ライヴの冒頭のシーンが印象的だった。デイヴィッド・リー・ロスをヴォーカルに迎えた編成では1979年以来33年振りの来日となったヴァン・ヘイレン。昨年6月に11月に来日公演を行うことを発表するものの、エディ・ヴァン・ヘイレンが大腸憩室炎の緊急手術を受けたために延期。仕切り直して、ようやく実現したのが今回の公演になる。つまり待望の来日公演だったわけだが、その幕開けはあまりにも呆気ないものだった。
2階席はまばらなものの1階席まではビッシリと埋まった東京ドーム、まだ席への移動も慌ただしい19時10分頃だったろうか、歓声がするのでステージに目をやると、まだ客電が点いているのに、アレックスがドラム・セットに座っている。と思ったら、場内が暗転。息子のウルフギャング・ヴァン・ヘイレン、デイヴィッド・リー・ロス、エディ・ヴァン・ヘイレンがつかつかとステージに入ってきて、デイヴが客席に「Are you Ready?」と一声をかけて、名古屋公演と同じ“Unchained”からライヴがスタートする。演出や小細工は一切なし。ドームにもかかわらず、まるでライヴハウスでやるかのように飾り気なくライヴは始まってしまう。そして、ウルフギャングのベースラインから始まった2曲目では、早くも代表曲の一つである“Runnin' with the Devil”が演奏される。客席からはシンガロングが巻き起こり、デイヴは歌詞に「Tokyo」のフレーズを盛り込んでみせる。
素っ気ないと言えるほどのオープニングもそうだが、とにかく今回のパフォーマンスで徹底されていたのは、スタジアムという舞台でありながら、4人のプレイヤビリティだけで正面から勝負するということ。ステージのバックドロップは一面スクリーンになっているものの、ほぼ固定のカメラが追うだけで、舞台装置や変わった趣向はほとんどない。これだけのキャリアを持つバンドであれば、そうしたことはいくらでも可能なはずだが、それをしないところに、生身の演奏でこそ勝負するというバンドの矜持が透けて見える。なので、名古屋公演では演奏されなかった“I’m the one”などでは、ギターのヴォリュームが大きいあまり、サウンドのバランスが崩れそうになったりする場面もあったのだが、続く最新作『ア・ディファレント・カインド・オブ・トゥルース』からの“Tattoo”でしっかりと持ち直してみせる。
そして、やはり目を瞠ったのは、デイヴィッド・リー・ロスのフロントマンとしてのキャラクター性だ。常にバンダナを手に持っていたり、突然ハンチング帽を被り出したり、カメラに向かって何度もポーズを決めたり、とにかく落ち着きがないのだが、それがこの反射神経の賜物であるヴァン・ヘイレンというバンドを象徴している。今回のツアー前にも日本に滞在していたということで、いろんな日本語を覚えていて、“Everybody Wants Some!!”のブレイク部では「ニホンゴガヘタデスミマセン。ニホンゴガヘタ“クソ”デスミマセン。ナニヲカンガエテイタンダ?」というMCも披露。まったく脈絡が読めないのだが、それが実にヴァン・ヘイレンらしい。
髪を後ろに結び、さっぱりとした服装に身を包んだエディは、前半は手術の影響があるのか心配になったが、最新作からの“China Town”ではバキバキのイントロを親子で繰り出していたし、“(Oh) Pretty Woman”“You Really Got Me”といったクラシックでは、実に楽しそうに演奏していて、笑顔も確認することができた。全盛期の頃とはやっぱり違うし、ミスタッチも少なくなかったが、それでもヴァン・ヘイレンのサウンドの反射神経と強度を担うのは、エディのギターであり、その点ではドームというサイズの会場でも十分に機能していた。なかでも“Dance the Night Away”“I'll Wait”“And the Cradle Will Rock...”といったアッパーなナンバーの連打から突入した“Hot For Teacher”は最高で、そのギター・サウンドがもたらす高揚感は時代を超えた圧倒的な普遍性を湛えていたと言っていい。
“Romeo Delight”の後には再びデイヴによる日本語のMC「石の上にも三年。おつかれさまです。ありがとうございます。私にできることがあればお申し付け下さい」が飛び出し、“Mean Street”ではエディが壮絶なライトハンドを披露。そして、“Beautiful Girls”ではコーラスでシンガロングが沸き起こったのだが、この後に、この日の公演で数少ない演出が待っていた。それは事前にデイヴィッド・リー・ロスのサイトでも公開されていた動画『外人任侠伝~東京事変~』の上映。映像はこちらでも観ることができる。
「いちごみるく」の場面でドームを笑いが包み、一体何のための動画なのかさっぱり分からないままショウは再開され、デイヴがアコギを持って一人で登場し、「ヤキイモ、カキゴオリ、アイスクリーム」というMCから“Ice Cream Man”の弾き語りに突入していく。1コーラス終わったところで他のメンバーも参加したのだが、終盤に来て、さらに音がエネルギッシュになっているのに驚かされる。その勢いのまま鉄板のアンセム“Panama”になだれ込み、会場はパナマの大合唱。ドラム・セットの前に座って披露され、どこか感動的だったエディのギター・ソロ、ヴァン・ヘイレンのギター・サウンドの偉大さをそのまま物語る名曲“Ain't Talkin' 'bout Love”、そして、ドームに銀テープが舞った“Jump”でライヴは終わった。トータルぴったし2時間。デイヴィッド・リー・ロスのヴァン・ヘイレンとしては33年ぶりということもあって観客の年齢層は高かったが、手術からの復帰明けとは思えない、現役としての存在感を見せつけるには充分なライヴだった。まだ日本ツアーは大阪の2公演が残っているので、若い人にもぜひ観てもらえたらと思う。(古川琢也)
1. Unchained
2. Runnin' with the Devil
3. She's the Woman
4. I’m the one
5. Tattoo
6. Everybody Wants Some!!
7. Somebody Get Me a Doctor
8. China Town
9. Hear About It Later
10. (Oh) Pretty Woman
11.Drum Solo
12. You Really Got Me
13. Dance the Night Away
14. I'll Wait
15. And the Cradle Will Rock...
16. Hot for Teacher
17. Women in Love...
18. Romeo Delight
19. Mean Street
20. Beautiful Girls
21. Ice Cream Man
22. Panama
23. Guitar Solo
24. Ain't Talkin' 'bout Love
25. Jump
ヴァン・ヘイレン @ 東京ドーム
2013.06.21