じん(自然の敵P)@ Zepp DiverCity

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「ライブ・イン・メカクシティ SUMMER'13

8月15日に、じん(自然の敵P)の手掛ける『カゲロウプロジェクト』の世界観をライブを味わうという、完璧な舞台設定。ステージ上には折れ曲がって立つ信号機や道路標識など、まさに『カゲプロ』な背景が用意されている。そしてフロアに詰めかけたのは、中高生はもとより小学生と思しき少年少女たちも目に付く、一様に期待感で目を輝かせたオーディエンスだ。この光景だけでも、じんというマルチ・クリエイターが今後のユース・カルチャーを担う人物であることがありありと伝わってくる。いよいよ開演時間を迎えると、ステージ下手に設置された「107」(!)の番号のついたドアが開き、フードで表情を隠したバンド・メンバーたちが姿を現す。筆者のような39歳のおっさんでさえ「おお、メカクシ団かっこいいー」と思わずにはいられない、メディアミックス・プロジェクトならではの強烈な物語性に引き込まれながら、ライブはスタートした。

オープニングのナレーションに続いて切り出されるのは、“カゲロウデイズ”だ。じんはステージやや下手寄りでギターを握り、中央ではゲスト・ヴォーカルとして招かれた松山晃太(バイザラウンド)がロック・ヴォーカリストとしての瞬発力を目一杯発揮しながら煽り立て、雄々しい歌声を上げる。どうして17時に開演するのだろうと思いながらお台場に向かったのだが、どう考えても《オレたちの永い永い「一日」》が始まる時間だからじゃないか。もっと早く気がつくべきだった。フロアでは視界一杯にサイリウムが振られ、じんが「ようこそ、メカクシティへ!」と挨拶する。彼のライヴを観るのは今回が初めてだったのだけれど、楽曲に至ってもプログラミングは必要最小限、大半の楽曲がダイナミックなバンド演奏で披露されてゆく。ステージ上のプロジェクターにはときに、『カゲプロ』のキャラクターたちがイラストで、或いはアニメーションPVで、躍動する。

松山とのトークも交えながら序盤の3曲をプレイすると、続いてはアイドル・ユニットのDorothy Little HappyからMARIを迎え、一転してキュートな歌声で“空想フォレスト”、“如月アテンション”、“夕景イエスタデイ”といった楽曲群が届けられる。“如月アテンション”は、『カゲプロ』のストーリー設定ではアイドルとして登場するキャラクターの歌なので、ヴォーカリストも適任。実を言うと僕は、子供の頃からアイドル文化にほとんど触れないまま育ってしまったので今日のアイドル・ブームにも今ひとつ乗り切れない寂しい大人なのだが、それでもこの曲がじん作品の中でとりわけ好きということは、やはり楽曲の魅力そのものに惹かれたからだろう。これが『カゲプロ』のメディアミックスの素晴らしさで、ストーリーやキャラクター、音楽と、多角的な魅力を入り口にプロジェクトを共有することが出来るのである。

奥井亜紀がじっくりとその歌唱力を発揮する一幕、じんは“シニガミレコード”で見事な鍵盤プレイも披露する。「キャラクターにとんでもないこと喋らせたりして、こいつ曲書くときそんなこと考えてたのか、みたいな。ご主人様、とか言わせて(じん)」「ああでもね、そこが才能の分かれ目なんやって。小説を書ける人はね、キャラクターが勝手に喋り出すんやって。だからね、そこがじん君の凄いとこなんよ(奥井)」といった興味深いトークも飛び出し、僅か2曲と言えど濃密な時間になった。そしてプロジェクター一杯にどアップで登場するキャラクターは、エネ。ここでこの日唯一のボカロ曲“人造エネミー”がプレイされる。じんのボカロPとしてのデビュー曲だ。左右のプロジェクターには所謂『アイマス』的なCGアニメーションのダンスが加わり、バンド演奏と共にエネというキャラクターに改めて命が吹き込まれるような、そんな手応えがあった。

じん(自然の敵P)@ Zepp DiverCity
“夜咄ディセイブ”からの3曲では、音楽ユニットGARNiDELiAの女性ヴォーカリスト、MARiAが登場。ツイン・ドラム編成となったアタック感の強いバンド・サウンドに負けず劣らず、パワフルなヴォーカルを届けてくる。彼女は「楽しいんだけど、修行みたいなんだよね」と語っていたし、バイザラウンドの松山は自宅近くのカラオケ店でひたすらじん作品を練習してきたと語っていたが、元々がボカロ曲として声域やブレスを念頭に置かず設計されたじん作品(そこがボカロ曲の面白さでもある)は、無理矢理歌いこなそうとするヴォーカリストも大変なのだろう。それを敢えて生歌でやってしまうところに、このライブの面白さはある。そして本編クライマックスは、ほえほえP(ボカロP)、そしてロック・バンドLyu:Lyuのコヤマヒデカズとしても知られるナノウを迎え、以前からの交流の中で「代々木公園まで歩いて、今の音楽業界はどうだみたいな熱い話を、太極拳やってるおっさんの横でしてて(笑)」といった若きアーティストたちの青春の一コマを振り返りながら共演を果たす。“サマーエンドロール”のナレーションに続く本編最後の曲は、ナノウとMARiAによるデュエットの“チルドレンレコード”だ。

アンコールに応えてからも、ゲスト・ヴォーカリストが入れ替わり立ち代わりの楽曲連打だ。じんが次に演奏する楽曲のタイトルを紹介したり、ナレーションやイントロによって演奏曲に気付くオーディエンスの若く鮮烈な歓声が凄まじい。一曲一曲の愛され方が尋常ではないのだ。ところが、楽曲はもとより『カゲプロ』の創造主であるはずのじんは、「ライブ前は、ギター上手い人が現れて、俺に任せろ、って言ってくれないかなって思ってたんですけど、やっぱりここで一緒にやれて良かったです」と、まるでゲスト出演者みたいなことを言っている。「まーだやってたんですかぁー? じゃあ、最後にみんなで盛り上がりましょう!」とエネの声が響き、キラキラとリボンが降り注ぐ中に披露されるのは“オツキミリサイタル”だ。

そして、ダブルアンコールで自ら“サマータイムレコード”を熱唱する前に、じんはこう語っていた。「今月末には小説の4巻も出ますけど、そういう宣伝はどうでも良くて。皆さんに何かエネルギーを届けていきたいなと……前から思ってたんですけど、最近特に思ってて。今日のライブのことは忘れてもいいですけど、このエネルギーのことは忘れないで、明日からの糧にしてください」と。希代のマルチ・クリエイターは、ただただ率直で、人間味に溢れた表現者であった。とは言え、動画サイトに始まり、音源作品、小説、コミック、そして『メカクシティアクターズ』としてのアニメ化も発表されている『カゲロウプロジェクト』は、まだまだ多くの人を魅了してゆくだろう。(小池宏和)

01. カゲロウデイズ  Vo. 松山晃太
02. メカクシコード  Vo. 松山晃太
03. 少年ブレイヴ  Vo. 松山晃太
04. 空想フォレスト  Vo. MARI
05. 如月アテンション  Vo. MARI
06. 夕景イエスタデイ  Vo. MARI
07. シニガミレコード  Vo. 奥井亜紀
08. アヤノの幸福理論  Vo. 奥井亜紀
09. 人造エネミー  Vo. エネ
10. 夜咄ディセイブ  Vo. MARiA(GARNiDELiA)
11. 群青レイン  Vo. MARiA(GARNiDELiA)
12. ヘッドフォンアクター  Vo. MARiA(GARNiDELiA)
13. コノハの世界事情  Vo. ナノウ
14. アウターサイエンス  Vo. ナノウ
15. チルドレンレコード  Vo. ナノウ+MARiA(GARNiDELiA)

encore
01. 透明アンサー  Vo. ナノウ
02. ロスタイムメモリー  Vo. 松山晃太
03. オツキミリサイタル  Vo. MARI

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01. サマータイムレコード  Vo. じん
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