まるで氷柱のようにメンバー1人1人を囲んで照らし出すライティングとともに、アルバム『this』の幕開けを飾る“プレイヤー”のメランコリックなメロディが広がり、やがてバンドのアンサンブルが1音1音と熱を帯びるほどに、痺れるような快感と戦慄にも似た高揚感が身体に広がっていく—―前作『plenty』から約1年3ヵ月ぶりとなる新作アルバム『this』を引っ提げて、6月2日・松山サロンキティから全国15ヵ所を回ってきた『plenty 2013年 梅雨 ワンマンツアー』も、この渋谷公会堂2DAYSの2日目をもってグランド・フィナーレ。昨年の『plenty 2012年 秋 ワンマンツアー』でも見せつけていたバンドとしての音の肉体性がさらに露になって、広大な会場を力強く、鮮やかに支配していく。最高のステージだった。
鉄壁のサポート・ドラマー=中畑大樹との信頼感に加え、今回のツアーで獲得していた「肉体性」の大きな要因はやはり、辣腕ギタリスト=ヒラマミキオを迎えての4人編成で繰り出すサウンドだろう。3月の中畑大樹主催イベント『サポート以上、恋人未満』でもこの4人で舞台に立っていて、とても下北沢GARDENとは思えないスケールの音を“ACTOR”や“人との距離のはかりかた”などで響かせていたplenty。キャパ2000人を越える渋谷公会堂で、江沼郁弥&ヒラマのWギターで鳴り渡る“ACTOR”の鮮烈なダイナミズムには身体の芯から震えたし、その強靭なアンサンブルと絡み合いながら高々と伸び上がる江沼のハイトーン・ヴォイスは過去最高レベルの妖しさと美しさを帯びたものだった。
たとえば“まだみぬ君”のミドル・テンポのアンサンブルの中で、江沼の歌が水面のようにキラキラと乱反射する瞬間。たとえば“fly&fall”の緻密なギター・タペストリーを貫いて翔ぶ、ラストの美麗ファルセット……アルバム『this』に結晶した珠玉の言葉とメロディと想いが、確かな肉体を伴って、僕らの前に立ち現れている。そのことが、何より嬉しかった。もちろん、オーディエンスが満場のクラップやシンガロングで応えるようなライブとは、plentyのアクトは一線を画してはいるが、彼らが4人で鳴らす音がひときわ強烈な熱量を1人1人の中に静かに呼び起こしていることは、緊迫感と悦楽が渾然一体となった会場の空気からもリアルに伝わってくる。
特に後半、赤黒くうねるハード・バラード“ETERNAL”をさらに燃え上がらせる江沼の熱唱、そして“砂のよう”で身体を振り絞るようにして歌い上げる姿は、それ自体が今までのplentyのライブとは異なる強烈なヴァイタリティを感じさせるものだった。それは取りも直さず、より確かな手応えと生々しい質感に満ちた4人編成での表現が偶然でも何でもなく、plenty自身の変化と進化への欲求によって生まれたものであることを如実に物語っていた。舞台上にセットされたカメラの映像とともに躍動感あふれるサウンドを聴かせた“劣勢”。炎の映像をバックに、呪術のようなロックンロールを展開した“或る話”……それこそ決定的瞬間だけをつなぎ合わせたような演奏に、誰もが魅入られたようにステージを凝視している。江沼の歌い放つメロディとギター・サウンドの輝きがステージを真っ白に染め上げた“手のなるほうへ”。水底の映像と共鳴するような音像がオーディエンスの心に深く沁み入った“よろこびの吟”。濃密な余韻を残したまま、4人はステージを去っていった。
本編ではひと言ふた言程度しか口を開かなかった江沼、アンコールでは「ベースの新田がしゃべります!」と新田紀彰にMCを振って、自分は中畑&ヒラマとともにのんびりダベるようにステージに座ってみせる。「ツアー・ファイナル、ありがとうございます! 最終日……最後の最後に雨降りましたね(笑)」と新田。「またこういうところでできたらなと思いますので。その時はぜひよろしくお願いします!」の言葉に、高らかな拍手喝采が沸き上がる。その後を受けて、「ツアー・ファイナルということで、ぐるっと日本を行ったり来たりしたわけですけど」と客席に語りかける江沼。「泣いても笑っても今日が最後ということで……いや、まだ終わってないですから! それじゃ、何曲かやります。『やらせていただきます』ですね。失礼しました(笑)」と言いつつ、その表情にはこの日のライブの充実感が漂っている。
逆光の照明が不穏な美しさを醸し出した“東京”、《幸福なもんか この手で何を何を守れた 何を与えた》と鋭利な言葉で聴く者の胸を刺す“人間そっくり”……と楽曲を畳み掛けたアンコールの最後は“蒼き日々”。《どこでも行けると信じてたなら どこにも行けないはずはない》というフレーズが、plentyの絶え間ない進化と重なって胸に響いた。彼らの「その先」の世界を、もっともっと見ていたいーー観終わった瞬間にそう思わずにいられない、至上の一夜だった。そしてplentyは『ROCK IN JAPAN FES. 2013』最終日=8月4日(日)のSOUND OF FORESTに登場!(高橋智樹)
[SET LIST]
01.プレイヤー
02.ACTOR
03.DRIP
04.まだみぬ君
05.fly&fall
06.理由
07.後悔
08.からっぽ
09.あいという
10.ETERNAL
11.砂のよう
12.枠
13.劣勢
14.或る話
15.境|界|線
16.somewhere
17.手のなるほうへ
18.よろこびの吟
Encore
19.東京
20.待ち合わせの途中
21.人間そっくり
22.傾いた空
23.蒼き日々