2年目の開催でよりワールドワイド/ジャンルレスな指向性のブッキングに挑み、相模湾を望む神奈川県の大型レジャー施設・大磯ロングビーチで48アワー・パーティ・ピープルたちを狂喜乱舞させたハシエンダ大磯フェスティヴァルの2日目(初日の模様ははこちらをどうぞ→http://ro69.jp/live/detail/81574)。夕刻から稼働する屋外最大規模のLONG BEACH STAGEのクライマックスは、MITOMI TOKOTOからアフロジャックへと連なる洋邦トップDJたちのリレーが現代型EDMの華々しいダンスの現場を生み出し、とりわけセンチメンタリズムと豪腕エレクトロ・サウンドの往復ビンタをひたすら繰り返すようなアフロジャックのパフォーマンスは、DJ卓と背景一面のLEDスクリーンを駆使したCGアニメーションのVJと相まって圧巻であった。
キャッチーな歌ものドラムンベースでPOOLSIDE STAGEを湧かせていた☆Taku Takahashiや、ルーツ寄りのスウィートなダブから強烈なダブステップのミックスへと移行するセットを自らの声で煽り立てるThe BK Soundらは、それぞれこの日ダブルヘッダー出演。滑らかで暖かいハウス・ミュージックが気持ちよく踊らせてくれた田中知之(FPM)はさすがの安心感で、一方には手元のプレイに集中しつつも時折オーディエンスの様子に眩しいスマイルを覗かせる鈴木亜美のEDMと、日本のメインストリーム・ポップに関わるアーティストたちの顔ぶれもあった。ハシエンダという伝説的なクラブを核にしつつ、2013年に大型ダンス・フェスを運営するという意味においては、このヴァラエティ豊かなブッキングは確かな成果を挙げていたはずだ。
そんな中で、英パンク/ニュー・ウェーヴ〜マッドチェスター・ムーヴメントへと続いたハシエンダ発信のカルチャーの物語を最も色濃く体現していたのは、かつてそのクラブを設立し運営していたレーベル=ファクトリー・レコーズがハシエンダに与えたカタログ・ナンバーFAC51を冠する屋内ステージ、FAC51 ARENAである。そういった物語を重苦しいと感じる参加者も中にはいるはずで、自由に音楽を楽しむための選択肢は与えられるべきだ。しかしだからこそ、暗がりの屋内で繰り広げられるFAC51 ARENAのパフォーマンスは、オルタナティヴなプライドに貫かれ、物語とプライドを媒介に狂気スレスレの興奮へと触れてしまうものだった。更に面白いのは、この2日目のFAC51 ARENAに、邦楽ロック・バンドが多くブッキングされていたことである。
午前11時にトップ・バッターとして登場したのは、先頃UKツアーも行ってきたという大阪出身のダンス・パンク5人組、DAMAGE。フロントマン=ATSUSHI SWANは傘をさして姿を見せ、鋭角なハンマー・ビートと不穏なシンセ・ベース、サイレンのようにけたたましく響き渡るシンセ・フレーズが響き渡る。そこから一気に、過剰な多幸感に満ち溢れたレイヴ・サウンドの中にオーディエンスを引き込んでしまうなど、現代的に解釈されたハシエンダ/ファクトリーからの音の影響を最も強く受け止めさせたのは、彼らだったかもしれない。硬質で男臭いテクノを鳴らし、セクシーな女性ダンサーを招き入れたブラジルのTITOに続き登場したのは、[Champagne]だ。ギラギラと煌めく高性能ロックンロールをまっすぐにぶつけ、“Rocknrolla!”や“Waitress, Waitress!”、“Cat 2”といった必殺ナンバーに加え、このところのツアーで披露していた新曲も披露。ラストの“starrrrrrr”までをオリジナル曲のみで駆け抜け、自分たちの持てるものを全力で投げ掛けることで敬意を表すといった印象の、潔さが前面に押し出された熱演であった。
デトロイト風のがっちりした低音と、彼らしい繊細な音作りが折衷されたケン・イシイの質実剛健なパフォーマンスには、他のステージに移動しようにも後ろ髪を引かれてならない。そしてFAC51 ARENAのトリ前という位置に登場したのが、the telephonesだ。石毛のハイトーン・ヴォイスが「ハシエンダー!!」と響き渡る以外は、いつもながらにぶっ飛んだハイ・ヴォルテージのテレフォンズなのだが、今回の出演にぴったりの曲ということで、リリースされたばかりの新作『Laugh, Cry, Sing…And Dance!!!』から“It’s Alright To Dance (Yes!!! Happy Monday!!!)”が披露された。気が利いていて最高だ。踊り狂いカウベルを打ち鳴らすノブだけでなく、石毛もトンボを切ってみせたりという激しいアクションのステージで、ディスコ・ヒッツのオンパレード。最後は「俺たちのDISCOはただのディスコじゃありません、魔法の言葉です!!」と、We Are DISCOコールを巻き起こしながらの“Love & DISCO”でフィニッシュ。彼らも己のスタイルをきっちり提示してみせた。邦楽ロック・バンド勢の大熱演は、より多くの外国人オーディエンスにも触れて欲しいものだった。
そしてピーター・フックに、ハッピー・マンデーズのロウェッタとベズ、SUGIURUMNが共演を果たすというトリである。ベズ、めちゃめちゃ元気だ。膝の動きが柔らかくてジャンプも高い。この並びから、テレフォンズのノブはハピマンにとってのベズなのだということを改めて痛感する。ノブはキーボードも演奏しているし、音楽的な貢献度が皆無と言われるベズとは違うように思えるかも知れないが、彼らのアクションはバンドにとって、最も身近な批評装置であり、モニターなのだ。ベズがヨタヨタぴょんぴょんと踊れる曲でなければハピマンではないし、ノブが暴れ回る曲でなければテレフォンズの曲にはならない。耳に聴こえる音以外のところにも、音楽はある。プライマル・スクリーム“カム・トゥギャザー”、つまりセカンド・サマー・オブ・ラヴの余韻を蘇らせるところから始まり、続いてハピマン“ステップ・オン”でソウル・シスター=ロウェッタが生コーラスを被せてくるという展開である。返す返すもハピマンの出演キャンセルが悔しくなってしまう。SUGIURUMNがトラック出しを行いロウェッタがオリジナル曲を披露するという一幕では、彼女の迫力の歌声が全開である。
ロウェッタの熱唱で盛り上がったところに、すかさず“ブルー・マンデー”を投下するフッキーが卑怯だ。いやしかし、この後のプレイにはフッキーの本気が感じられた。“ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート”に続いてアンダーワールドの“ボーン・スリッピー”、ホワイト・ストライプス“セヴン・ネイションズ・アーミー”に“24アワー・パーティ・ピープル”と、ベタでなりふり構わぬ名曲連打なのだが、触れる側としても1日の疲れがあるからかスイッチが入りやすくなっていて盛り上がる。ジョイ・ディヴィジョンにクラッシュ、ラモーンズといったパンク・ナンバーを畳み掛ける頃には、異様な狂騒空間が生み出されてしまっていた。床の上を転げ回っているオーディエンスまでが目に付き、どこからともなく沸き上がった「マンチェスター」コールで幕切れを迎える。直後に外の通路でばったりと出くわしたフッキーの肩を叩きながら挨拶を交わすと、彼のシャツはまるでプールに浸ったみたいに汗でびしょ濡れだった。
昨年の第1回開催には、ハシエンダの開業から30周年という物語があった。これがイヴェントとして継続するにあたり、かつてのマッドチェスターが現代の世界のダンス・カルチャーやロックと積極的に接続してゆくというアイデアが持ち込まれた。その決断は素晴らしいし、世代と嗜好を越えた交流の場がもたらされることは大切だ。ただ、広がりゆく交流の同心円の、その重心にあるものがハシエンダである限り、いつかは向き合わなければならないのが、ピーター・フックとバーナード・サムナーたちの確執の解消、そしてニュー・オーダーの出演、あわよくばフッキーのバンド復帰、ということに思いを馳せてしまう。ハッピー・マンデーズのリヴェンジ出演と併せて、いつかそんな物語が生まれる日を望まずにはいられない。(小池宏和)
ハシエンダ大磯フェスティヴァル 2013 (2日目) @大磯ロングビーチ特設屋内/屋外会場
2013.04.28