホ俺に向けて!」と花道を練り歩いたり、花道先端のセンター・ステージでNakajinがひとり“TONIGHT”をアコギで弾き語るところに他の3人が加わって、Saoriのピアニカ&DJ LOVEのカホンとともにアンプラグド・ライブ状態になったり、そのままセンター・ステージで通常セットに切り替えてパワフルに響かせた“青い太陽”では4人を取り囲むようにリストバンドが青く輝いたり……「ショウ」としての演出と「表現」の真摯さが、1mmも矛盾することもズレることもなく、壮大な歓喜を生み出していく。
「珍しく声嗄れちゃった……」とFukaseもこぼしていた通り、4人が情熱の最後の一滴まで振り絞るような本編の熱演は“yume”そして“深い森”の圧巻のサウンドとともに終了。アンコールを求める観客のクラップと“スターライトパレード”合唱が鳴り響く中、ヴィジョンに映し出されたのはーー「SEKAI NO OWARI 初の野外イベント開催決定! 『炎と森のカーニバル』 10月12日(土)・13日(日) 富士急ハイランド?」の文字。感激と驚きの声が客席に渦巻く中、黒の衣装に着替えた4人が再登場。Fukaseの「僕が監修させてもらってやる感じなんですけど。僕の頭の中が爆発したものをやりたいなと。『富士急ハイランド?』ですよ(笑)」「宇宙船飛ばしたいって言ってるんですよ」という言葉に、割れんばかりの歓声が沸き上がる。
さらに、アンコールの“Fight Music”の後で「ここでひとつ告知があります!」とFukaseの口から飛び出したのは、「新曲CD出します! その名も『RPG』です!」の情報! 昨年7月のアルバム『ENTERTAINMENT』以来となる新作シングル『RPG』(5月1日発売)のアナウンスに、会場の熱気がさらに高まったのは言うまでもない。そこですかさず新曲“RPG”へ! ミドル・テンポのパワフルなロック・ビートとともに《怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない》と突き上げる歌声が、そしてチャーチ・オルガンをフィーチャーしたトラックが繰り広げる荘厳な風景が、ひときわダイナミックな祝祭感をもって広がる。「いろいろあったけど、まあ……秋もやるしな。また会おう!」というFukaseの言葉とともに響かせた、正真正銘ツアー最後のナンバーは“インスタントラジオ”。リストバンドが客席を真っ白に輝かせ、疾走するリズムが会場丸ごと揺さぶっていく。すべての音が止んだ後、「ありがとうございました!」とオフマイクで叫んで一礼する4人に向けて、惜しみない拍手喝采がいつまでも降り注いだ。彼らが見せてくれるに違いない「その先」の次元のエンターテインメントを、どこまでも見ていたいーーそう思わせてくれる素晴らしいアクトだった。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.スターライトパレード
02.虹色の戦争
03.ファンタジー
04.天使と悪魔
05.死の魔法
06.不死鳥
07.花鳥風月
08.生物学的幻想曲
09.illusion
10.TONIGHT
11.青い太陽
12.世界平和
13.Love the warz
14.Never Ending World
15.幻の命
16.眠り姫
17.yume
18.深い森
Encore
19.Fight Music
20.RPG(新曲)
21.インスタントラジオ