all pics by 浜野カズシ7月31日に6年ぶりのオリジナル・アルバム『予襲復讐』をリリースしたマキシマム ザ ホルモン。そのリリースツアー初日となる、八王子MATCH VOX公演。キャパ250人というこのハコは、彼らの人気と動員力の高さを考えればまったく見合ってないわけで、ナヲちゃんはMCで「(今日のチケットは)倍率5億倍のプレミアもの」と冗談交じりに言っていた。しかし彼らのホームグラウンドであるこの場所ほど、『予襲復讐』ツアーの幕開けにふさわしい場所はない。1時間半にわたって壮絶さを極めたアクトを観終えて、真っ先に頭をよぎったのは、そんな想いだった。
全国56か所を、すべて対バン形式で回る予定の本ツアー。初日のゲストはONE OK ROCK。アリーナクラスの会場を超満員にする彼らに「今日はホルモンの前座に徹します!」(taka)と言わしめ、ヘヴィで硬質なロックで場内を早くも酸欠状態にしたところで、本日の主役・ホルモンが登場。SEに乗ってけたたましい客席からコールが巻き起こった時点で、もう異様としか言えないほどの熱気が渦巻いている。そしてナヲの激しいキック音を合図に一曲目へ。ツアー初日なので曲目の掲載は控えるが、たちまち響きわたるシンガロングと爆音の勢いに、鳥肌が抑えられなくなる。そこにはツアー初日ゆえの「迷い」とか「様子見」といったような意識は皆無。一心不乱にエネルギーをぶつけていく4人と、相当アルバムを聴き込んできたであろう一糸乱れぬコール&レスポンスとシンガロングをカマすオーディエンスが、完全に一体となって狂騒の彼方へ上り詰めていく。これがツアー終盤には、どれほどビルドアップされているのか。考えただけで恐ろしい。

何より驚いたのは、『予襲復讐』の楽曲群の殺傷力。亮君が言うところの「中学パワー」が全開になったこのアルバムでは、どの曲でも歌詞はさらに直接的でわかりやすく、サウンドはさらにダイナミックでクリアで生々しくなっていて、聴く者の深部にダイレクトに響くものになっているのだが、この日初めて生で聴くことにより、その測り知れないパワーを改めて実感することができた。地の底から轟く絶叫からエモーショナルなサビへと雪崩れ込む“予襲復讐”が描く、目も眩むほどの闇と光のコントラスト。その名の通り3コードのシンプルなハードコアパンクが爆走する“ロックお礼参り ~3コードでおまえフルボッコ~”の、すべての物をなぎ倒していくような凄まじい牽引力。すでにライヴで何度も披露されている“maximum the hormone”に至っては、この小さな会場が世界を揺るがす爆心地にでも化したかのような万能感と高揚感をもたらすとんでもない曲になっていた。その他にもドラッギーなビートで場内をダンス天国に導いた曲だったり、ヘドバンとモッシュを絶え間なく巻き起こした曲だったり、ナヲのキュートな歌声にフロア中の手が揺れた曲だったりと、すべての曲がハイライトと言えるほど濃密なアクトだったけど、詳細を明かせないのがもどかしい限り。ただひとつだけ言えるのは、新たなアルバムを手にした今のホルモンは、この6年間のブランクを埋めても余りあるほどに、尋常じゃないレベルまでパワーアップしているということだ。

そんな圧巻のパフォーマンスを前にして、気づけば場内は蒸し風呂状態。汗だくのナヲはMCの度に「本当にヤバい!」を連発し、「なんで初日を八王子MATCH VOXにしちゃったかなぁ」「おウチ帰りたい!」とボヤキ節。冷房全開でも一向に涼しくならない状態に業を煮やして、「MATCH VOXのスタッフの皆さん、お願いだからエアコンの掃除をしてください!」とか、ステージ袖で見守るワンオクの面々に「お前ら、扇風機の前で涼しい顔してんじゃねぇよ。一番涼しい所やんけ‼」と愚痴る始末。フロア最後方のエアコンの風が直で当たる場所にいた筆者でさえも、ライヴ序盤からダラッダラと噴き出る汗を止められず、途中からタオルで顔を拭くのすら止めてしまったほどでした。そんな状況なのに、手を抜くどころか逆に過剰になるぐらいのテンションで、次々と曲を連打していくメンバー。そして、それに狂喜乱舞するオーディエンス。しまいにはホール後方まで押し寄せたモッシュの波に筆者も呑み込まれてしまったわけだけど、ぐしょぐしょになりながら爆音を浴びる快感を、全身で感じずにはいられなかった。
終盤には恒例の「麺カタこってり」もバッチリ決まり、終始リミッター振り切れんばかりのテンションのまま幕を閉じたアクト。アンコールを終えて退場SEの“ロッキンポ殺し”が鳴り響くと、出口へ向かうオーディエンスの集団から一斉にコール&レスポンスが発生した。あれだけライヴで消耗しながら一体どこにそんなエネルギーが残っているのか。でも、これこそがホルモンのライヴなんだと思う。己の中に巣食う膿という膿を、激しさを極めた音楽によってドバーッと放出すること。それによってスッキリするどころか、さらに得体の知れない負のパワーがふつふつと沸き起こり、次なる絶叫の原動力となるということ。ホルモンの音楽はそんな連鎖の上に成り立っており、むしろますます攻撃性と破壊力を増していく。そしてだからこそ、聴き手にとって最高に効き目のある強壮剤であり続ける――恐るべき気迫でステージに臨むホルモンと、彼らのパフォーマンスを全身全霊で受け止めるオーディエンスの様子を至近距離で観て、そのメカニズムのすごさに改めて感服させられた。全国56か所を回るツアーは、まだ始まったばかり。ここからさらに勢いを増していくホルモンの「復讐劇」を、ぜひその目で見届けてほしい。(齋藤美穂)