昨年2月の来日からわずか1年での再来日を果たしたザ・ウェディング・プレゼントを観に渋谷O-Nestに行ってきた。2004年の再始動以降、彼らはアップトゥデートな活動と並行して自分達の過去を回想&再評価する試みを続けてきたバンドだ。その象徴的なイヴェントが、過去の作品を冠したレトロスペクティヴなライヴ・ツアーの数々で、2010年には名作『ビザーロ』(1989)の21周年を祝う再現ツアーを、そして昨年には彼らの最大のヒット作として名高い『シーモンスターズ』(1991)の21周年記念ツアーを回っている。
今回の来日もそんな彼らのレトロスペクティヴ・ツアーの一環である。初日となった昨夜はデビュー・アルバム『ジョージ・ベスト』(1987)の、そして今日は7インチコンピ『ザ・ヒット・パレード』の再現をメインに置いたスペシャル・ショウだ。2000年代以降、往年のバンドによる過去の名盤の再現ライヴは大きなトレンドになっており、ウェディング・プレゼントの他にも近年では元ザ・フーのロジャー・ダルトリーが『トミー』を、ヴァセリンズが『ダム-ダム』の再現するライヴで来日を果たしている。
ちなみに、これらの「再現ライヴ」には大きくふたつの傾向があると言っていい。ひとつはバンドにとって最も評価が高いor商業的に成功したアルバム=いわゆるバンドの「看板」たる作品を再現するもの、そしてもうひとつがバンドのデビュー・アルバム=いわゆるバンドの「原点」を再現するものだ。最も成功したアルバムの再現がある種客観的なロックの史実の再評価を促すものだとしたら、デビュー・アルバムの再現はもっとパーソナルな、バンドとファンの青春を共にプレイバックするような甘酸っぱいノリも魅力のひとつだろう。
『ジョージ・ベスト』の再現ライヴの舞台となったO-Nestは、そんな懐かしの同窓会のような雰囲気に包まれた一夜になった。ウェディング・プレゼントの『ジョージ・ベスト』と言えば筆者のような30代後半~のギター・ポップ・ラヴァーにとってはバイブルのような1枚であり、80年代後半のUKインディ・ロック、たとえば「C86」と呼称された箱庭のムーヴメントを含むあの時代のムードを象徴する1枚なわけだが、言わばナイーヴ極まりない青春のソレが25年近い歳月を経て今なお瑞々しく在り続けられるものか――という踏み絵の一夜でもあったと言っていい。
そして始まったショウの1曲目は“Yeah Yeah Yeah Yeah”だった。そう、この曲は94年のシングルで、もちろん『ジョージ・ベスト』収録のナンバーではない。この日の彼らのセットはまずは90年代~直近の『VALENTINA』(2012)からよりすぐったバラエティに富んだナンバーで前半を構成し、後半で一気に『ジョージ・ベスト』のナンバーを畳みかけるという二部構成になっていた。この二部構成スタイルがウェディング・プレゼントの25年に及ぶキャリアを地続きにすることで、私達オーディエンスもいきなりタイムマシンに乗って『ジョージ・ベスト』の時代にスリップするのではなく、今の自分達を顧みながら青春を並走できる格好だ。
超絶ソリッドなリフがフィーチャーされた“Yeah Yeah Yeah Yeah”、悠久のミッドテンポがO-Nestの狭いステージからはみ出すスケールを描き出した“Skin Diving”、そして思いっきりヘヴィなアレンジが加えられた“Blue Eyes”と、90年代の3曲がいきなりセピア色の懐古とは程遠いダイナミックなオープニングを演出する。ステージ上のデイヴィッド・ルイス・ゲッジは27年前と比べると恐らく1.5倍くらい恰幅のいいおっさん(御歳52)になっているが、枯れた感じは一切ない。むしろそのインテリハードコア親父みたいな風貌がどっしりした風格さえ漂わせている。また、その風格とはアンバランスに感じるほど彼のヴォーカルは今なお瑞々しい青年のそれで、そのギャップも最高だ。最高と言えば続く“Deer Caught In The Headlights”。最新作『VALENTINA』からのこのナンバーが度重なる転調を繰り返しながら先へ先へと突き進み、ここまでで最高の疾走感を演出していく。「瑞々しさ」とは時を止めて老いに抗うことではなく、やり続けていく、走り続けていく、その生き様の気迫にこそ宿るのだと証明するプレイだ。
そんな時系列ごっちゃのバラエティ・セットをエンディングに相応しいドラマティック・バラッド“Mystery Date”で〆たところで、いよいよ『ジョージ・ベスト』の再現ライヴへと突入していく。アルバムのトラックリストに準じて“Everyone Thinks He Look Daft”で幕開けた『ジョージ・ベスト』の再現は、それまでの9曲に比べると明らかにシンプルなラフスケッチ感が増してくる。しかし今聴くとそれは「ネオアコ」や「ギタポ」といったタームが持つ軟弱なイメージとは程遠い、むしろポスト・パンクの影響を色濃く残したソリッドなギター・ロック・チューンの集合体でもあったと分かる。ウェディング・プレゼントは小さな小さな内輪受けのムーヴメントで終わったC86界隈のバンドとしては例外的に90年代に入り成功を収めたバンドだったが、そんな彼らの出発点の普遍性を25年ぶりに再認識させられるセットだったのだ。
“All This And More”、“My Favoulite Dress”等、後のあのバンドやこのバンドの元ネタになったと言っても過言ではないクラシックスが間髪入れずにびゅんびゅんプレイされていく。昨年のヴァセリンズの『ダム-ダム』再現ライヴの時にも感じたけれど、ギター・ポップやローファイのシンプリシティは技巧や経験で取り繕えないぶん、楽曲の「地」の普遍性が勝敗を決するわけで、今回のウエディング・プレゼントの『ジョージ・ベスト』再現もまさにそういうものだった。最高のデビュー・アルバムの再現ライヴとは、過去の自分とあの青春を懐かしむのと同時に、自分の中で変わらぬ一本の軸、自分が愛し、これからも愛し続けていくだろう音楽の根っこを再確認させてくれるものだと言えるかもしれない。(粉川しの)
ウェディング・プレゼント @ Shibuya O-nest
2013.03.05