8月半ばには英Vフェスティヴァルでのヘッドラインも決定しているわけで、ロンドンっ子にはこの夏KOLを体験するチャンスはまだ残っている。だがこの晩のショウは、なんとキャパ2000のホール会場。2008年以来、イギリスでの彼らのショウは①フェスのヘッドライナーもしくは②大アリーナと相場が決まっている。それがこうして肉眼でメンバーの表情が見れる距離の会場なんて……ちょっと信じられない話&ファンとしては涙ものの僥倖である。
もっとも、このスペシャル企画が実現したのはウェブ・ベースのコンサート・シリーズ「American Express Unstaged」のおかげだったりする。人気アーティストと映像作家による意欲的なコラボレーションを次々送り出し、音楽ファン注目!の同シリーズ(ジャック・ホワイト×ゲイリー・オールドマン、ザ・キラーズ×ヴェルナー・ヘルツォーク等。最近だとヴァンパイア・ウィークエンド×スティーヴ・ブシェーミが話題になりました)。その最新企画がこのKOLライヴ・イン・ロンドン……というわけで、フレッド・アーミセン(米コメディ・バラエティ番組の名門「Saturday Night Live」卒業生で人気コメディ「Portlandia」の共同クリエイターとしても有名)が監督したライヴ・ストリーミングを日本時間=朝6時起床でがんばってチェックしたファンの方、お疲れさまです!
プレミアムなショウならではの興奮&熱気に日中の暑さの名残りが混じる場内を、軽く揉みほぐしてくれたのはオープニング・アクトのホワイト・ライズ。KOLとも仲良しの彼らだが、最新作『Big TV』のリリースを月曜に控えた好タイミングということもあり、ニュー・シングルへの反応も上々。情感たっぷりなメロディとギター×エレ・ポップの英国らしいサウンドは健在でした。
しかしメイン・イベントはやっぱりこれ!というわけで、KOLの登場予定時刻:21時が迫るにつれてテンションが高まってくる。キーボード他を担当するサポート・メンバーを含む5人編成のセッティングは、このサイズの会場だとやや手狭に見える。しかし円形ライト3基+小型LEDスクリーンを背景に複数配しただけの簡素なステージは、「小細工なし」の印象を与える。
その生々しさ、そして物理的な近さとが相まって、イギリスにおける彼らのファン層の大多数=ロック・ミュージックを大音量で思いっきりエンジョイして発散したいタイプは、客電が落ちた途端にビールのカップを頭上に放り投げて喜びを表現するノリっぷり(笑)。その期待に違わずキック・オフは“The Bucket”で、カラッと抜けのいいビートの疾走を追ってフロアはたちまち沸騰、3階席まで総立ち状態になる。今ツアーで既にかなりの本数こなしているだけあって演奏の息の合い方は見事で、ジャレドのしなやかなベースを筆頭に、リチャージされたエネルギーが電流のように伝わってくるのはゾクゾクもの。
比較的コンパクトなショウだけあって、凝縮されたセット・リストは文字通り代表曲・ヒット曲の固め撃ち。“Closer”、“Crawl”のヘヴィ&&インダストリアルな2連打で見せつけた本格ロック・バンドの地力にうならされるが、アップビートな最新シングル“Supersoaker”で照明がカラフルに切り替わり、解放感たっぷりの極上なサマー・ポップに合わせて会場全体が手拍子に揺れ始める。
そこから先のステージとフロアとの一体感は、デビュー時からKOL人気が高くバンドにとっての「第二の故郷」とも言えるイギリスならでは。“Fans”のブレイクに肉団子状態になってステージに押し寄せる最前列客、声を振り絞って投げ返される「Pyro」のサビ・コーラスに嬉しそうな笑顔を返すケイレブ、ショウ中盤で最大級の合唱を引き出したアンセム“The Immortals”のスケール感――コール&レスポンスといいオーディエンスの曲の熟知ぶりといい、双方向の信頼感と愛情がショウをますます熱くしていく。
後半への折り返したとなったのは“Four Kicks”、“Molly’s Chambers”の初期曲で、ブルージィなロックンロールの鋭さはまったく衰えていない。続いたのは来るべき新作からこの晩もう1曲披露された“Don’t Matter”だったが、スペンサー・デイヴィス・グループの“I'm A Man”を若干彷彿させるグルーヴを独特にアレンジしていてなんとも新鮮、かつかっこいいトラック。アルバムごとにこうして音楽的な視界を広げているからこそ、KOLは結成から10年以上経った今も「現在進行形」の魅力を放つのだろう。
しかし真の意味でライヴが盛り上がるのはやはり人気定番曲の登場……というわけで、本編終了〜アンコールはこれでもか!と言わんばかりの「ベスト・オブ」選曲でのしてくれた。圧倒的な完成度でこのバンドのライヴ・パワーを再確認あっせられた“Be Somebody”、♪To Be There!のコーラスをお客がジャストに返す様があまりに美しかった“On Call”、“Knocked Up”では日頃の朴念仁なイメージを打ち破ってケイレブが腕ワイパーで場内を煽る(!)意外な光景も。そして本編オーラスは「待ってました!」なヒット曲“Use Somebody”。筆者がこのバンドに惹かれる要因は色々あるけれど、一見古典的なルーツ・ロック・バンドのように思えてこういう無条件にピュアなポップ・ソングを書いてしまう才覚――別に無理して会得したわけではなく、ファースト収録曲“California Waiting”からその天性のメロディ・センスは光っていた――は、やはり中でも大きい。
鳴り止まない拍手に応え、まずはパーカッシヴなビートと一糸乱れぬアンサンブル、一層味を増したケイレブのヴォーカルとがゴージャスそのものだった“Radioactive”でアンコール開始。いよいよこの晩最後にして最大の盛り上がりとなった“Sex On Fire”では再びビールのカップがフロアの上空を飛び交い、夏にぴったりなメロディに再び会場全体が酔いしれ、踊った。その勢いに乗ったまま突入した定番フィナーレ“Black Thumbnail”ではブルース・ジャムが存分に爆発し、ボディ・サーフするファンも登場するほど。汗だくながら満足そうな表情が印象的だったケイレブを始めメンバーもこのショウを楽しんだようで、シャイなマシューも笑顔でギター・ピックをファンにバラまいている。しかし一枚上手はネイサンで、ドラム・スティックを2階&3階席にまで遠投する強肩ぶりはさすが!兄貴であります。
よりリラックスし、FUNに満ちた内容……との前評判が伝わっている『メカニカル・ブル』だが、その新たなモードはこのショウからもばっちり伝わってきた。初期のショウにあったある種の無頼さは、若くライヴ経験が少ないゆえの頑さの裏返しでもあったと思う。ツアーを重ねることでそのハンデを克服していった彼らは、サード〜4th期でライヴ・アクトとして著しいブレイクスルーを果たした。しかし「見逃せないバンド」との評価を固めたこの時期の火花が散るようなテンション高い演奏は、「自らの正当性を証明しよう」とする気迫(=負けん気、とも言う)のあまり時に観客を圧倒するほどだった。
もちろん、今もバンマス=ケイレブの真剣さと完璧主義、このバンドの「音楽の良さで納得させる」姿勢は変わっていない。MCは最小限だったし、気のきいたトークで笑わせるわけでもなく、他の3人が観客に語りかけることもない。相変わらず無骨と言えば無骨な、一徹なロック・バンドだ。しかしこの晩の彼らには、眉間にシワを寄せて一級品のパフォーマンスに集中するだけではなく、聴き手に共有され、彼らの人生の一部になってきたKOLの音楽をオーディエンスと共にエンジョイし祝福しようという新たなオープンさ/積極性があった。そんな風にガードを下ろし始めた4人の成長を、「里親」ロンドンがあたたかく迎えた一夜だった。(坂本麻里子)
Kings Of Leon@O2 Shepherds Bush Empire, London
9August/2013
1.The Bucket
2.Notion
3.Closer
4.Crawl
5.Supersoaker
6.Fans
7.Back Down South
8.Pyro
9.The Immortals
10.Four Kicks
11.Molly’s Chambers
12.Don’t Matter
13.Be Somebody
14.On Call
15.Knocked Up
16.Use Somebody
Encore
17.Radioactive
18.Sex On Fire
19.Black Thumbnail